3 / 62
第一話 灯台でうっかり死にかかっている人を助ける話
§2 - 正午
しおりを挟む
南へ向かう国道を、オアシスブルーのスバル・クロストレックが進む。一ヶ月半ぶりにエンジンをかけたのでヒヤヒヤしていたが、バッテリーは無事で安堵した。
——いい睦月、絶対に事故らないでね! それから、バッテリーが上がらないように、こまめに長距離ドライブして。あと、月に二回は洗車すること!
義兄の海外赴任が決まったため、購入したばかりの愛車を泣く泣く弟へ譲る羽目に陥った姉の説教もといアドバイスを思い出す。
(しかし姉さん。社畜のオレは月に二回も洗車できません)
そもそも、月に一回運転できれば良い方なのだ。とはいえ、女だてらに辣腕カーディーラーとしてブイブイ言わせていた姉の愛車であるからに、弟としてはせめて長距離ドライブの約束だけは守らねばなるまい。
「それにしても、いいクルマだよなあ」
思わず独り言が出てしまった。洋楽の超低音ベースラインが車内にべんべんと響き渡っているからだ。専用スピーカーを積んでいるだけあり音質は格別で、通勤時にイヤホンで聴いているのとは大違い。エンジン音も軽やかで、あまり力を入れずにアクセルを踏める。ブレーキの効きもなめらかだし、見た目も中身も最高にかっこいい車だ。ああ、これでデートなんてした日には……。
——カーセックスしたら殺す!!!
車のキーを受け取った時、目が据わった姉から言われた台詞を思い出す。
(安心しろ姉さん。オレにそんな相手は存在しない……下手したら未来永劫……)
そもそもゲイですから……とつぶやいた後、助手席へちらりと視線を送り、大きな溜息をつく。コミュ障とネガティブ思考の悪循環もあり、恋人いない歴イコール年齢のまま二十六歳になってしまった。しかもこれだけ社畜だと、現在の会社にいる限り恋人はできないだろう。出会い系でも使えば別かもしれないが……。
——うわ、何だよサイアク。
——おまえってホント顔しか取り柄のない男だな。
突然ぶわっとフラッシュバックが始まって、思わずアクセルを踏みこみそうになった。恋人どころかトラウマになった出来事が脳裏をよぎる。そういえば、あれから五、六年は経ったんだよな。もう顔もろくに思い出せない相手との、悪夢の出来事。
「考えない!! かーんーがーえーなーいーっつ!!」
ハンドルを強く握って絶叫する。車の中で良かった。ふとカーナビへ視線を送れば、交差点を曲がると海岸沿いの道に出るという表示が見えた。すると、新鮮な魚を食わせてくれる店があるかもしれない……軽い気持ちでウィンカーを出し、車線変更した。その先に何が待ち受けているか分からないまま。
——いい睦月、絶対に事故らないでね! それから、バッテリーが上がらないように、こまめに長距離ドライブして。あと、月に二回は洗車すること!
義兄の海外赴任が決まったため、購入したばかりの愛車を泣く泣く弟へ譲る羽目に陥った姉の説教もといアドバイスを思い出す。
(しかし姉さん。社畜のオレは月に二回も洗車できません)
そもそも、月に一回運転できれば良い方なのだ。とはいえ、女だてらに辣腕カーディーラーとしてブイブイ言わせていた姉の愛車であるからに、弟としてはせめて長距離ドライブの約束だけは守らねばなるまい。
「それにしても、いいクルマだよなあ」
思わず独り言が出てしまった。洋楽の超低音ベースラインが車内にべんべんと響き渡っているからだ。専用スピーカーを積んでいるだけあり音質は格別で、通勤時にイヤホンで聴いているのとは大違い。エンジン音も軽やかで、あまり力を入れずにアクセルを踏める。ブレーキの効きもなめらかだし、見た目も中身も最高にかっこいい車だ。ああ、これでデートなんてした日には……。
——カーセックスしたら殺す!!!
車のキーを受け取った時、目が据わった姉から言われた台詞を思い出す。
(安心しろ姉さん。オレにそんな相手は存在しない……下手したら未来永劫……)
そもそもゲイですから……とつぶやいた後、助手席へちらりと視線を送り、大きな溜息をつく。コミュ障とネガティブ思考の悪循環もあり、恋人いない歴イコール年齢のまま二十六歳になってしまった。しかもこれだけ社畜だと、現在の会社にいる限り恋人はできないだろう。出会い系でも使えば別かもしれないが……。
——うわ、何だよサイアク。
——おまえってホント顔しか取り柄のない男だな。
突然ぶわっとフラッシュバックが始まって、思わずアクセルを踏みこみそうになった。恋人どころかトラウマになった出来事が脳裏をよぎる。そういえば、あれから五、六年は経ったんだよな。もう顔もろくに思い出せない相手との、悪夢の出来事。
「考えない!! かーんーがーえーなーいーっつ!!」
ハンドルを強く握って絶叫する。車の中で良かった。ふとカーナビへ視線を送れば、交差点を曲がると海岸沿いの道に出るという表示が見えた。すると、新鮮な魚を食わせてくれる店があるかもしれない……軽い気持ちでウィンカーを出し、車線変更した。その先に何が待ち受けているか分からないまま。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
肌が白くて女の子みたいに綺麗な先輩。本当におしっこするのか気になり過ぎて…?
