ふたりの灯台ラブストーリー

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第一話 灯台でうっかり死にかかっている人を助ける話

§7 - 午後四時半

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 マズローの欲求階層説というものがある。

 人間の欲求は幾つかの段階に分類されるという考え方で、新入社員研修の時に「マーケティングの基本だから活用できるよう覚えておけ」と言われ、ピラミッド型の図と共に教わった。たしかピラミッドの最下層は生きるために必要な本能的な欲求で、食欲や睡眠欲そして性欲……。

(ならばオレが今おっ勃ってしまっているのは仕方のないことで!!)

 気力体力限界のまま二十連勤が明け、睡眠欲と食欲を満たした後に人命救助といえども考えようによってはラッキースケベなエロいシチュエーションに出くわした場合、二十代後半独身ゲイの肉体で発生する現象としては自然なものと言えるのだが。

(でもだからといって、さすがにこれはマズいだろうっつ!!!)

 右手が、止まらない。

 そう、少年の腹を温めていた筈の右手がズルっとあらぬ方向へ下りた後から、己の意思に反してさわさわと動き続けているのだ。もっと具体的に表現するなら、下着の上から指の腹を使って撫で回している状態。何を撫で回しているかといえば、恐らく低体温症が治る過程で身体の自然な反応として発生したと思しき、少年の勃起したペニスである。

(オ、オレは……年下は対象外……のはず……)

 頭の中でパニックを起こしながらも、カウパーでビショビショに濡れながら張り詰めているペニスの存在を知ってしまったからには、何かしてやらねばなるまい……というより本能と欲望に忠実な表現をするなら今すぐしゃぶりたい。でもそれはダメ、ゼッタイ! まずは合意を取ってから……ってそれもマズいだろうが!!

「……うぅ……あっ……」

 その時、少年が身じろぎした。

 体格差もあり、ちょうど少年の顔を見下ろす形になっていたので気づいてしまった。頬が赤く染まり、伏し目がちの瞳がうるんでいる。息まで荒くなっている。そして布越しでも分かる、竿の上に浮き出る血管、張り詰めまくった大きめのカリ。言うまでもなく滅茶苦茶コーフンしている。お互いに。

「えっと、その……辛いだろ?」

 オレは何を口走っているのだろうか。

「……あ、は、はい……」

 少年が上目遣いでこちらを見る。あ、これは本当にやばいかも。どうしよ。マジで好みの顔してる。

「あ、あのさ、ちょっと……しんどいだろうし……抜いていい?」

 よりによってそんな言い方するとか!! オレもパニクってる!!

「い、嫌なら……止めるけど」

 せ、せめて合意だけは取らねば……なけなしの理性を振り絞って尋ねたところ。

「嫌じゃないです」

 少年が目を合わせてハッキリ宣言してくれた。やばい。年下なのにかっこよくてドキドキする。
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