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第二章『外道辺境伯と魔王牧場』

第28話『魔王牧場:罪の告白』

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「万事休すだなぁ」

「地獄に行く前に、犯した罪の全てを話しなさい」



「罪? 我は罪など犯しておらぬ。貴様らこそ、貴族に逆らったその罪、万死に値する。地獄に行くのは貴様らだ。そんなに聞きたければ話してやる」



 俺の中で、このクズはすでに死んでいる。
 声を発する権利を許しているだけ。
 あとはこいつの協力者や悪行の数々を吐かせるだけ。



「我は、アグリィ辺境、テリブル家の十代目の当主にして、調教術士《ブリーダー》の継承者。高貴なる血族の末裔。貴様ら、下民ごときが奪って良い命ではない」


「……調教術士《ブリーダー》」


 ギルドに登録されていない職業《クラス》。
 ハッタリとも思えないが。
 

「ユーリさんは知らなくて当然です。呪われた職業《クラス》です」


「ふんっ、無学な貴様のために教えてやろう。我が、使役する対象は魔獣ではなく、亜人。我が亜人に命じれば、亜人は我の言葉の強制力に絶対に逆らう事は不可能。その効果は、死ぬまで続く。更に、調教《ブリード》できる対象は無制限。我が命じただけで、亜人を隷属させることが出来る。神から授かった、職業《クラス》」



 価値のない、最低最悪のゴミ職業。
 ギルドに登録する価値がないスキル。
 存在する事実だけで不快な気分にさせられる。



「我を殺せば、多くの我の領地の領民を不幸にすることになるぞ。くっくっく、貴様らにそれができるか? 我の領地の民は幸福である。なぜなら、労働という本来、人間が負担すべきではない苦役を、下等で、愚かで、醜い、劣等種、亜人に押し付けることができるのだからなぁ。領民は我が命じるまでもなく、を喜んで自発的に管理しておる。我が、指示する余地もないほどに……完璧になぁ」



 ……場違いな言葉。
 理解を拒絶する言葉。



「我の領地の民は、忠誠心が篤く、賢いのでなぁ。強制する必要すらない。自分の頭で考え、自発的にの維持、管理を行ってくれておる。領主が優秀なら、その民もまた優秀ということだ」



 領民も進んで犯罪に加担していたということだ。
 領主が領主なら、領民も領民。どちらもゴミ。



「我の領地の民は皆、喜んで運営を手伝っておる。領主と領民の理想的な関係。偉大な領主と、賢い領民ということだ。テリブル一族は代々、民から篤い支持を受けてきた。だからこそ十代も続いているのだ。我を討つことは、すなわち、我を慕う民を討つことに他ならない。貴様にその権利はあると思うか?」



 より一層、この喋るゴミを生かす理由がなくなった。
 もはや呼吸をすること、人語を話すことすら許しがたい。



「我の管理するでは、隷属させた、多種多様な異なる亜人同士を交配させ、多様性に富んだ亜人を造り出してきた。亜人を繁殖させ、そこらの小悪党や貴族に売りつけ、領地に富と幸福をもたらす。これ以上の善行はあるまいよ。我が一族は、それを続けてきた」



 アグリィ辺境領にも例外なくギルドの監査役は派遣されている。
 監査役から領民へ聞き取り調査も行われているはずだ。

 それにも関わらず、人道を外れた行いは露見しなかった。
 この規模の悪事は一人だけで隠しきれる物ではない。

 証言の通り、領民も共犯だったと考えるのが自然。
 領主と領民が結託して意図的に隠匿した。


 単純な圧政は十代続かない、誰かが立ち上がる。
 だが、それは起きなかった。

 辺境伯の存在が民の都合が良かった。
 だからこのクズの一族は、民に生かされた。

 領民は亜人を隷属させる悪行を、良しとした。
 甘い蜜の味に堕落し、悪徳に屈した。
 腐りきった悪性が民に感染し、人倫を破壊した。

 その罪の裁きは、すぐに下される。



「特に、希少な亜人ほどコレクターには高く売れるのでの。純血種、変異種、特異種、異形種……我の一族は十代に渡り、亜人や誘拐した人間を牧場で交配させ続けた。平坦な道のりではなかった。異なる種族との交配。孕んでも死産したり、産まれてもすぐに死んだり、失敗の連続だった。だが、我は努力を怠らなかった」



 自慢気に語っているが犯罪の自白に過ぎない。
 アグリィ辺境領は近いうちに大規模監査の対象となる。
 加担した者、看過した者、等しく法によって裁かれる。



「亜人など、所詮は邪悪なる魔王の眷属《けんぞく》。姿形は人間に似ているが、魔獣と変わらぬ。だから、我が人族の代表の貴族として、正しく亜人どもを獣として、扱ってやっているのだ」



 太古の昔、多くの亜人種はと呼ばれていた。
 生まれついての魔力適性の高さゆえの事である。

 それは、吟遊詩人の歌にしか残されていないような遠い昔のこと。
 人族と魔族の戦争、それは、はるか昔のことだ。


「我は最強の亜人を造りだすため……過去の文献を探った。そして、我の大祖父、テリブル一世はある仮説に辿り着いた。過去に魔王と呼ばれている存在。それが、人間と竜を交配させた種であると。歴代のテリブル家の当主のみがその事実を継承、過去の魔王と呼ばれる存在を造り出すために研究を続けた。最強の亜人を量産し、使役する。それこそ人族こそが生物の頂点であることの証明。何代も掛け、我の牧場でさまざまな地域の竜と人の交配実験を繰り返し、試行錯誤を繰り返した。……長く、険しい日々であった。平坦な道のりではなかっただろう。だが、ついに十代目、つまりこの我の代で、――至った」



 …………………。



「我は、遂に……文献に記された、あの魔王を交配によって造り出すことに成功した。あとは、あの竜人……否、を母体として、魔王を繁殖させる。……あと一歩だった。我が一族の悲願の成就まで。それだというのに……最後の、最後の段階で、あやつの、繁殖用に用意した人と竜、我の調教術《ブリード》を打ち破り、あの試作型魔王を逃した。我は、あの時は、神の実存を疑いもした……。だが、ふふっ……あはっはははは、いや……、笑いをこらえるのだ……まだ……あと少し、あと少しだけの……我慢だ、ふひっ……楽しみは、ふひっ……サプライズは……最後にとってこそ、だからの、あひひっ……ふはははっ」



 目眩と動悸《どうき》。心臓の鼓動が聞こえる。
 血流が全身を高速で駆け巡る。俺の体がアレを殺せと叫んでいる。



「続けよう、我に降り掛かる不幸は続いた。我の調教術《ブリード》を拒絶したことで、手塩にかけて調整した、竜と人のツガイが死んでしまった……。再び繁殖させる事も検証することも不可能になったのだっ! 貴様らに、我の悲しみは理解できまい。だが、見つけた。魔王を量産し、最強の軍隊を作る。伝承上、一人だけで国を陥落することができた存在。それが10匹もおれば、世界すら支配できる。我が王となり、法となる。――まず、そのデモンストレーションとして、王を殺し、中央ギルドを破壊する。そして、再び人族が、亜人を使役する正しい世界を作りあげる。我は、によって、人族の人族のための人族のための世界を作り、正しい歴史を紡ぐッ!」



「てめぇの罪状の告白は、もういい――、黙れ」
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