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第七話 女の人①
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今日もお仕事が終わったらゼルバとデートだ。
ただいつもと違うのは、今日は外ではなく、ゼルバのお家でデートをするのだ。
お家なら、もっとゼルバと触れ合える。嬉しいような恥ずかしいような気持ちでいっぱいで、私は朝から心の中でキャアキャアはしゃいでいた。
ダ、ダメよレノン。仕事に集中しなければ。
私は浮かれまくった気持ちを鎮めるため、深呼吸をした。
そんな時に、入り口のドアのベルがカランカランと鳴った。
「らっしゃい!」
「いらっしゃいませ」
キノルルと一緒に笑顔で挨拶をした。
お客さんはどうやら女の人のようだ。
女の人はカツカツブーツを鳴らしながら、一直線にこちらにやって来る。
カウンターに手を置き、乗り出すようにこちらへ体を向けると、じぃっと私の顔を睨んだ。
「貴方がクッキー屋の娘?」
「は、はい。クッキー屋を営んでいるのは私です」
女の人はジロジロ値踏みするように、頭のてっぺんからつま先まで私を見つめた。
「ふーーん。ゼルバ様の恋人と言うからどんな美人かと思ったら、たいしたことないのね」
「……」
たいしたことないと言われて、その通りなのだがほんのちょっとだけ傷付いた。
私はしょんぼりうつむいてしまう。
女の人はそのまま不満げな表情で話しを続ける。
「なぜ貴方みたいなのが、あのゼルバ様の恋人なのかしら? 理解不能よ!」
この女性はゼルバの知り合いなのかしら? なぜこんなことを言うのだろう?
不思議に思ったが、それよりも気になることがあったのでオドオドと口を開く。
「あ、あの……どうして私たちがお付き合いしていることを知っているのですか?」
別に隠してもいないが、言いふらしたりもしていない。どこから聞いたのか気になったのだ。
女の人は、苛立ったように赤い髪をかき上げる。
「街中の噂よ!! 硬派で滅多に女になびかないゼルバ様に恋人が出来たって!! しかもその恋人にメロメロで、溺愛してるって!!」
「!」
そ、そんな噂が広まっていたなんて……。全然耳に入っていなかったわ。やっぱりゼルバほどの有名人になると、恋人が出来ただけで話題になるのね。流石だわ。――などと感心していたら、女の人がバンッとカウンターを叩いた。
「なんでアンタみたいなブスがゼルバ様の恋人なのよ! どうせ、その貧相な体で誘惑したんでしょう!? 浅ましい女!!」
「……」
誘惑なんか……してないもん。
だが、女の人の剣幕に怯えてハッキリ否定できなかった。私はしゅんと項垂れてしまう。
見かねたキノルルが声を上げた。
「お客さん。困りますよ。うちの従業員を虐めないでください」
「まぁ! こうやって弱々しいフリをして男の同情を買うのね!? したたかな女!!」
「ちょっとお客さん……!」
私はキノルルの腕を引っ張ってフルフルと首を振った。
「いいの。キノルル、ありがとう」
「……。でもよぉ~」
「それよりお客様。私になにか用があっていらっしゃったのですか?」
オドオドと女の人に目を向けると、女の人はキッと私を睨んで『そうよ!』と叫んだ。
「アンタ! ゼルバ様と別れなさいよ!! ゼルバ様にこんな貧乏くさい小娘は似合わないわ!!」
「……」
「ゼルバ様には、わたくしのような女性が相応しいのよ。貴方がしゃしゃり出て来る前は、わたくしたちとても良い関係だったのよ? それなのに貴方みたいな卑しい娘がゼルバ様を誘惑し、わたくしから奪い取ってしまった。わたくしがどれほど傷付いたか、貴方に理解できて?」
「そ、それはすみません。でも、私もゼルバのこと好きなんです」
「気安くあの方を呼び捨てで呼ばないで!! ただの小娘のくせに図々しい!」
図々しいと言われて、ビクッと体が震えた。
「すみません……。でも――」
「でもじゃないわよ! わたくしが別れなさいと言ったら、素直に従いなさい!」