こじらせた処女
BL
槍本シュン(やりもとしゅん)の所属している部活、機器操作部は2つ上の先輩、白井瑞稀(しらいみずき)しか居ない。
自分より身長の高い大男のはずなのに、足の先まで綺麗な先輩。彼が近くに来ると、何故か落ち着かない槍本は、これが何なのか分からないでいた。
ある日の冬、大雪で帰れなくなった槍本は、一人暮らしをしている白井の家に泊まることになる。帰り道、おしっこしたいと呟く白井に、本当にトイレするのかと何故か疑問に思ってしまい…?
凶悪犯がお気に入り刑事を逆に捕まえて、ふわとろま●こになるまで調教する話
ハヤイもち
BL
連続殺人鬼「赤い道化師」が自分の事件を担当する刑事「桐井」に一目惚れして、
監禁して調教していく話になります。
攻め:赤い道化師(連続殺人鬼)19歳。180センチくらい。美形。プライドが高い。サイコパス。
人を楽しませるのが好き。
受け:刑事:名前 桐井 30過ぎから半ば。170ちょいくらい。仕事一筋で妻に逃げられ、酒におぼれている。顔は普通。目つきは鋭い。
※●人描写ありますので、苦手な方は閲覧注意になります。
タイトルで嫌な予感した方はブラウザバック。
※無理やり描写あります。
※読了後の苦情などは一切受け付けません。ご自衛ください。
平凡でツンデレな俺がイケメンで絶倫巨根のドS年下に堕ちたりにゃんか絶対しにゃい…♡
うめときんどう
BL
わたしの性癖全て詰め込んでます…♡
ツンデレだけど友達もそこそこいる平凡男子高校生!
顔も可愛いし女の子に間違われたことも多々…
自分は可愛い可愛い言われるがかっこいいと言われたいので言われる度キレている。
ツンデレだけど中身は優しく男女共々に好かれやすい性格…のはずなのに何故か彼女がいた事がない童貞
と
高校デビューして早々ハーレム生活を送っている高校1年生
中学生のころ何人もの女子に告白しまくられその度に付き合っているが1ヶ月も続いたことがないらしい…
だが高校に入ってから誰とも付き合ってないとか…?
束縛が激しくて性癖がエグい絶倫巨根!!
の
2人のお話です♡
小説は初めて書くのでおかしい所が沢山あると思いますが、良ければ見てってください( .. )
私の性癖が沢山詰まっているのでストーリーになっているかは微妙なのですが、喘ぎ♡アヘアヘ♡イキイキ♡の小説をお楽しみください/////
【R18】保健室のケルベロス~Hで淫らなボクのセンセイ 【完結】
瀬能なつ
BL
名門男子校のクールでハンサムな保健医、末廣司には秘密があって……
可愛い男子生徒を罠にかけて保健室のベッドの上でHに乱れさせる、危ないセンセイの物語 (笑)
ずっと女の子になりたかった 男の娘の私
ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。
ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。
そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。
ご飯中トイレに行ってはいけないと厳しく躾けられた中学生
こじらせた処女
BL
志之(しの)は小さい頃、同じ園の友達の家でお漏らしをしてしまった。その出来事をきっかけに元々神経質な母の教育が常軌を逸して厳しくなってしまった。
特に、トイレに関するルールの中に、「ご飯中はトイレに行ってはいけない」というものがあった。端から見るとその異常さにはすぐに気づくのだが、その教育を半ば洗脳のような形で受けていた志之は、その異常さには気づかないまま、中学生になってしまった。
そんなある日、母方の祖母が病気をしてしまい、母は介護に向かわなくてはならなくなってしまう。父は単身赴任でおらず、その間未成年1人にするのは良くない。そう思った母親は就活も済ませ、暇になった大学生の兄、志貴(しき)を下宿先から呼び戻し、一緒に同居させる運びとなった。
志貴は高校生の時から寮生活を送っていたため、志之と兄弟関係にありながらも、長く一緒には居ない。そのため、2人の間にはどこかよそよそしさがあった。
同居生活が始まった、とある夕食中、志之はトイレを済ませるのを忘れたことに気がついて…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる