48 / 51
第47話:生徒会長
しおりを挟む
私は今、魔法学校の資料室である調べ物をしている。それは私たち地球人を召喚した魔法、そしてそのイレギュラーについて。
ここは、一般人や生徒は立ち入れないところなんだけれど、生徒会長となれば話は別。
かれこれ四時間はここの資料を読み漁っているけれど、めぼしいものは見つからない。
「……これも違うわね」
ふと窓に目を向けると、闇を光が食らいかけていた。
「もうすぐ、朝ね」
また、別の資料に目を落とす。
これは、歴代の転移勇者に関する記録だ。
しかし、三十九人と大規模な召喚が為されたのは今回が初めてだし、気になるところといえば、召喚人数が偶数が圧倒的に多いことくらいで、参考になりそうにはなかった。
ふと、妄想する。
もし、彼が私と一緒に転移していたら。
一緒に城を出て、旅をして、路銀を稼ぐために二人で冒険者なんかもいいかもしれない。万が一彼にそういう才能がなかったとしても、私が稼げば問題ないわ。
そして、生活に不自由がないくらいにお金が貯まったら、二人で式を挙げて、二人の愛を育んで、余生を過ごす。
彼の好きな肉じゃがを作ってあげたい。疲れて眠る彼の寝顔をじっくりと眺めたい。ずっと彼のそばにいたい――そして、彼を私に依存させたい。
彼の笑顔を見れるのは私だけ。
触れられるのは私だけ。
同じ空気を吸えるのは私だけ。
……まあ、それは不可能なんでしょうけど、もう一度あの日常……彼を貶めようとした連中はいらないけれど、あの日々が戻ればいいのに。
「――カ」
みんな、彼はもう死んだって言うけれど。
城の宮廷魔法士も、召喚時に確認できた魔力は三十九個だったと言うけれど。
根拠のない自信かもしれない。
それを妄信というのかもしれない。
それでも。
私は――姫草 遥は西宮 悠河が生きていると、信じて疑わない。
だってたぶん、悠河と私はこの世界で会っているもの――
「ハルカ!」
いつのまにか部屋に入ってきていた特徴的な水色の髪の子、ユーノの声で私の意識は引き戻される。
最近、時間があれば悠河との妄想をしているような気がする。
でも、空想のなかだけでも悠河といれるのなら、今はそれでいいかも。
思考をきりかえて、ユーノを見る。
「な、なにかしら」
「大丈夫ですか? ぼーっとしていたようですけど……最近徹夜も増えているみたいですし、一度休むことを勧めますよ」
「大丈夫よ、これくらい」
ユーノには悪いけど、早く出て行って欲しい。
この前の異変といい、魔族がなんらかの動きを見せていることは明らかだ。
勇者として在籍している私には、魔王討伐が命じられており、あまり時間がない。
いずれ討伐に駆り出される身である私には、一刻も早く悠河につながる手がかりが必要なのだ。
「それより、なんの用? 見ての通り、取り込んでるんだけど」
「わかってます。その取り込み中に伝えるのはさらに心苦しいのですが……ヴァージ王国から招集の命が出されました。『今すぐ来い』とのことです」
内心舌打ちする。
おそらく、今回の招集は魔王討伐に踏み切ったためだろう。
魔法士の卵がこぞって集まるここほど、魔法に関する資料が豊富なところはない。
王国の禁書庫などを漁ればなにかわかるかもしれないが、あの国王のことだから、自由にはさせてくれないはずである。
せめて、もう少しだけ猶予があれば目をつけていた資料を読みきれたのに……。
「最悪のタイミングね」
「もうすぐ終わりそうって言ってましたもんね」
「ええ……はぁ。また真田 正宗と顔を合わせないといけないと思うと、気落ちするわ」
「勇者たちのなかで最優って聞きますけど……そうなんですか?」
「ええ、いつもいい顔してるけど、性根は私たちのなかで一番腐ってると思うわ。そのくせ私によく絡んでくるし……それが悠河だったら大歓迎なのに……」
もし悠河だったなら、私は幸せでどうにかなっていた自信がある。
ユーノは、大変ですねと相槌を打ち、同情的な笑みを浮かべた。
「その、クソ野郎さんは今はどこにいるんですか? 優秀な人たちはみんなここに編入したって言ってましたけど、見た覚えがないんですよね」
「あぁ……隣の国のダンジョンで修行でもしてるんじゃないかしら。聖剣持ちだし」
この世界ではいちおう、聖剣持ちが勇者、その他が勇者の仲間、一行などと定義されている。形式的なものだけど。
「ヴァージ王国の隣っていうと……帝国ですね」
「ええ」
「大丈夫なんですか? 王国と帝国って仲悪かったはずじゃ」
「今は一大事だから、なりふり構ってられないんでしょ。あと、あわよくば勇者筆頭を取り込もうって魂胆もあるでしょうけど。国賓級の待遇だって聞いたわ」
丁重な扱いにつけあがって、増長してなければいいんだけど。
「ややこしいですね」
「ややこしいわね」
話もひと段落したので、再び資料を漁り始める。
まだ、出発まで多少の時間はあるはずなので、それまでに少しでも消化してやろう。
視線を切ったため、出て行くかと思われたユーノだが、そうはならなかった。
「私は……ハルカがそこまで執着する人物のことが気になります」
ユーノに視線を向けると、彼女の顔に影が差していた。というか、私のことを心配している様子だった。
悠河には劣るが、ユーノは大切な友人だ。まだ幼いけれども、人に気遣いができる心が綺麗な女の子。
その子に、なにも知らせずに心配ばかりさせているのも心苦しい。
この胸の苦しみも、誰かに話せば少しは楽になるかもしれない。
「そうね……あなたには、話そうかしら」
そうして私は、悠河と私の馴れ初めを語り始めた。
ここは、一般人や生徒は立ち入れないところなんだけれど、生徒会長となれば話は別。
かれこれ四時間はここの資料を読み漁っているけれど、めぼしいものは見つからない。
「……これも違うわね」
ふと窓に目を向けると、闇を光が食らいかけていた。
「もうすぐ、朝ね」
また、別の資料に目を落とす。
これは、歴代の転移勇者に関する記録だ。
しかし、三十九人と大規模な召喚が為されたのは今回が初めてだし、気になるところといえば、召喚人数が偶数が圧倒的に多いことくらいで、参考になりそうにはなかった。
ふと、妄想する。
もし、彼が私と一緒に転移していたら。
一緒に城を出て、旅をして、路銀を稼ぐために二人で冒険者なんかもいいかもしれない。万が一彼にそういう才能がなかったとしても、私が稼げば問題ないわ。
そして、生活に不自由がないくらいにお金が貯まったら、二人で式を挙げて、二人の愛を育んで、余生を過ごす。
彼の好きな肉じゃがを作ってあげたい。疲れて眠る彼の寝顔をじっくりと眺めたい。ずっと彼のそばにいたい――そして、彼を私に依存させたい。
彼の笑顔を見れるのは私だけ。
触れられるのは私だけ。
同じ空気を吸えるのは私だけ。
……まあ、それは不可能なんでしょうけど、もう一度あの日常……彼を貶めようとした連中はいらないけれど、あの日々が戻ればいいのに。
「――カ」
みんな、彼はもう死んだって言うけれど。
城の宮廷魔法士も、召喚時に確認できた魔力は三十九個だったと言うけれど。
根拠のない自信かもしれない。
それを妄信というのかもしれない。
それでも。
私は――姫草 遥は西宮 悠河が生きていると、信じて疑わない。
だってたぶん、悠河と私はこの世界で会っているもの――
「ハルカ!」
いつのまにか部屋に入ってきていた特徴的な水色の髪の子、ユーノの声で私の意識は引き戻される。
最近、時間があれば悠河との妄想をしているような気がする。
でも、空想のなかだけでも悠河といれるのなら、今はそれでいいかも。
思考をきりかえて、ユーノを見る。
「な、なにかしら」
「大丈夫ですか? ぼーっとしていたようですけど……最近徹夜も増えているみたいですし、一度休むことを勧めますよ」
「大丈夫よ、これくらい」
ユーノには悪いけど、早く出て行って欲しい。
この前の異変といい、魔族がなんらかの動きを見せていることは明らかだ。
勇者として在籍している私には、魔王討伐が命じられており、あまり時間がない。
いずれ討伐に駆り出される身である私には、一刻も早く悠河につながる手がかりが必要なのだ。
「それより、なんの用? 見ての通り、取り込んでるんだけど」
「わかってます。その取り込み中に伝えるのはさらに心苦しいのですが……ヴァージ王国から招集の命が出されました。『今すぐ来い』とのことです」
内心舌打ちする。
おそらく、今回の招集は魔王討伐に踏み切ったためだろう。
魔法士の卵がこぞって集まるここほど、魔法に関する資料が豊富なところはない。
王国の禁書庫などを漁ればなにかわかるかもしれないが、あの国王のことだから、自由にはさせてくれないはずである。
せめて、もう少しだけ猶予があれば目をつけていた資料を読みきれたのに……。
「最悪のタイミングね」
「もうすぐ終わりそうって言ってましたもんね」
「ええ……はぁ。また真田 正宗と顔を合わせないといけないと思うと、気落ちするわ」
「勇者たちのなかで最優って聞きますけど……そうなんですか?」
「ええ、いつもいい顔してるけど、性根は私たちのなかで一番腐ってると思うわ。そのくせ私によく絡んでくるし……それが悠河だったら大歓迎なのに……」
もし悠河だったなら、私は幸せでどうにかなっていた自信がある。
ユーノは、大変ですねと相槌を打ち、同情的な笑みを浮かべた。
「その、クソ野郎さんは今はどこにいるんですか? 優秀な人たちはみんなここに編入したって言ってましたけど、見た覚えがないんですよね」
「あぁ……隣の国のダンジョンで修行でもしてるんじゃないかしら。聖剣持ちだし」
この世界ではいちおう、聖剣持ちが勇者、その他が勇者の仲間、一行などと定義されている。形式的なものだけど。
「ヴァージ王国の隣っていうと……帝国ですね」
「ええ」
「大丈夫なんですか? 王国と帝国って仲悪かったはずじゃ」
「今は一大事だから、なりふり構ってられないんでしょ。あと、あわよくば勇者筆頭を取り込もうって魂胆もあるでしょうけど。国賓級の待遇だって聞いたわ」
丁重な扱いにつけあがって、増長してなければいいんだけど。
「ややこしいですね」
「ややこしいわね」
話もひと段落したので、再び資料を漁り始める。
まだ、出発まで多少の時間はあるはずなので、それまでに少しでも消化してやろう。
視線を切ったため、出て行くかと思われたユーノだが、そうはならなかった。
「私は……ハルカがそこまで執着する人物のことが気になります」
ユーノに視線を向けると、彼女の顔に影が差していた。というか、私のことを心配している様子だった。
悠河には劣るが、ユーノは大切な友人だ。まだ幼いけれども、人に気遣いができる心が綺麗な女の子。
その子に、なにも知らせずに心配ばかりさせているのも心苦しい。
この胸の苦しみも、誰かに話せば少しは楽になるかもしれない。
「そうね……あなたには、話そうかしら」
そうして私は、悠河と私の馴れ初めを語り始めた。
0
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説
その、向こう
どんぐり
BL
性奴隷が傭兵に助けられる話です。
ロアは全く関心がなかった。
セウは飽きてしまった。ーーー生きるという事に。
嗜虐趣味者の性奴隷として生きた長い長い年月。犯され続けたセウを助けたのは、強くなる事だけを求め続けた無口で無関心で無愛想な男だった。二人の間に生まれた少しの独占欲と依存、そしてその後。
愛を知るも、すれ違い、過去に翻弄される2人が、奇跡など一つもない世界で幸せになろうともがく。
寡黙強引混血獣人傭兵攻め、顰め面性奴隷美人エルフ受け。
R18濃厚 予告無く性描写や残酷な表現有り。
ハッピーエンド。
濃厚な性描写…※(固定:強面傭兵×美形エルフ)
残酷な描写…※※(凌辱モブ絡み等)
婚約も結婚も計画的に。
cyaru
恋愛
長年の婚約者だったルカシュとの関係が学園に入学してからおかしくなった。
忙しい、時間がないと学園に入って5年間はゆっくりと時間を取ることも出来なくなっていた。
原因はスピカという一人の女学生。
少し早めに貰った誕生日のプレゼントの髪留めのお礼を言おうと思ったのだが…。
「あ、もういい。無理だわ」
ベルルカ伯爵家のエステル17歳は空から落ちてきた鳩の糞に気持ちが切り替わった。
ついでに運命も切り替わった‥‥はずなのだが…。
ルカシュは婚約破棄になると知るや「アレは言葉のあやだ」「心を入れ替える」「愛しているのはエステルだけだ」と言い出し、「会ってくれるまで通い続ける」と屋敷にやって来る。
「こんなに足繁く来られるのにこの5年はなんだったの?!」エステルはルカシュの行動に更にキレる。
もうルカシュには気持ちもなく、どちらかと居言えば気持ち悪いとすら思うようになったエステルは父親に新しい婚約者を選んでくれと急かすがなかなか話が進まない。
そんな中「うちの息子、どうでしょう?」と声がかかった。
ルカシュと早く離れたいエステルはその話に飛びついた。
しかし…学園を退学してまで婚約した男性は隣国でも問題視されている自己肯定感が地を這う引き籠り侯爵子息だった。
★↑例の如く恐ろしく省略してます。
★8月22日投稿開始、完結は8月25日です。初日2話、2日目以降2時間おき公開(10:10~)
★コメントの返信は遅いです。
★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません
【短編集】エア・ポケット・ゾーン!
ジャン・幸田
ホラー
いままで小生が投稿した作品のうち、短編を連作にしたものです。
長編で書きたい構想による備忘録的なものです。
ホラーテイストの作品が多いですが、どちらかといえば小生の嗜好が反映されています。
どちらかといえば読者を選ぶかもしれません。
傲慢エルフと変態キメラ Vo1
鈴紐屋 小説:恋川春撒 絵・漫画:せつ
BL
独立魔導研究機関『ウロボロス』の調査員である『ガルフ』はエルフのくせに見た目がごつくて剣術と格闘が得意分野、おまけに強気で傲慢だという超変わり種エルフ。
性格が災いしてか、世界の何処に行ってもモテモテのはずのエルフなのに全然恋人が出来ない。
調査員の仕事である噂の真偽を調査すべく、チェチェイカ共和国にやってきた。
調査し始めて直ぐに出会ったのは戸籍のない娼夫の『マヤ』、マヤを一晩買ってすっかり気に入ってしまったガルフは自分の恋人になれと迫る。
ところがこのマヤ、ド変態のビッチだった。
マヤは言う
『どうせアンタだって、何かよく分からない事を言って、直ぐに僕の前からいなくなるんだ』
果たしてガルフの思いは叶うのか、マヤとは何者なのか。
ファンタジーラブコメのはじまりはじまり。
鋼の殻に閉じ込められたことで心が解放された少女
ジャン・幸田
大衆娯楽
引きこもりの少女の私を治すために見た目はロボットにされてしまったのよ! そうでもしないと人の社会に戻れないということで無理やり!
そんなことで治らないと思っていたけど、ロボットに認識されるようになって心を開いていく気がするわね、この頃は。
Lost Precious
cure456
BL
かつて『勇者』と呼ばれた青年レンと、『森の民』ダークエルフのリアン。決して交わらぬ種族の二人は、『冒険者』として共に旅をした。
過去から逃げ、未来に目を背け。ただ今日を生きる。
これは寄る辺なき者達の、冒険の物語である。
冤罪! 全身拘束刑に処せられた女
ジャン・幸田
ミステリー
刑務所が廃止された時代。懲役刑は変化していた! 刑の執行は強制的にロボットにされる事であった! 犯罪者は人類に奉仕する機械労働者階級にされることになっていた!
そんなある時、山村愛莉はライバルにはめられ、ガイノイドと呼ばれるロボットにされる全身拘束刑に処せられてしまった! いわば奴隷階級に落とされたのだ! 彼女の罪状は「国家機密漏洩罪」! しかも、首謀者にされた。
機械の身体に融合された彼女は、自称「とある政治家の手下」のチャラ男にしかみえない長崎淳司の手引きによって自分を陥れた者たちの魂胆を探るべく、ガイノイド「エリー」として潜入したのだが、果たして真実に辿りつけるのか? 再会した後輩の真由美とともに危険な冒険が始まる!
サイエンスホラーミステリー! 身体を改造された少女は事件を解決し冤罪を晴らして元の生活に戻れるのだろうか?
*追加加筆していく予定です。そのため時期によって内容は違っているかもしれません、よろしくお願いしますね!
*他の投稿小説サイトでも公開しておりますが、基本的に内容は同じです。
*現実世界を連想するような国名などが出ますがフィクションです。パラレルワールドの出来事という設定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる