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第1章 わたしの師匠になってください!
ノイとアルトの告白 1
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夕飯ができあがるまでの間、ツェツイと双子たちは居間でカードゲームに夢中になっていた。
ツェツイは魔術の修行の息抜きである。
「なあ、ツェツイ」
ツェツイのカードを引きながら、双子の片方がおもむろに口を開いた。
「ツェツイは俺たちの見分けがつくか? 俺はどっちだと思う?」
予想もしなかった突然の問いかけに、ツェツイはカードを持ったまま固まる。
あの……と、しどろもどろに言葉を濁し、ツェツイはぺこりと頭を下げた。
「ごめんなさい! 正直、どっちがノイで、どっちがアルトかいまだにわからないの。一緒にいて、もうずいぶんたつのにわからないなんて失礼だよね。ごめんね。怒るよね」
そろりと双子たちの様子をうかがうように顔を上げるツェツイに、ノイとアルトは顔を見合わせぷっ、と笑った。
「怒ってなんかないよ」
「怒るわけないだろ?」
「でも、ツェツイはほんと正直だな。そういうところが好きだけど」
「たいていの奴は見分けなんかつかないくせに適当に答えるんだぜ」
「その方が失礼だと思うだろ?」
「ていうか、困らせてごめんな」
「ううん。でも、ノイもアルトもほんとにそっくりだから」
「たぶん、兄ちゃんだって見分けがついてないかもな」
「それは言えてるな。それこそ、どっちでもいいとか」
などと笑ってはいるが、いくらなんでもそれはないだろう。
「なあ、ツェツイ」
なあに? とツェツイは再び首を傾げる。
「ツェツイは俺のこと好きか? あ、ちなみに俺はノイな」
「もちろん、ノイもアルトも大好き」
「だったら、大きくなったら俺と結婚しないか?」
「結婚! えっと、結婚って結婚?」
カードを引きながら、何でもない表情でさらりと言うノイに、ツェツイはおろおろとうろたえる。
「そう結婚だ。俺、超エリート魔道士になって、たくさん稼いでツェツイを幸せにする」
そこへ、アルトも負けじと身を乗り出してきた。
「俺もだ! 俺もツェツイがお嫁さんだったらいいなって思ってたんだ。俺は〝灯〟の頂点、長になる。ツェツイ、長のお嫁さんはどうだ?」
「はは、バカだなアルト。〝灯〟の長なんかになってみろ。毎日毎日仕事やら雑務やらに追われて家に帰ってくることもできなくなるんだぜ。父ちゃんがいい例じゃないか」
アルトがうっ、と声をつまらせた。
「父ちゃん、たまにしか家に帰ってこなくて、母ちゃんいつも寂しそうにしてるだろ?」
「だったら! 俺は大魔道士になる。そうすれば〝灯〟の厳しい規則だの何だのに縛られることなく自由気まままだ。それに、ツェツイと毎日一緒にいられるぞ。すっごい魔術だってツェツイに教えてやれる」
「自由気ままといえば、それこそまるで兄ちゃんみたいだな」
「兄ちゃんこそ〝灯〟の規則に縛られない自由人はいないな」
「そういう意味ではかっこいいと思うんだけどな」
「これで、魔道士として有能なら文句はないよな」
「大魔道士かあ」
と、ツェツイはぽつりとこぼす。
何だか話がすごいことになってきた……ような気がする。
「ツェツイは知ってるか? この世界にいる三大大魔道士のこと」
「もちろん知ってる! そのうちのひとりがこの国の出身なんだよね」
「そう! 刻を自由自在に操る、大魔道士パンプーヤだ。すげーよな」
「大魔道士パンプーヤは過去や未来にだって行くこともできるんだぜ」
「ノイもアルトも大魔道士様に会ったことある?」
あるわけないじゃん、と双子たちは声を揃えて言う。
「大魔道士パンプーヤは、人前には滅多に姿を見せないっていうしな」
「百歳は超えてるから、生きているかどうかも怪しいって噂もあるぞ」
三人が結婚の話から、大魔道士パンプーヤの話題で盛り上がっていたその時。
「やだ! ポテトサラダ作ろうと思ったのに、かんじんのじゃがいもがないじゃない!」
奥の台所から響くアリーセの声に、三人はびっくりして手持ちのカードを落とした。
「あ、アルトがジョーカー持ってたんだ」
ノイがにっ、と笑って床に散らばったカードを指差した。
「ああ!」
アルトは慌ててカードを拾い、ちぇっと唇を尖らせる。そこへ、深いため息とともにエプロン姿のアリーセが台所から現れた。
「いもがなきゃ、どうしようもないな」
「かわりにかぼちゃサラダでもいいぞ」
「今日はどうしてもポテトサラダが食べたい気分なの。ねえ、あのバカはどこ?」
「兄ちゃんなら、いないぞ」
「そういや、見かけないな」
おそらくイェンに買い物を頼もうと思っていたのだろう。
けれど、その相手が家にいないことを知り、アリーセはまたもやため息をつく。
ツェツイもそういえばと、辺りをきょろきょろと見渡した。
夕方まで一緒に部屋で魔術の修行につき合ってくれたお師匠様だが、もうすぐ夕飯だからいったん休憩、と言った直後に姿を消した。
その後、双子たちとカードゲームに夢中になって特に気にもとめなかったのだが……。
「まったく、こういう時くらい役にたって欲しいもんだよ」
「兄ちゃんが家にいないのはいつものことだ」
「女といっしょだな。今夜は帰ってこないな」
「それもいつものことだな」
「兄ちゃんの夕飯はなしだ」
肩を揺らしていひひ、と笑う双子たちを、ツェツイはえ? という表情で見返す。
「お師匠様って、よく家を空けるの?」
「まあ、そんなんしょっちゅうだよ」
「今ならどっかの酒場にいるかもな」
ふーん、と表情を翳らせるツェツイにアリーセはちらりと視線を走らせる。
仕方ねえな、とノイが立ち上がった。
代わりに買い物に行ってくるつもりらしい。
「あの……あたし行ってきます」
「いいって、俺ひとっ走りしてくるからさ」
「なら俺も行く。ツェツイは家で待ってろ」
「いいんです。少しお散歩してこようかなって思っていたとこだし、お師匠様もそういう気分転換が必要だって言ってたから、あたしが行ってきます」
それに、お師匠様がどこに行ったのか気になるし。
それほど広くない町だ。
どこかの酒場をのぞけばお師匠様を見つけられるかもしれないと思ったから。
「だけど、そのお師匠様がこれじゃな」
「ほんとだな、困ったお師匠様だよな」
双子たちは肩を震わせ忍び笑った。
「じゃあ、三人で行こうぜ」
「だめです!」
「え? だめ?」
「どうしてだ?」
「それは……」
だって、ノイとアルトと一緒じゃお師匠様のこと探せない。
「それじゃあ、ツェツイにお願いしちゃおうかな。買ってきてくれる?」
「はい!」
じゃがいも代を渡されたと同時に、アリーセが耳元に唇を寄せてきた。
「帰ってくるの少し遅くなってもいいからね」
それはお師匠様を探してきてもいいという意味だ。
「あのバカ見つけたら必ず連れ戻してきてちょうだい。戻ってこなかったら殴り殺すわよってあたしが言ってたと伝えて」
ツェツイはくすりと笑い、大きくうなずいた。
「ツェツイ、母ちゃんに何言われたんだ?」
「何だよ、何こそこそ二人で話してんだ?」
「何でもないです! いってきまーす」
「ツェツイ、気をつけてね。頼んだわよ」
手を振るアリーセに任せてください、と元気よく答え、ツェツイは家を飛び出していった。
ツェツイは魔術の修行の息抜きである。
「なあ、ツェツイ」
ツェツイのカードを引きながら、双子の片方がおもむろに口を開いた。
「ツェツイは俺たちの見分けがつくか? 俺はどっちだと思う?」
予想もしなかった突然の問いかけに、ツェツイはカードを持ったまま固まる。
あの……と、しどろもどろに言葉を濁し、ツェツイはぺこりと頭を下げた。
「ごめんなさい! 正直、どっちがノイで、どっちがアルトかいまだにわからないの。一緒にいて、もうずいぶんたつのにわからないなんて失礼だよね。ごめんね。怒るよね」
そろりと双子たちの様子をうかがうように顔を上げるツェツイに、ノイとアルトは顔を見合わせぷっ、と笑った。
「怒ってなんかないよ」
「怒るわけないだろ?」
「でも、ツェツイはほんと正直だな。そういうところが好きだけど」
「たいていの奴は見分けなんかつかないくせに適当に答えるんだぜ」
「その方が失礼だと思うだろ?」
「ていうか、困らせてごめんな」
「ううん。でも、ノイもアルトもほんとにそっくりだから」
「たぶん、兄ちゃんだって見分けがついてないかもな」
「それは言えてるな。それこそ、どっちでもいいとか」
などと笑ってはいるが、いくらなんでもそれはないだろう。
「なあ、ツェツイ」
なあに? とツェツイは再び首を傾げる。
「ツェツイは俺のこと好きか? あ、ちなみに俺はノイな」
「もちろん、ノイもアルトも大好き」
「だったら、大きくなったら俺と結婚しないか?」
「結婚! えっと、結婚って結婚?」
カードを引きながら、何でもない表情でさらりと言うノイに、ツェツイはおろおろとうろたえる。
「そう結婚だ。俺、超エリート魔道士になって、たくさん稼いでツェツイを幸せにする」
そこへ、アルトも負けじと身を乗り出してきた。
「俺もだ! 俺もツェツイがお嫁さんだったらいいなって思ってたんだ。俺は〝灯〟の頂点、長になる。ツェツイ、長のお嫁さんはどうだ?」
「はは、バカだなアルト。〝灯〟の長なんかになってみろ。毎日毎日仕事やら雑務やらに追われて家に帰ってくることもできなくなるんだぜ。父ちゃんがいい例じゃないか」
アルトがうっ、と声をつまらせた。
「父ちゃん、たまにしか家に帰ってこなくて、母ちゃんいつも寂しそうにしてるだろ?」
「だったら! 俺は大魔道士になる。そうすれば〝灯〟の厳しい規則だの何だのに縛られることなく自由気まままだ。それに、ツェツイと毎日一緒にいられるぞ。すっごい魔術だってツェツイに教えてやれる」
「自由気ままといえば、それこそまるで兄ちゃんみたいだな」
「兄ちゃんこそ〝灯〟の規則に縛られない自由人はいないな」
「そういう意味ではかっこいいと思うんだけどな」
「これで、魔道士として有能なら文句はないよな」
「大魔道士かあ」
と、ツェツイはぽつりとこぼす。
何だか話がすごいことになってきた……ような気がする。
「ツェツイは知ってるか? この世界にいる三大大魔道士のこと」
「もちろん知ってる! そのうちのひとりがこの国の出身なんだよね」
「そう! 刻を自由自在に操る、大魔道士パンプーヤだ。すげーよな」
「大魔道士パンプーヤは過去や未来にだって行くこともできるんだぜ」
「ノイもアルトも大魔道士様に会ったことある?」
あるわけないじゃん、と双子たちは声を揃えて言う。
「大魔道士パンプーヤは、人前には滅多に姿を見せないっていうしな」
「百歳は超えてるから、生きているかどうかも怪しいって噂もあるぞ」
三人が結婚の話から、大魔道士パンプーヤの話題で盛り上がっていたその時。
「やだ! ポテトサラダ作ろうと思ったのに、かんじんのじゃがいもがないじゃない!」
奥の台所から響くアリーセの声に、三人はびっくりして手持ちのカードを落とした。
「あ、アルトがジョーカー持ってたんだ」
ノイがにっ、と笑って床に散らばったカードを指差した。
「ああ!」
アルトは慌ててカードを拾い、ちぇっと唇を尖らせる。そこへ、深いため息とともにエプロン姿のアリーセが台所から現れた。
「いもがなきゃ、どうしようもないな」
「かわりにかぼちゃサラダでもいいぞ」
「今日はどうしてもポテトサラダが食べたい気分なの。ねえ、あのバカはどこ?」
「兄ちゃんなら、いないぞ」
「そういや、見かけないな」
おそらくイェンに買い物を頼もうと思っていたのだろう。
けれど、その相手が家にいないことを知り、アリーセはまたもやため息をつく。
ツェツイもそういえばと、辺りをきょろきょろと見渡した。
夕方まで一緒に部屋で魔術の修行につき合ってくれたお師匠様だが、もうすぐ夕飯だからいったん休憩、と言った直後に姿を消した。
その後、双子たちとカードゲームに夢中になって特に気にもとめなかったのだが……。
「まったく、こういう時くらい役にたって欲しいもんだよ」
「兄ちゃんが家にいないのはいつものことだ」
「女といっしょだな。今夜は帰ってこないな」
「それもいつものことだな」
「兄ちゃんの夕飯はなしだ」
肩を揺らしていひひ、と笑う双子たちを、ツェツイはえ? という表情で見返す。
「お師匠様って、よく家を空けるの?」
「まあ、そんなんしょっちゅうだよ」
「今ならどっかの酒場にいるかもな」
ふーん、と表情を翳らせるツェツイにアリーセはちらりと視線を走らせる。
仕方ねえな、とノイが立ち上がった。
代わりに買い物に行ってくるつもりらしい。
「あの……あたし行ってきます」
「いいって、俺ひとっ走りしてくるからさ」
「なら俺も行く。ツェツイは家で待ってろ」
「いいんです。少しお散歩してこようかなって思っていたとこだし、お師匠様もそういう気分転換が必要だって言ってたから、あたしが行ってきます」
それに、お師匠様がどこに行ったのか気になるし。
それほど広くない町だ。
どこかの酒場をのぞけばお師匠様を見つけられるかもしれないと思ったから。
「だけど、そのお師匠様がこれじゃな」
「ほんとだな、困ったお師匠様だよな」
双子たちは肩を震わせ忍び笑った。
「じゃあ、三人で行こうぜ」
「だめです!」
「え? だめ?」
「どうしてだ?」
「それは……」
だって、ノイとアルトと一緒じゃお師匠様のこと探せない。
「それじゃあ、ツェツイにお願いしちゃおうかな。買ってきてくれる?」
「はい!」
じゃがいも代を渡されたと同時に、アリーセが耳元に唇を寄せてきた。
「帰ってくるの少し遅くなってもいいからね」
それはお師匠様を探してきてもいいという意味だ。
「あのバカ見つけたら必ず連れ戻してきてちょうだい。戻ってこなかったら殴り殺すわよってあたしが言ってたと伝えて」
ツェツイはくすりと笑い、大きくうなずいた。
「ツェツイ、母ちゃんに何言われたんだ?」
「何だよ、何こそこそ二人で話してんだ?」
「何でもないです! いってきまーす」
「ツェツイ、気をつけてね。頼んだわよ」
手を振るアリーセに任せてください、と元気よく答え、ツェツイは家を飛び出していった。
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