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最終章『奇跡』

第94話『シン・チュートリアル』

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 シン・黄金道十二宮シン・アンヘルゾディアックの13の命を破壊された。
 そして親から授かった本来の命も失った。


 シンは死亡して異界に転生した
 異界の神に召喚された――である。
 故に、その命は失われていなかった。


 それが最後の復活のカラクリ。
 だが、――もうシンの復活はあり得ない。
 





 
 
 

 ———――シン、復活。











「ひぃやっはぁッ!!……なぁーんちゃっってネッ!!!!! 僕ぁ絶対に死なないよッ!! 理由? 知らねぇよ。僕ぁすごい人間だから死なない! 神を超える。ね? さぁてさぁて……まずは、あの生意気なクソガキを見つけて……僕を睨みつけて脅した、あの憎らしい目玉を抉り取ってやろう。僕のステル・スローライフが幕をあけるッ!!!! ひぃひぃ……ひゃひっひひッ!!!」








 ……だが、シンは復活した。 
 スキルによるものではない。


 生まれ落ちた時の命も使い潰した。
 だから復活するはずはありえない。



 ――シャドウから奪った世界樹の種子ティファレトの発芽。
 世界樹の種子ティファレトで得られる力は凄まじい。




 種子を持った者の死亡時に自動的に発芽。
 マナの経路を通して芽が経路を覆い
 脳、精神、思考に負った損傷すらさせる。
 肉体に負った傷も強させる。
 に跳ね上がる。




 これら一切の種子によってもたらされる能力。
 それは世界樹の機能を果たすためのもの。
 器を壊れにくくするための、



 世界樹として生きるということ。
 ……それは人の魂で耐えられる物ではない。
 拷問などという生易しい言葉では済まされない。
 もう、取り返しがつかない。元には戻れない。
 


 シンは、少しずつ少しずつ、木に変わる。
 おそらく木になるまでに千年はかかる。


 そして瘴気をマナに変換する木に変わる。
 世界のための……樹木になる。



 世界樹の種子ティファレトで得られる力は凄まじい。
 ……幼いマキナがスキルと誤解したのを責めるのは酷だ。


 だが、うまい話には裏がある。
 子供にはまだ早い話だった。


 世界樹の種子が発芽したら最後。
 ———二度と人には戻れない。


 シャドウは世界のために死後犠牲になる。
 その過酷なる運命を受け入れていた。


 だが、何の因果かその『呪い』は敵に摘出された。
 シャドウが、爆発する直前に残した最後の言葉。



 『あーあ。マジでオレ、知ぃらネッ』



 覚悟はしていたとはいえそりゃシャドウも嫌だった。
 その役割を進んでしてくれるというのだから。
 『あ~あ』という気分にもなって当然。 


 シンは瘴気をマナに変換するだけの装置となった。
 やがて……長い時間をかけて木になる。



 世界樹として生きること。
 それは人にとっては呪いだ。



 シャドウは遠い先祖に世界樹の祖先を持つ。
 外界と呼ばれる瘴気の海を航った先にある大陸。
 彼の祖先はそこからやってきた。


 だが時は経ち、彼の古い祖先も、
 その後多くの者と混血を繰り返すことで、 
 世界樹の血は薄まっていった。



 世界樹の種子ティファレトを我が子が授かって生まれた事。
 その事実にシャドウの両親、村の人々は大いに嘆き悲しんだ。


 人として真当に生きて死ぬ。それが出来ない。
 世界樹は自動的に思考、精神を復元する。 
 だから、虚無、狂気、絶望、諦観すら不可能。


 明瞭な意識のまま……生き続ける。
 死ぬことは絶対にできない。
 どんなに破壊しても燃やされても無限に蘇る。

 
 人ではなく世界樹生まれた者はもとより覚悟がある。
 種族が違うのだ。当然といえば当然だ。
 樹齢千年の大樹も別に苦痛を感じている訳ではない。
 当然だ。植物だからだ。だから耐えられる。



 だが、その役割をが負うのは、
 あまりに過酷が過ぎる。







 ――――そのことをシンは知らない。
 それは、取り返しのつかないこと。


 本来はシャドウが背負っていた巨大な十字架。
 呪われた巨大な十字架を盗んでしまっった。
 もう……捨てることもかなわない。

 全ては『瘴気を浄化させる』。
 そのために与えられた機能。


 頑強な肉体も、不老不死の体も、千倍も、
 『責務』とまったく釣り合わない。
 人には耐えられない。



 シャドウの村人は先祖返り現象を『呪い』と呼んでいた。
 そのあまりの残酷で過酷な運命を知っていたから。


 これほど残酷なことはないのだ。
 まだシンはそれを知らない。

 死ぬことができないなんてのは、ただの拷問だ。
 たった千倍になる程度では取り返しが付かない。











 *











「いぇーいッ! すっげぇぜッ! 今の僕ぁ、2000倍だぜッ! それに不老不死! しかも自動的に体が復元ッ! 僕ぁついに最強を超える。ね? 神すら超える。うん。今後は、超越シンと名乗ろう。いひっ……うん。ついに本当の僕になったッ! サイッコーの気分だねッ! サンキュー、イカレ野郎。キミの意味不明なチートが僕をハッピーにするよッ! いひっ! さぁガキ……目玉を抉って……手足をゆっくりもぎ取ってあげるからね。……まだそんなに遠くに行っていないはず? ね? 隠れんぼかな? それとも鬼ごっこかなぁ? いひひひひっ! ね? ワクワクするねぇ……楽しいねぇッ! 僕が一番好きな遊びの一つだよ。子供をあえて逃して捕まえて……絶望を思い知らせれうゲーム。あれはめちゃハマるよ。ね?」





 ———死ねない。終わりがない。その意味。
 千年、万年、ゆっくり考えればいい。
 発狂、錯乱、現実逃避も不可能。
 思考は世界樹の特性で自動的に正常化される。
 ――これほど恐ろしいことなどない。
 




「そうそう……僕がどれだけ強くなったか計算だッ! 死んだ回数は10回。つまり、2✕10。つまり200倍。さらにその――1000倍。つまりいまの僕ぁ、2000倍強くなっているってことだよねッ? さすがにヤバすぎるッ! やったぜッッ!!」




 ・・・・・あまりに間違っているので訂正しよう。
 まず、200✕1,000は2,000ではない。
 20,000。……それすら前提が間違えているのだが。




 シンがどの程度強化されたか正しく記す。




 2倍になる救世主福音書シン・ニューゲームプラスで12回復活。
 10倍になるシン・救世主福音書シン・ニューゲームプラスで1回復活。
 1000倍になる世界樹の種子ティファレトで1回復活。
 なお、親から授かった元からの命を失ったことで得られた強化はゼロ。




 ①2の12乗――――――=4,096
 ②4,096×10――――=40,960
 ③40,960×1000―=40,960,000

 



 シンは正確には強くなっている。
 まぁ……説明しても一生理解しないと思うが。




 シンに言っても理解させることは不可能。
 彼のなかではなのだ。
 それで歌いながら満足しているのだからそれで良い。

 否定したらただヒステリーを起こすだけだ。
 説明しても無駄。放っておこう。


 二度とシン・救世主福音書シン・ニューゲームプラスは発動しない。
 何故なら――シンは二度と、死ねないから。
 だから40,960,000倍これが、シンの最後の力。



 シンは2000倍正しくは四千万倍の力を得た。
 マキナをして痛めつけためにウキウキ気分。








 ――――――巨大な門











「……嘘だろ……なんで……なんで……だって……消滅したはずだろッ?!」






 月明かりに照らされた巨大な門。
 そのの前に4つの影。
 ――否。5つ。






「ようこそいらっしゃいました、冒険者シン。この門の先がチュートリアルを執り行う、教室部屋《クラスルーム》。僭越ながら私たちが、四つの基礎的な授業を指導いたします」

「はぁ……おいおい……どういうことだ……僕は……キミたちを皆殺しにした。だから……間違いなく……なのになんで……なんでッッッ!!!!!!」






「おや? 冒険者シン。どうされました? 『さぷらぁいず』はまだ早いです。四天王は一度死に強くなるものです。何も不思議なことはございませんが。はて?」

「……なんで……なんで……ありえな……僕ぁ……こんな……認めなっ……!!」





「いえいえ。貴方には驚かされました。まさかチュートリアルの脱落者が出るとは。これが――貴方の得意な『さぷらぁいず』ですか?」

「僕ぁ何を見せられてるッ?! ループ? 時間遡行? 死に戻り? 幻術ッ?」




 どれも不正解。
 シンのいう通り一度は殺された者たち。
 だが蘇った。



 ――――によって。
 



「ごちゃごちゃうるせぇ野郎だ。感謝しろよ。おら。もう1回遊べるドンッ! 黙ってオモテナシを喰らいやがれ。———こほん。……失敬。最後の授業は課外授業。この月夜の下で貴方に敗北を教えましょう。きっと、喜んでいただけるはずです」

「…………嫌だ………僕ぁ逃げる……こんな理不尽。許されてたまるものかッ!」







「シンは逃げ出した・・・・・・だがにげられないッ!」






 ユーリはゆらりと動きシンの前に立つ。
 ユ逃げだそうとしたシンの肩を掴む。止め……ッ。


 ――否。ユーリはシンの肩ごと、抉りとっていた。
 そして……世界樹の力。抉った肩は復元。
 ユーリは驚愕しない。その復元を見て悪鬼の如く嗤う。





 門の前の影は少しずつシンの前に歩みを進める。
 全員……シンの見知った顔だ。

 




「よォッ!! 元気してたかァッ――――テメェに会いに行くために煉獄山《れんごくさん》をマッハで駆け登ってきたぜッッ!! まだ殴り足りねぇからナァッ!!!」

「拙者、勉強になったっす。生と死を司る呪術師。一度、死ぬのも悪くないっすね」

「――――目下星辰正刻哉。禁忌語我真姿呪禍分かってるな? 俺の事は、言うなよ――マジ、テケリ・リるぞ?






「そんな訳で、シン・チュートリアルの始まりだ。ワクワクするだろ? ここから先が真のサプライズパーティーだ。遠慮するな。嬉しいだろ? 今度は――4人……いや5人で、オモテナシを喰らわせてやる。頑張れよ——不死身なんだもんなぁ?」
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