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第一章:ダンジョンを作ろう!
第19話『持つ者、持たざる者』
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違法奴隷商のキャラバンが殲滅された話。
それは、ユエの耳にも入っている。
だが、ユエが自分の口から語った事はない。
だから俺も自分からはこの話はしない。
ルナがこの話題をユエに振っているのを何度か見た。
ユエは、曖昧に笑ってうなずくだけだった。
「あの、ユーリさん……あまり……無茶は、しないでください」
「ははっ、そうだな。今後は気をつけるさ」
「その……ボクも付き合います。ユーリさんとお酒飲みたいです」
「ははっ。ユエはまだ酒飲んじゃ駄目な年齢だろ」
「それなら、……食事だけでも」
「駄目だ」
「それは、ボクが……足手まといだからですか」
「それは、違う」
「ユエくんも、大人になれば連れて行ってもらえますよ!」
「ユエっち、お酒はおとなになってからだよーっ」
「…………」
緊迫した雰囲気を和らげるため、
アルテが助け舟を出す。
「大人は、たまに一人で飲みたい夜もあるのです。そうですよね? ユーリさん」
「ああ、そうだな。まぁ、そーゆうこった。たまーに琥珀色《こはくいろ》の液体をくゆらせたくなる時もあるつーことだ」
「ほほう。ユーリさんも、これでなかなかの詩人さんですなぁ」
アルテも精一杯おどけてみせている。
だが、ユエの真剣な眼差しは変わらない。
「はぐらかさないでください」
「ユエっち、……おこなのかぁー?」
「すみません、ルナさん。ボク変なことを口走っているようですね」
少し間を置いて、ユエが口を開く。
表情はいつもの穏やかなものに戻っている。
「ルナさん、毎日わんわん夜泣きしていました」
「わぁーっ! うそうそっ! あたい、ぜんぜん泣いてないしっ!」
「そうでした。ルナさんは、ぜーんぜん、泣いていませんでしたねっ」
片目をウィンクしながらユエは俺に言う。
さすがユエ、ルナの扱いを心得ている。
「アルテさん、ルナさん、さきほどは、すみませんでした」
「いえいえ、気にしないでください! 私も、ユーリさんがこっそり飲みにいかないよう、監視しますから。だから、大丈夫ですよ。ユエさんと私で共同戦線ですね」
アルテは俺の目を一度だけ見る。
そして、そっとルナの手を取った。
俺とユエだけにした方が良いと思ったのだろう。
「それじゃ、ルナちゃん。おねーさんに村の案内、頼めるかな?」
「うん。いいよーっ!」
あの日の朝俺が居ないことを知ったユエは、それでも村に残った。
幼いルナ一人を残して村を去ることができなかったから。
ユエを思いとどまらせたルナに、俺は感謝している。
ルナが居なければ、夜明けとともに去っていたのだろう。
本当は、夜明け前には俺も村に戻るつもりだった。
思ったより、体の無理が効かなかった。
*
今は、部屋にはユエと俺の二人だけ。
ルナがいないだけでこんな静かになってしまうんだな。
にぎやかさに慣れると静けさが少し寂しくなる。
「ボクだって……剣の心得くらいはあります。力だって」
「剣を扱う技術。そして生まれ持っての肉体的な素質。それは認める」
才能、身体能力、容姿、頭脳どれもが高いレベル。
天は二物を与えずと言うが、ありゃ嘘だ。
以前ユエに頼まれ、剣技を教えたことがあった。
ユエは、それを数日で習得した。
俺が一年かけ習得した剣技だった。
「今は、まだ足手まといかもしれません。ですが、ボクもいつかは」
「気持ちは嬉しい。だけどな、それでも俺の答えは変わらない」
「漆黒の仲間と比べて、ボクはユーリさんの真の仲間ではないからですか」
「違う。同じように大切な友だ。だから、危険な目にあわせたくない」
「ユーリさんは、勝手です……」
「そうだな」
「……ユーリさんに、もしもの事があれば……っ! 悲しむのはボクだけではありません。ルナさんやアルテさんだってっ!」
「もしもは、起こらない。だから、それは考えなくていい」
「ユーリさんが、無茶をする時はボクも一緒です。ボクも、男です。いざという時の覚悟だってあります!」
「覚悟は分かった。だけど、駄目だ。これだけは譲れねぇ」
「…………ボクでは……役に立てないから」
「これは、な……もしもの話だ」
「…………」
「もし、ユエが俺や他の多くの冒険者と同じように、棒切れを振るうことでしか、人の役に立てない人間なら、俺のような生き方を教えていたかもしれない」
剣を振るい悪を倒し敵を討つ。
痛快で分かりやすい、だから多くの者が憧れる。
「だけどな、ユエ、お前は俺とは違う。俺のような石ころと違う。ダイヤの原石だ。磨くほどに光る。いつか俺なんかより、きっと遥かに多くの人間を救える」
冒険者は、それ以外の生きる術《すべ》を知らない者達の集まり。
人々の暮らしと命を守るため誇りを胸に命をかけ、時に命を落とす。
命を落とした冒険者の席に別の冒険者が座りいつかは忘れ去られる。
「これは、俺の……まぁ、親心のようなものだ。うっとうしいかもしれないけどな、将来のある人間の可能性を閉ざすようなことはしたくないんだ。分かってくれ」
冒険者は誇りと名誉とともに在る。
そのことに、一切の疑念はない。
俺も冒険者時代は、そうやって生きてきた。
……誇りや名誉が在るから、命が張れる。
貧しくても、腐らずに居られる。
だけど、……だからこそ。
それ以外、生きる術を持つ者が冒険者になる。
それは持つ者の、お遊び。
持たざる者達が唯一持つ、名誉と誇りを奪う行為。
冒険者の生き様、死に様を俺は見てきた。
だから俺は言わなくてはいけないのだろう。
それは、ユエの耳にも入っている。
だが、ユエが自分の口から語った事はない。
だから俺も自分からはこの話はしない。
ルナがこの話題をユエに振っているのを何度か見た。
ユエは、曖昧に笑ってうなずくだけだった。
「あの、ユーリさん……あまり……無茶は、しないでください」
「ははっ、そうだな。今後は気をつけるさ」
「その……ボクも付き合います。ユーリさんとお酒飲みたいです」
「ははっ。ユエはまだ酒飲んじゃ駄目な年齢だろ」
「それなら、……食事だけでも」
「駄目だ」
「それは、ボクが……足手まといだからですか」
「それは、違う」
「ユエくんも、大人になれば連れて行ってもらえますよ!」
「ユエっち、お酒はおとなになってからだよーっ」
「…………」
緊迫した雰囲気を和らげるため、
アルテが助け舟を出す。
「大人は、たまに一人で飲みたい夜もあるのです。そうですよね? ユーリさん」
「ああ、そうだな。まぁ、そーゆうこった。たまーに琥珀色《こはくいろ》の液体をくゆらせたくなる時もあるつーことだ」
「ほほう。ユーリさんも、これでなかなかの詩人さんですなぁ」
アルテも精一杯おどけてみせている。
だが、ユエの真剣な眼差しは変わらない。
「はぐらかさないでください」
「ユエっち、……おこなのかぁー?」
「すみません、ルナさん。ボク変なことを口走っているようですね」
少し間を置いて、ユエが口を開く。
表情はいつもの穏やかなものに戻っている。
「ルナさん、毎日わんわん夜泣きしていました」
「わぁーっ! うそうそっ! あたい、ぜんぜん泣いてないしっ!」
「そうでした。ルナさんは、ぜーんぜん、泣いていませんでしたねっ」
片目をウィンクしながらユエは俺に言う。
さすがユエ、ルナの扱いを心得ている。
「アルテさん、ルナさん、さきほどは、すみませんでした」
「いえいえ、気にしないでください! 私も、ユーリさんがこっそり飲みにいかないよう、監視しますから。だから、大丈夫ですよ。ユエさんと私で共同戦線ですね」
アルテは俺の目を一度だけ見る。
そして、そっとルナの手を取った。
俺とユエだけにした方が良いと思ったのだろう。
「それじゃ、ルナちゃん。おねーさんに村の案内、頼めるかな?」
「うん。いいよーっ!」
あの日の朝俺が居ないことを知ったユエは、それでも村に残った。
幼いルナ一人を残して村を去ることができなかったから。
ユエを思いとどまらせたルナに、俺は感謝している。
ルナが居なければ、夜明けとともに去っていたのだろう。
本当は、夜明け前には俺も村に戻るつもりだった。
思ったより、体の無理が効かなかった。
*
今は、部屋にはユエと俺の二人だけ。
ルナがいないだけでこんな静かになってしまうんだな。
にぎやかさに慣れると静けさが少し寂しくなる。
「ボクだって……剣の心得くらいはあります。力だって」
「剣を扱う技術。そして生まれ持っての肉体的な素質。それは認める」
才能、身体能力、容姿、頭脳どれもが高いレベル。
天は二物を与えずと言うが、ありゃ嘘だ。
以前ユエに頼まれ、剣技を教えたことがあった。
ユエは、それを数日で習得した。
俺が一年かけ習得した剣技だった。
「今は、まだ足手まといかもしれません。ですが、ボクもいつかは」
「気持ちは嬉しい。だけどな、それでも俺の答えは変わらない」
「漆黒の仲間と比べて、ボクはユーリさんの真の仲間ではないからですか」
「違う。同じように大切な友だ。だから、危険な目にあわせたくない」
「ユーリさんは、勝手です……」
「そうだな」
「……ユーリさんに、もしもの事があれば……っ! 悲しむのはボクだけではありません。ルナさんやアルテさんだってっ!」
「もしもは、起こらない。だから、それは考えなくていい」
「ユーリさんが、無茶をする時はボクも一緒です。ボクも、男です。いざという時の覚悟だってあります!」
「覚悟は分かった。だけど、駄目だ。これだけは譲れねぇ」
「…………ボクでは……役に立てないから」
「これは、な……もしもの話だ」
「…………」
「もし、ユエが俺や他の多くの冒険者と同じように、棒切れを振るうことでしか、人の役に立てない人間なら、俺のような生き方を教えていたかもしれない」
剣を振るい悪を倒し敵を討つ。
痛快で分かりやすい、だから多くの者が憧れる。
「だけどな、ユエ、お前は俺とは違う。俺のような石ころと違う。ダイヤの原石だ。磨くほどに光る。いつか俺なんかより、きっと遥かに多くの人間を救える」
冒険者は、それ以外の生きる術《すべ》を知らない者達の集まり。
人々の暮らしと命を守るため誇りを胸に命をかけ、時に命を落とす。
命を落とした冒険者の席に別の冒険者が座りいつかは忘れ去られる。
「これは、俺の……まぁ、親心のようなものだ。うっとうしいかもしれないけどな、将来のある人間の可能性を閉ざすようなことはしたくないんだ。分かってくれ」
冒険者は誇りと名誉とともに在る。
そのことに、一切の疑念はない。
俺も冒険者時代は、そうやって生きてきた。
……誇りや名誉が在るから、命が張れる。
貧しくても、腐らずに居られる。
だけど、……だからこそ。
それ以外、生きる術を持つ者が冒険者になる。
それは持つ者の、お遊び。
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冒険者の生き様、死に様を俺は見てきた。
だから俺は言わなくてはいけないのだろう。
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