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第二章『外道辺境伯と魔王牧場』

第31話『贋作勇者と試作魔王』

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「ぐ……っ……予定とは異なるが、奥の手を使う。この力は……王都民の殲滅、世界制服の時まで、取っておきたかったのだが。こうなれば、仕方あるまい」

「世界征服、王都殲滅、最凶兵器。ガキか、てめぇ。年相応に、地に足つけろや」



 まぁ、地に足付けていようがいまいが、殺す。
 ルナの両親を殺めた罪だけで万死に値する。
 更に、積み重ねる罪の数々。



「調教術《ブリード》、竜血強制覚醒《エンフォース・ドラゴン・ブラッド》……試作魔王《プロト・クィーン》、その力で蹂躙せよっ! 手段は問わぬ、やれ! その邪悪なる姿、凶悪なる世界を破壊する力をみせつけるのだっ!!」



「う……あっ……いやぁああっああああっ!!!!!!」



 ルナの直下に巨大な魔法陣が浮かび上がる。
 マナの発する光の奔流がルナを飲み込む。 


 頭部に二本の角。
 背中に翼竜の翼。
 指先から鋭いかぎ爪。
 瞳は金色に輝いている。



「……はぁはぁ……こ……殺し……たくないっ……でも、ごめん……っ……あたい、この力、止められない……ここから先は、もう……」

「ほぅ。かっこいいじゃん。そんじゃ、俺も一丁、カッコよくなるとするぜ!」



 守護者権限《デーモン・ライセンス》、自壊式《オーバー・クロック》。
 執行のためではなく、守護するために力を振るう。
 許可申請は、事後。


 全身に淡い光を伴った赤い幾何学模様が浮かびあがる。
 全身に禍々しい真っ赤な入れ墨が刻まれた、悪魔。


 感覚が研ぎ澄まされる。
 力がみなぎるのを感じる。


 非常事態とはいえ、一般人への権限行使。
 こりゃ、始末書どころじゃ済まねぇかもな。
 アルテが目撃者なのが救いだ。



「……殺したくない……イヤ……これ以上、……失いたくないっ!」

「ばーか。女の子にジャレつかれたくらいで怪我なんてするもんか」

「……あたい……力を制御できないっ……だから……」



「そういや俺、あんまりルナと外で遊んでやってなかったな、悪かった。だからさ、いまこの瞬間、全力で遊ぼう。本気で、こい」

「……これは、遊びじゃないんだよ……次の一撃で……本当に最後……死んじゃう、だから、これがあたいとの最後の会話……あたい、ユーリのこと、もう一人の、本当のお父さんだって思っていた……だから」



 俺は照れ隠しに頭をかく。



「血がつながってなくても、本当の父親のように思ってくれたってのは、最高に嬉しい言葉だ。でもな、そういう格好いいセリフ、あとで恥ずかしいことになるぞ」

「……さよなら。……お父さん……楽しかった……好きだったよ」



 超低空飛行で突っ込んでくる。
 極大なエネルギーの塊が突っ込んでくる。

 自壊式《オーバー・クロック》による超集中と超視力。
 それでも、目で追うのがやっとだ。

 腰を低くして構える。
 靴底に根が生えたイメージを思い描く。

 必ず受け止める。傷つけずに。
 衝撃。轟音。吹き荒れる風。



「どうした? 急に抱きついてくとは、甘えん坊だな」



 あえて避けずに受け止める。
 全身が痛い、骨が軋む。

 それでも、歯を剥き出して不敵に笑え。
 たいした事なんてなかったのだと。

 ルナは俺の笑顔にあっけに取られている。



「だから、言ったろ?」

「えっ……?」


「格好いいセリフはさ、あとで恥ずかしくなるって」

「……あはっ…っ……うん、ほんとだった。……はずかしいな」


「たまには、大人のゆーことも聞くようにな」

「うん。そうする……っ。ごめんね」


「まっ、それはそうと。嬉しかったぜ。それは、伝えておく」



 俺はルナの頭を撫でる。



「……つぎ、いくよ……、かまえて、ねっ!」

「おうっ!」



 音速を軽く越える、蹴り技。
 その速さ、鋭さ。もはや、刀。
 剣豪の刀に無手で対抗するに等しい。

 なまじ目で追える……だから避けたくもなる。
 でも、駄目だ。それは、格好悪い。
 ルナは、俺を父親と思ってくれてるんだ。


 父親が娘のキックを必死に避けるなんて。
 格好悪すぎる。ダサい姿は見せたくない。


 思い出せ、徒手空拳で剣を持つ悪漢と戦った記憶を。
 ――――見えた。



「う……うそ………いまの最高の角度のペンデュラム《回転足刀蹴り》を片手で? マジっ?」

「マジだ。そして、ルナの技のネーミングセンス。俺は好きだぜ」


「……だって……あたい……最強で最凶だって……」

「犯罪者の言葉なんて真に受けるな。頭と顔が腐ってんだよ」


「魔王、世界征服、……ぜんぶ、嘘?」

「なんつーか、アレ系……ヤベー人の妄想。脳内設定。ルナ、冷静によぉーく考えてみろ。元Bランク追放の俺に苦戦する時点で、世界征服なんて、可能だと思うか?」


「はは……そうだよね。ムリ、だね」

「あの汚い害虫が、妄想を語って洗脳したんだ。気にするな」


「でもなんでそんなに、強いの?」

「冒険者は強いんだ。これくらいの力がないと、生きていけない」


「あたい、……冒険者目指すの、やめようかな……」

「ルナはまだ若い。俺としては、絶対に止めたい。それでも、どーしても成りたいと、成長して大人になった時、そう思ってるなら、そのときは、ルナの自由だ」

「そうだね、わかった」


「だから大人になるまで、安全な村で遊んだり、勉強したり、将来なにがしたいか、ゆっくりと探せばいい。大丈夫、冒険者は誰でもいつでも、無職でも、成れる」


「……うん」


「それとも、刺激のない田舎の村は嫌いか?」

「すき」


「それなら焦るな。将来のことは、俺も一緒に考えるさ」


「あははっ……あたい、……バカみたい。ほんとに世界を破壊する力があるなんて信じちゃってた……なんだか……はずかしい」

「気にすんな。子供の時は、皆そんなもんだ。俺も、ガキの時はそんな風に空想した時もあったさ。それにな、すべて、あの嘘付きゴミ虫が悪い。後で、潰しとく」



「……魔王、……最強の力……破壊の化身……全部、ウソ……。よかった。でも……そんな誇大妄想に……あたいのパパもママも……殺されちゃった」

「害虫も、害虫の甘い蜜を吸って生きた虫も、必ずその犯した罪の報いを与える。俺だけじゃない。ギルドが、法が、必ず裁きをくだす」



「……あたい、あの男も……協力したのも……許せない。……死んだあとも、許せない……そんな……あたいも悪なのかなっ」

「許す必要なんてない、自分の心に従え。大切な人を傷つけた奴を許すなんてのはな、それは寛容さでもなんでもない」



「…………」

「自分じゃない、他の誰かのために、怒ること。涙をながすこと。許さぬこと。戦うこと。それは、人として当然の感情であり、行為なんだ。それこそが、人を人たらしめている。そして、それが亡くなった者たちの尊厳を守るということだ」


 ルナには少し難しかったかもしれない。
 今は言葉の意味を分からなくて良い。
 いつか、想いだしてくれたら、それで良い。


「ルナ、お前はな。ちょっと元気な、普通の女の子。特別じゃない」

「……なんだか……あはっ……不謹慎だけど……たのしくなってきちゃったっ……でもね……少し……ねむいの……だからきっと……次が、あたいの最後の、攻撃」


「そうか、運動のあとは、ゆっくりと眠れ。害虫を潰すのは俺に任せろ」

「うん」


「最後に……あたいが負けたときの条件、つけていい?」

「おう」


「あたいが、負けたら、……その……パパって呼んでいい?」

「当たり前だ!」


 きっと、ルナがずっと言いたくて、言えなかった言葉。
 血を分けた親に対する義理も愛情もあるだろう。

 ルナはまだ幼い。甘えたい時もあるだろうさ。
 だからな、偽物でも、俺が父親になってやるさ。

 
 だから、絶対に、勝つ!
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