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第一章:ダンジョンを作ろう!

第21話『一人の少年の物語』

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「ボクも、戦う力が欲しいです。ユーリさんのような救う力が欲しいです」

「戦う力、ねぇ……」


「ボクは、自分と同じような境遇の人たちを救いたいんです。だから……っ!」

「……。なぁ、ユエ。戦場も、戦い方も、戦う力も一つじゃないんだ」


「ですがユーリさんは、力で多くの人を救っています」

「……力だけでは、救えないものは、ある。剣を振るだけではどうにもできないことも、ある」


「ユーリさんは、なぜ、剣を握る道を、選んだんですか?」

「俺にはな、剣しかなかった。選んだんじゃねぇ、それしかなかった。それだけだ」


「…………」

「力が人を救う、確かに一面を捉えた事実だ。だけどな、それだけじゃ救えないもんだってある」


「それは……もしよければ教えて下さい」

「……ユエ、最近、王都に孤児院ができたこと、知っているか?」

「いえ……知りません、でした」


「見知らぬ誰かが、善意で私財を全額使って。亡くなった冒険者の親の子を養うための孤児院を作ったそうだ」


「……それが、戦うこと、なのですか?」

「ああ、そうだ。一人の少年の物語を話そう。少し長くなるが聞いてくれ」



 俺は一息つき、ユエの目を見て語る。 




「冒険者が死ぬことは珍しいことじゃない。
 多かれ少なかれ皆、死を覚悟している。

 だけどな、冒険者の子はそうじゃない。
 親が死ねば、突然理不尽に全てが奪われる。



 ………………。



 一人の少年の物語を語ろう。


 少年は両親の帰りを家で待っていた。
 帰ってきたらお母さんに抱きしめてもらおう。
 お父さんが好きなホットコーヒーは既に冷めている。


 数日が経った。玄関のほうで扉が開く音がした。
 少年は胸を踊らせて、玄関に駆ける。
 その少年の期待は、打ち砕かれる。


 玄関の男は見知らぬ男。
 少年は男の語る難しい言葉が理解できなかった。


 一つだけ理解できた。
 全てが奪われてしまったということを。


 地べたを這い雨露をすすり生きる日々。
 貧しく苦しい日々は、少年の心を徐々に蝕む。

 やがて、大好きな親すら憎むようになる。
 過酷な現実が、かつての親子のあたたかな記憶を奪い去る。

 冷たい王都の路地裏よりも。
 かつての優しい日々の想い出が心を傷つける。


 少年はいつの日か、人を世界を憎む。
 少年の手元には気がついたらナイフが握られていた。

 ナイフは、果物の皮を剥く小さい物だ。

 殺すためではない。ただ、威嚇するためのもの。
 だから大丈夫。少年は小声で自分に言い聞かす。


 少年は奪われる側から、奪う者になる。


 まず最初はパンを奪った。
 飢えを凌ぐために。


 しばらくして金品を奪うようになった。
 かつて奪われた物を取り返すため。


 少年のナイフは少しずつ大きな物に変わっていった。

 
 ある日のことだ、少年は命を奪った。それは、事故だった。
 だが、少年は簡単に奪う方法を理解してしまう。
 

 少年はまた命を奪った。今度は意図的な物だった。
 徐々に人が金や物に見えてくる。 


 気がつけば、奪うために、奪うようになっていた。
 もう、飢えてはいない。奪う必要などはないのに。
 少年は使い切れないほどの財を手にしていた。


 だが、奪うことをやめない。
 それ以外の生き方を知らないから。

 
 少年はかつての両親と同じ年になっていた。


 彼のもとにかつての自分と同じ境遇の子が、訪れる。
 大人になった彼は、少年に、奪うことを教える。

 そして、元少年の元に来た子もやがて……」




 深呼吸をする。



「それは、とても、とても、……悲しい物語です」

「そして、この少年の物語は、現在も起こっている王都の現実だ」


「でも……ユーリさんなら、きっと、だって、ユーリさんは優しいからっ」

「――いや、救わなかった」


「…………」

「この物語の、後日談を話そう。この元少年は物語の後、黒装束の男に殺された。奪う事を覚えてしまった人間は、もう絶対に元には戻れない。だから、殺す。大勢、殺した。多くの罪のなき民を救うために、その元少年を救わなかった。これがな、俺の現実だ」


「……そんな」


「俺の行いに、悔いはない。俺の行いを悔いるということはな、救われた命に対する侮辱だ。許されることではない。…………だけどなぁ。それでも、もし……この物語の少年が全てを奪われた時に、優しい誰かが手を差し伸べていたら……」

 ……孤児院を作った人のような。

「そんなことを、考えた。だからさ、孤児院の話を聞いた時は、……俺、すげー嬉しかった。戦い方も、戦場も、戦う力も、俺とは違う。だけど、この見知らぬ誰かと共闘しているような気分になった」


 ……戦い方も、力も。求められる戦場によって異なる。
 どれが、一番重要ということもない。皆で戦っているのだ。


「なんだって、いいんだよ。ユエには、ユエにしか使えない素晴らしいスキルがある。その力でさ、救えよ。俺が、俺たちが取りこぼした多くの人たちを」


「……はい。必ず、ボクがヤりきりますっ!」


「ユエ、改めて質問だ。戦い方は、戦場は、戦う力は、――1つだけだと思うか」


 ユエは言葉を噛み締め、考えているようだ。
 いまは、よく考えればいい。

 そもそも正解があるかどうか分からないたぐいの質問だ。
 だから、よく考えればいい。 


「これは俺からの宿題だ。酒が飲める年になったら、ユエの答え、聞かせてくれ」


「はいっ!」



 俺は、ユエの頭を撫でるのであった。
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