16 / 51
第15話:果たし状
しおりを挟む
宿泊所の中は大賑わいだ。どうやら俺たちが最後に到着したらしく、他のクラスは食堂で夕食を囲っていた。調理のおばさんは俺たちを見るや否や厨房に駆けていき、飢えたクラスメート達はバイキングへ我先にと雪崩れ込んだ。
「ちょ、抜かすなよ!」
食事に慈悲などない!
俺の前に割り込んできたバカを蹴り出し、鼻を鳴らす。列から弾き出された少年はこちらをひと睨みして後列の方へ歩いていった。
「心せまっ!」
俺の後ろに並ぶアイラが何か言っているが、何も聞こえない。
「みんなお腹空いてるんだし一人くらい前譲ってあげてもいいじゃん」
なんで割り込みしたあの少年ではなく俺が責められているのだろうか?
「俺もお腹空いてるんだよ。なんだったらこの中の誰よりも空いてる自信がある」
「えぇ~、そんなに~?」
ジトっとした視線を感じるが、目を合わせると口論に負けてそうなので合わせない。
「そんなケチな人をあの子が許してくれるとは思えないけどな~?」
「うっ」
あの子とは、白髪の獣人の女の子である。
さっき、けもみみを触って嫌われた女の子である。
女の子には嫌われたくないので、どうにかして許してもらおうと思ってはいるが目に見える、いや、目が痛いくらいに拒絶されているため、間接的に少しでも好感度を上げておきたいのである。
なので、余計にアイラの一言が胸に刺さる。
「分かったよ……次は譲るよ」
「譲っちゃダメでしょ」
「確かに!?」
いつの間に洗脳されかけてたんだ!?
常識が改変されそうになっていた。一生アイラに勝てる気がしない。
「注意するくらいにしとくよ」
「そうだね、あっ、見て見てシアン! 凄く美味しそうっ」
新たな料理ができあがったらしく、アイラがバイキングに運ばれている品々を見てはしゃぐ。こういう時はとりあえず相槌を打っておけばなんとかなる。
「ほんとだね」
「ほらっ、あのケーキ美味しそうっ! あのお肉も食べたいなあ」
皿に並べられている料理は俺が空腹なのを除いてもどれもが一級品に見えた。まさに宝石箱や~である。
少し待って、俺たちの順番が来たので、各々が好きな料理を取り皿から選び、盛り付けていく。
どれもが美味しそうだったため、普段では食べきれそうにない量だったが疲れている今なら大丈夫だろう。
空いている席に腰を下ろし、盛り付けた料理に手をつける。
「うまっ!」
婆さんの料理も落ち着いた味で良かったが、ここのおばさんの濃い味付けの料理も堪らない。これじゃ足りないかもな、なんて思いつつ眼下の料理に舌鼓をうっていると、空席だった隣の席が埋まったのを視界の端で捉えた。
普通なら気にしないのだが、アイラの口が動いていないのと、ただでさえ狭いスペースでなお、俺から離れようとする動きが隣であった。
気になったので視線を上げてみると、例の少女がお隣失礼していた。
「ブホッ! ガホッゴホッ……」
不意打ちを食らってむせ返る。
いくら混んでいるとはいえ、まさか隣の席になるとは予想外である。他の席が空くまで待とうとは思わなかったのだろうか。
咳き込む俺を、少女は心なしか頬をほんのり赤くしてチラチラ見ている。
「……」
俺と少女の間に重苦しい空気が流れる。
やらかした手前、フランクに話しかけることも憚られるので、言葉に困る。
相手もだんまりなので、どうしようもない。
おかげで、美味かった料理も味が霞む。
助けを求めようとアイラを見ると、そこにアイラの影はなかった。
逃げやがった!
「こ、こほん」
隣から、気をひくための可愛い咳が聞こえた。
「ん?」
「え、えっと……これっ!」
少女は茶色の封筒を押し付けて、からっぽの皿を持って逃げるように去って行った。
「なんだったんだ……?」
封筒を見つめていると、アイラがこんもりと料理が盛られた食器を持って帰ってきた。
「あ、もう別れたんだ。何か進展はあったの?」
「手紙貰ったよ」
そう言って封筒を見せると、アイラは「見せて」と封筒を取り、中身を確認する。
「なになに……うっわ、大胆だねえ」
アイラが大きく目を見開いて呟くので、手紙の内容が一層気になる。
「何て書いてあるの?」
「えっとね。『最初の定期戦であんたを指名する。その時、あんたが勝ったら主人だって認めてなんでも言うこと聞いてやる。その代わり、私が勝ったらあんたが私の家来になること!』だって」
「うわぁ……」
非常に厄介なことになった。
自由でいるためには負けるわけにはいかない。しかし、ラークと戦っている時の動きは、このクラスにいるのがおかしいくらいのものだった。それと接戦を演じて下手に注目されると、後々厄介なことになりかねない。
「めんどくさい……」
「自分で蒔いた種だからねぇ」
この件に関しては、アイラは白髪の少女の味方なようで、いつもには見られない辛辣さである。
もしくは、俺はまだこの世界の価値観に馴染めていないので、その行為の捉え方に差異が出ているのかもしれない。
どちらにせよ、とりあえず勝つしかなさそうである。
勝って、適当な命令でもしてあやふやにしよう。
「食事が終わったら広間に集合してくれ、意見を交換したい」
騒々しいなか、ラークが声を張り上げているのを耳にして、皿に残った料理をかきこみ、アイラと共に広間へ向かおうと席を立った時、声をかけられた。
「ねえ、ちょっといいかしら?」
振り向くと、真剣な表情の遥が俺を見つめていた。
「ちょ、抜かすなよ!」
食事に慈悲などない!
俺の前に割り込んできたバカを蹴り出し、鼻を鳴らす。列から弾き出された少年はこちらをひと睨みして後列の方へ歩いていった。
「心せまっ!」
俺の後ろに並ぶアイラが何か言っているが、何も聞こえない。
「みんなお腹空いてるんだし一人くらい前譲ってあげてもいいじゃん」
なんで割り込みしたあの少年ではなく俺が責められているのだろうか?
「俺もお腹空いてるんだよ。なんだったらこの中の誰よりも空いてる自信がある」
「えぇ~、そんなに~?」
ジトっとした視線を感じるが、目を合わせると口論に負けてそうなので合わせない。
「そんなケチな人をあの子が許してくれるとは思えないけどな~?」
「うっ」
あの子とは、白髪の獣人の女の子である。
さっき、けもみみを触って嫌われた女の子である。
女の子には嫌われたくないので、どうにかして許してもらおうと思ってはいるが目に見える、いや、目が痛いくらいに拒絶されているため、間接的に少しでも好感度を上げておきたいのである。
なので、余計にアイラの一言が胸に刺さる。
「分かったよ……次は譲るよ」
「譲っちゃダメでしょ」
「確かに!?」
いつの間に洗脳されかけてたんだ!?
常識が改変されそうになっていた。一生アイラに勝てる気がしない。
「注意するくらいにしとくよ」
「そうだね、あっ、見て見てシアン! 凄く美味しそうっ」
新たな料理ができあがったらしく、アイラがバイキングに運ばれている品々を見てはしゃぐ。こういう時はとりあえず相槌を打っておけばなんとかなる。
「ほんとだね」
「ほらっ、あのケーキ美味しそうっ! あのお肉も食べたいなあ」
皿に並べられている料理は俺が空腹なのを除いてもどれもが一級品に見えた。まさに宝石箱や~である。
少し待って、俺たちの順番が来たので、各々が好きな料理を取り皿から選び、盛り付けていく。
どれもが美味しそうだったため、普段では食べきれそうにない量だったが疲れている今なら大丈夫だろう。
空いている席に腰を下ろし、盛り付けた料理に手をつける。
「うまっ!」
婆さんの料理も落ち着いた味で良かったが、ここのおばさんの濃い味付けの料理も堪らない。これじゃ足りないかもな、なんて思いつつ眼下の料理に舌鼓をうっていると、空席だった隣の席が埋まったのを視界の端で捉えた。
普通なら気にしないのだが、アイラの口が動いていないのと、ただでさえ狭いスペースでなお、俺から離れようとする動きが隣であった。
気になったので視線を上げてみると、例の少女がお隣失礼していた。
「ブホッ! ガホッゴホッ……」
不意打ちを食らってむせ返る。
いくら混んでいるとはいえ、まさか隣の席になるとは予想外である。他の席が空くまで待とうとは思わなかったのだろうか。
咳き込む俺を、少女は心なしか頬をほんのり赤くしてチラチラ見ている。
「……」
俺と少女の間に重苦しい空気が流れる。
やらかした手前、フランクに話しかけることも憚られるので、言葉に困る。
相手もだんまりなので、どうしようもない。
おかげで、美味かった料理も味が霞む。
助けを求めようとアイラを見ると、そこにアイラの影はなかった。
逃げやがった!
「こ、こほん」
隣から、気をひくための可愛い咳が聞こえた。
「ん?」
「え、えっと……これっ!」
少女は茶色の封筒を押し付けて、からっぽの皿を持って逃げるように去って行った。
「なんだったんだ……?」
封筒を見つめていると、アイラがこんもりと料理が盛られた食器を持って帰ってきた。
「あ、もう別れたんだ。何か進展はあったの?」
「手紙貰ったよ」
そう言って封筒を見せると、アイラは「見せて」と封筒を取り、中身を確認する。
「なになに……うっわ、大胆だねえ」
アイラが大きく目を見開いて呟くので、手紙の内容が一層気になる。
「何て書いてあるの?」
「えっとね。『最初の定期戦であんたを指名する。その時、あんたが勝ったら主人だって認めてなんでも言うこと聞いてやる。その代わり、私が勝ったらあんたが私の家来になること!』だって」
「うわぁ……」
非常に厄介なことになった。
自由でいるためには負けるわけにはいかない。しかし、ラークと戦っている時の動きは、このクラスにいるのがおかしいくらいのものだった。それと接戦を演じて下手に注目されると、後々厄介なことになりかねない。
「めんどくさい……」
「自分で蒔いた種だからねぇ」
この件に関しては、アイラは白髪の少女の味方なようで、いつもには見られない辛辣さである。
もしくは、俺はまだこの世界の価値観に馴染めていないので、その行為の捉え方に差異が出ているのかもしれない。
どちらにせよ、とりあえず勝つしかなさそうである。
勝って、適当な命令でもしてあやふやにしよう。
「食事が終わったら広間に集合してくれ、意見を交換したい」
騒々しいなか、ラークが声を張り上げているのを耳にして、皿に残った料理をかきこみ、アイラと共に広間へ向かおうと席を立った時、声をかけられた。
「ねえ、ちょっといいかしら?」
振り向くと、真剣な表情の遥が俺を見つめていた。
0
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説
その、向こう
どんぐり
BL
性奴隷が傭兵に助けられる話です。
ロアは全く関心がなかった。
セウは飽きてしまった。ーーー生きるという事に。
嗜虐趣味者の性奴隷として生きた長い長い年月。犯され続けたセウを助けたのは、強くなる事だけを求め続けた無口で無関心で無愛想な男だった。二人の間に生まれた少しの独占欲と依存、そしてその後。
愛を知るも、すれ違い、過去に翻弄される2人が、奇跡など一つもない世界で幸せになろうともがく。
寡黙強引混血獣人傭兵攻め、顰め面性奴隷美人エルフ受け。
R18濃厚 予告無く性描写や残酷な表現有り。
ハッピーエンド。
濃厚な性描写…※(固定:強面傭兵×美形エルフ)
残酷な描写…※※(凌辱モブ絡み等)
婚約も結婚も計画的に。
cyaru
恋愛
長年の婚約者だったルカシュとの関係が学園に入学してからおかしくなった。
忙しい、時間がないと学園に入って5年間はゆっくりと時間を取ることも出来なくなっていた。
原因はスピカという一人の女学生。
少し早めに貰った誕生日のプレゼントの髪留めのお礼を言おうと思ったのだが…。
「あ、もういい。無理だわ」
ベルルカ伯爵家のエステル17歳は空から落ちてきた鳩の糞に気持ちが切り替わった。
ついでに運命も切り替わった‥‥はずなのだが…。
ルカシュは婚約破棄になると知るや「アレは言葉のあやだ」「心を入れ替える」「愛しているのはエステルだけだ」と言い出し、「会ってくれるまで通い続ける」と屋敷にやって来る。
「こんなに足繁く来られるのにこの5年はなんだったの?!」エステルはルカシュの行動に更にキレる。
もうルカシュには気持ちもなく、どちらかと居言えば気持ち悪いとすら思うようになったエステルは父親に新しい婚約者を選んでくれと急かすがなかなか話が進まない。
そんな中「うちの息子、どうでしょう?」と声がかかった。
ルカシュと早く離れたいエステルはその話に飛びついた。
しかし…学園を退学してまで婚約した男性は隣国でも問題視されている自己肯定感が地を這う引き籠り侯爵子息だった。
★↑例の如く恐ろしく省略してます。
★8月22日投稿開始、完結は8月25日です。初日2話、2日目以降2時間おき公開(10:10~)
★コメントの返信は遅いです。
★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません
【短編集】エア・ポケット・ゾーン!
