上 下
1 / 2

【題詠2019短歌小説】我がままに君を愛せたなら【我】

しおりを挟む
2019-001:我
泣きぼくろ滲む涙が流れ落ち我まま君を抱き寄せたい夜

****

 冬の夜はどうしても、寒い。
 吹き付ける風は、身を刺すように俺へ当たり、そして何事も無かったかのように、通り過ぎていく。
 氷のように身体を冷やしてしまった俺を残して。

 今夜は、どうも冷える。
 こんなに身体が冷えるのは、もしかしたら心が温もりを欲しているからかもしれない。

 どうしても諦められない人がいる。
 その人は、シャキッと背中に串でも刺さっているかのように背筋が伸びた誠実な人だが、時折寂しい眼をして遠くを見つめるような、そんな人だ。
 憂いを帯びたその雰囲気に、恐ろしいほど左目の泣きぼくろが似合っている。
 俺はそんな彼女がたまらなく好きだった。

 しかし、彼女には俺と同じように諦められない人がいて。
 それを知っているからこそ、余計俺は彼女を諦められないのかもしれない。
 天邪鬼なのか、マゾヒストなのか。

 今夜は彼女の職場の最寄り駅で待ち合わせをして、ご飯を食べるつもりでいた。
 俺が待ち合わせ場所に着くと、すでに彼女はベンチに座っていて、俺は大慌てで彼女へ駆け寄った。

「ごめん! 待たせた! 寒いだろ、大丈夫?」

 駆け寄った俺を、静かに見上げた彼女の瞳には、涙が浮かんでいた。

 あぁ。きっと彼の事だ。
 瞬間俺は察した。

 そして、彼女の隣へ腰掛け彼女が話し出すのを待った。

「ごめんなさい。せっかく誘ってくれたのに、こんな顔で」

 平気なフリしてそう言う彼女だったが、その肩は震えていた。

 そっと彼女の顔を伺うと、先程瞳に溜まっていた涙が、その左側の泣きぼくろを滲ませ落ちて行くところだった。

 ポツン。

 聞こえるはずのない、彼女の涙が落ちる音が聞こえたような気がした。

 あぁ、俺が。
 このまま君を抱きしめることの出来る勇気があれば。
 全てを受け止めて、君を連れ去る甲斐性があれば。
 じっと意識した右手は動くことはなく、夜がただ冷えていくばかりだった。

-END-
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

恋人の水着は想像以上に刺激的だった

ヘロディア
恋愛
プールにデートに行くことになった主人公と恋人。 恋人の水着が刺激的すぎた主人公は…

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

放課後の生徒会室

志月さら
恋愛
春日知佳はある日の放課後、生徒会室で必死におしっこを我慢していた。幼馴染の三好司が書類の存在を忘れていて、生徒会長の楠木旭は殺気立っている。そんな状況でトイレに行きたいと言い出すことができない知佳は、ついに彼らの前でおもらしをしてしまい――。 ※この作品はpixiv、カクヨムにも掲載しています。

男性向け(女声)シチュエーションボイス台本

しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。 関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください ご自由にお使いください。 イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

秘密 〜官能短編集〜

槙璃人
恋愛
不定期に更新していく官能小説です。 まだまだ下手なので優しい目で見てくれればうれしいです。 小さなことでもいいので感想くれたら喜びます。 こここうしたらいいんじゃない?などもお願いします。

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

飲みに誘った後輩は、今僕のベッドの上にいる

ヘロディア
恋愛
会社の後輩の女子と飲みに行った主人公。しかし、彼女は泥酔してしまう。 頼まれて仕方なく家に連れていったのだが、後輩はベッドの上に…

処理中です...