「……」
私のことを憎々しげに見つめながら、女の人は更に話を続けた。
ただいつもと違うのは、今日は外ではなく、ゼルバのお家でデートをするのだ。
お家なら、もっとゼルバと触れ合える。嬉しいような恥ずかしいような気持ちでいっぱいで、私は朝から心の中でキャアキャアはしゃいでいた。
ダ、ダメよレノン。仕事に集中しなければ。
私は浮かれまくった気持ちを鎮めるため、深呼吸をした。
そんな時に、入り口のドアのベルがカランカランと鳴った。
「らっしゃい!」
「いらっしゃいませ」
キノルルと一緒に笑顔で挨拶をした。
お客さんはどうやら女の人のようだ。
女の人はカツカツブーツを鳴らしながら、一直線にこちらにやって来る。
カウンターに手を置き、乗り出すようにこちらへ体を向けると、じぃっと私の顔を睨んだ。
「貴方がクッキー屋の娘?」
「は、はい。クッキー屋を営んでいるのは私です」
女の人はジロジロ値踏みするように、頭のてっぺんからつま先まで私を見つめた。
「ふーーん。ゼルバ様の恋人と言うからどんな美人かと思ったら、たいしたことないのね」
「……」
たいしたことないと言われて、その通りなのだがほんのちょっとだけ傷付いた。
私はしょんぼりうつむいてしまう。
女の人はそのまま不満げな表情で話しを続ける。
「なぜ貴方みたいなのが、あのゼルバ様の恋人なのかしら? 理解不能よ!」
この女性はゼルバの知り合いなのかしら? なぜこんなことを言うのだろう?
不思議に思ったが、それよりも気になることがあったのでオドオドと口を開く。
「あ、あの……どうして私たちがお付き合いしていることを知っているのですか?」
別に隠してもいないが、言いふらしたりもしていない。どこから聞いたのか気になったのだ。
女の人は、苛立ったように赤い髪をかき上げる。
「街中の噂よ!! 硬派で滅多に女になびかないゼルバ様に恋人が出来たって!! しかもその恋人にメロメロで、溺愛してるって!!」
「!」
そ、そんな噂が広まっていたなんて……。全然耳に入っていなかったわ。やっぱりゼルバほどの有名人になると、恋人が出来ただけで話題になるのね。流石だわ。――などと感心していたら、女の人がバンッとカウンターを叩いた。
「なんでアンタみたいなブスがゼルバ様の恋人なのよ! どうせ、その貧相な体で誘惑したんでしょう!? 浅ましい女!!」
「……」
誘惑なんか……してないもん。
だが、女の人の剣幕に怯えてハッキリ否定できなかった。私はしゅんと項垂れてしまう。
見かねたキノルルが声を上げた。
「お客さん。困りますよ。うちの従業員を虐めないでください」
「まぁ! こうやって弱々しいフリをして男の同情を買うのね!? したたかな女!!」
「ちょっとお客さん……!」
私はキノルルの腕を引っ張ってフルフルと首を振った。
「いいの。キノルル、ありがとう」
「……。でもよぉ~」
「それよりお客様。私になにか用があっていらっしゃったのですか?」
オドオドと女の人に目を向けると、女の人はキッと私を睨んで『そうよ!』と叫んだ。
「アンタ! ゼルバ様と別れなさいよ!! ゼルバ様にこんな貧乏くさい小娘は似合わないわ!!」
「……」
「ゼルバ様には、わたくしのような女性が相応しいのよ。貴方がしゃしゃり出て来る前は、わたくしたちとても良い関係だったのよ? それなのに貴方みたいな卑しい娘がゼルバ様を誘惑し、わたくしから奪い取ってしまった。わたくしがどれほど傷付いたか、貴方に理解できて?」
「そ、それはすみません。でも、私もゼルバのこと好きなんです」
「気安くあの方を呼び捨てで呼ばないで!! ただの小娘のくせに図々しい!」
図々しいと言われて、ビクッと体が震えた。
「すみません……。でも――」
「でもじゃないわよ! わたくしが別れなさいと言ったら、素直に従いなさい!」
「……」
私のことを憎々しげに見つめながら、女の人は更に話を続けた。
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