ジャン・幸田
ホラー
いままで小生が投稿した作品のうち、短編を連作にしたものです。
長編で書きたい構想による備忘録的なものです。
ホラーテイストの作品が多いですが、どちらかといえば小生の嗜好が反映されています。
どちらかといえば読者を選ぶかもしれません。
傲慢エルフと変態キメラ Vo1
鈴紐屋 小説:恋川春撒 絵・漫画:せつ
BL
独立魔導研究機関『ウロボロス』の調査員である『ガルフ』はエルフのくせに見た目がごつくて剣術と格闘が得意分野、おまけに強気で傲慢だという超変わり種エルフ。
性格が災いしてか、世界の何処に行ってもモテモテのはずのエルフなのに全然恋人が出来ない。
調査員の仕事である噂の真偽を調査すべく、チェチェイカ共和国にやってきた。
調査し始めて直ぐに出会ったのは戸籍のない娼夫の『マヤ』、マヤを一晩買ってすっかり気に入ってしまったガルフは自分の恋人になれと迫る。
ところがこのマヤ、ド変態のビッチだった。
マヤは言う
『どうせアンタだって、何かよく分からない事を言って、直ぐに僕の前からいなくなるんだ』
果たしてガルフの思いは叶うのか、マヤとは何者なのか。
ファンタジーラブコメのはじまりはじまり。
鋼の殻に閉じ込められたことで心が解放された少女
ジャン・幸田
大衆娯楽
引きこもりの少女の私を治すために見た目はロボットにされてしまったのよ! そうでもしないと人の社会に戻れないということで無理やり!
そんなことで治らないと思っていたけど、ロボットに認識されるようになって心を開いていく気がするわね、この頃は。
Lost Precious
cure456
BL
かつて『勇者』と呼ばれた青年レンと、『森の民』ダークエルフのリアン。決して交わらぬ種族の二人は、『冒険者』として共に旅をした。
過去から逃げ、未来に目を背け。ただ今日を生きる。
これは寄る辺なき者達の、冒険の物語である。
冤罪! 全身拘束刑に処せられた女
ジャン・幸田
ミステリー
刑務所が廃止された時代。懲役刑は変化していた! 刑の執行は強制的にロボットにされる事であった! 犯罪者は人類に奉仕する機械労働者階級にされることになっていた!
そんなある時、山村愛莉はライバルにはめられ、ガイノイドと呼ばれるロボットにされる全身拘束刑に処せられてしまった! いわば奴隷階級に落とされたのだ! 彼女の罪状は「国家機密漏洩罪」! しかも、首謀者にされた。
機械の身体に融合された彼女は、自称「とある政治家の手下」のチャラ男にしかみえない長崎淳司の手引きによって自分を陥れた者たちの魂胆を探るべく、ガイノイド「エリー」として潜入したのだが、果たして真実に辿りつけるのか? 再会した後輩の真由美とともに危険な冒険が始まる!
サイエンスホラーミステリー! 身体を改造された少女は事件を解決し冤罪を晴らして元の生活に戻れるのだろうか?
*追加加筆していく予定です。そのため時期によって内容は違っているかもしれません、よろしくお願いしますね!
*他の投稿小説サイトでも公開しておりますが、基本的に内容は同じです。
*現実世界を連想するような国名などが出ますがフィクションです。パラレルワールドの出来事という設定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる