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第一章

謎のおにいさんお手を拝借(協力しましょう)

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     ──おはようございます。ベルです。いい朝ですね、私の気分はどんよりとしていますが。

「はぁ……やりたくないけどやらなくちゃ。どうか、殺されませんように」

    教会の中で、前聖女の絵に背を向けたまま祈る。この人に祈っても、同じ結末を迎えそうで怖いから。
    何一つ策戦とかはないけど、早速王宮に向かってみよう。そこから考えればいい。と思う。

「予め、着せられたローブは隠しておく。名前を聞かれたら答えるけど、住んでる場所とかは全部テキトーに答える。問題は、村人達に見つかって騒がれること。『聖女』なんて呼ばれたら多分直ぐに処刑されるし……」

    この、ライアールーブの地図とかないかな。何とか村人を躱しながら進める道とか、ないのかな。
    何で村人を助けるために村人を避けなければならないんだろう。

「……どの道、王宮は未知だし、当たって砕けるしかないかな。先に見つかっちゃわないように早く行こ──う?」

    教会を出て直ぐ、私の前にピンクのお花が降って来た。多分、作り物だと思う。
    でも、おかしい。
    ここには木なんて見当たらないのに。

「減点だねぇ、聖女様?    無謀にも程がある」

    ねちゃっとした男の人の声が聞こえて、振り返る。今のは多分、この教会の上からだった。

「……誰ですか?」

「やぁ、聖女様?    お初にお目にかかるね、気分はどうだい?」

「……誰なのか、教えていただけますか」

「つれないな」

    ふっと笑う男性は、教会に座ってた。教会の上に座ってた。罰当たりなのでは?
    飛び降りて来たから、少し距離を取る。知らない人だし、いい人とも限らないから。
    教会に座るくらいだし。

「立ち話も何だし、中、入らない?」

    男性が、親指で教会の中を示す。ごめんなさいお断りします。

「私はこの後、王族の『嘘』を……暴きに行かなくてはならないので」

「ん?    聞こえていなかったのかな?    それは無謀過ぎる。行ったところで、捕らえられて公開処刑されるのがオチだ」

「貴方は何か知ってるんですね。なら、どうするべきか教えていただけますか。あといい加減名乗って下さい」

「勿論。だから一回冷静になろう。話の間は腰を下ろしても、いいんじゃないかな?」

「……」

    何か企んでるとしか思えない態度だけど、埒が明かない。ひとまず従うしかないかな。
    この人が何者かは分からないけど、多分王族や貴族じゃない。だからきっと、何かされるとかはない。そう思いたい。

「さっ。まーずーは、僕の自己紹介からだな。初めまして聖女様?    僕は『カギ』。この町で裏商売に手を染めてる、悪人さ」

「何故わざわざ警戒されるようなことを?」

「君はきっと、正反対のタイプだと察したんでね。今ので僕に、少し気を許しただろう?」

「……はい、そうですね。敵ではないということは、何となく理解しました」

    普通なら「悪人」と主張する人間を信用しないと思うけど、この状況でそんな事実を提示するなら、無駄に疑わずに済む。
    雰囲気的にも胡散臭いタイプだし、聞き流すくらいでもいいんじゃないかな。

「それでカギさん。私を無謀だと止めるんですから、何か考えがあるんでしょう……?    教えていただけますか」

「せっかちだなぁ。ま、仕方ないか。それじゃあ、よぉく聞くんだ」

    カギさんは愉快そうに笑う。あの、この時間要らないので早くして下さい。
    人差し指を立てるカギさんは、周囲を気にするような素振りを見せてから、真剣な目になる。

「まず、正面からは確実にアウトだ。君の容姿はそこの壁に飾られている、前にこの世界を訪れた聖女に似過ぎている。古株の警備や国王には、一目でバレてしまうだろう」

    流石に、「王宮に入れて下さい」なんてストレートに言うつもりはなかったですけど。絶対許可されないし、警戒されちゃうから。

「だから、僕と一緒に来るんだ」

「え、嫌ですけど」

「最後まで話は聞こうか?」

「はぁ」

「『はぁ』じゃないのよ」

    カギさんが苦笑したのを見たら、何か勝った気分になった。わーい。こういう謎な人から一本取るのって、何か楽しい。
    それはさておき、何故カギさんと行動しなくちゃいけないのか。

「これは秘密で聞いて欲しいんだけど、王族達は僕らの商売に結構手を出していてねぇ。二日後、王宮の地下で取引があるんだ。それで……」

「私もついて行き、忍び込む……と」

「そういうこと。どうだい?    いい案だと思わないか?    因みに身体検査も何もない。僕の助手の一人として、乗り込むんだ」

    確かに、そういう保証つきならいい。二日待たなきゃいけないのはじれったい気もするけど、安全に侵入したいもんね。
    でも、一つ気になることがある。

「貴方にメリットがない。それどころか、私を連れ込んだっていうデメリットがある。どうして手を貸してくれるんですか?」

    上手い話には裏がある……っていうよね。何もせずに王族と取引をするだけなら、この人にはメリットしかない筈。こんな危険を犯す理由が分からない。

「……いいや、メリットならある」

    カギさんはまた真剣な目になって、悔しそうな声を出した。

「君は『アマーリエ』で聞いたんじゃないか?    

「……!」

    そっか。なら、協力してくれてもおかしくないよね。
    私に希望を見てる、他の人達と同じ状況ってことなんだから。

「分かりました、その方法に頼らせていただきます。当日、よろしくお願いしますね」

「こちらこそよろしく。喜んで手を貸させてもらうよ、聖女様」

「私はベルです」

「オーケー。ベルって呼ばせてもらうね」

「お願いします」

    カギさんは嬉しそうに頷くと、元気よく立ち上がった。帰るのかと思ったら、何処からともなくノートサイズのホワイトボードを取り出した。
    今、背中の方から出さなかった?    マジシャンか何かなんですかカギさん。

「さて。手を組むということで、早いとこ当日の流れなど覚えて欲しい。まずは、二日後の夕暮れ時──」

    ──夕暮れ時、この教会にカギさんが迎えに来る。その際他の誰もいないようにしておく。
    カギさんが来たら、顔を隠してカギさんのお店に移動。服を借りて品物を台車に載せて、夜になったら地下を通って王宮に向かう。

    ──王宮に着いたら、取引が始まる。そしてカギさんの指示で私が一人、警備の人に連れられて国王の元へ向かう。
    ここで一つ、問題があるらしい。
    その日その時間、私が向かう部屋では他国とのお茶会があるみたいで、当然他国の方々もいらっしゃるのだそう。
    そしてそれが、成功させる条件になる。

「この国の王族や警備しかいない場所で『嘘』を暴いても、何の意味もない。他国に訴えられなければ、失敗に終わるんだ」

「要するに王族達の横暴をアピールする……ということですね」

「それでも上手く行くかは分からない。他国の王達を味方につけなければ、僕も君も──」

    カギさんが、親指を首の前で移動させる。やめてほしいな、そういうの。怖くて寝込みたくなる。
    とにかく、お茶会の場に着いたらそこからは私次第ってことだよね。商品紹介も出来ないし、捕らえられちゃう前に動かなきゃいけない。
    難しいよ……。

「万が一の、脱出手段も考えてあるけど……今回で成功させられなかった場合、次のチャンスはないと思うべきだ。僕達は捜し出されて処刑。もし次の聖女がここに来ても、どうしようもないだろうからね」

「責任重大なの、胃に穴が空きそうなんですけど」

「十四歳の女の子に任せることじゃないのは、重々承知だよ。でも、そうするしかないんだ。許してくれるかな」

「……分かってます。お互い、頑張りましょう」

「うん、頑張ろう」

    ──フードを被ってなるべく顔を隠す。もう一人の助手さんと一緒に台車を押して、小さな明かりが灯される地下道を進んで行く。
    王宮地下への門が、見えて来た。
    いよいよ、その時が来たみたいです。

「カギさん、ずっと気になってたこと訊いてもいいですか」

「門番に聞こえないよう、小声でね」


「『アマーリエ』って、何ですか?」


「…………え?    く、靴屋の名前知らなかったの?」

    読めなかったんです。
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