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第二部 学校編

8.

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 予備のTシャツが部室にあるという小山田くんと、校庭脇の部室棟へ向かう。

「けっこう濡れたな。大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫」

 キィちゃんはほんと容赦がないよね。
 でも、女のコのマドカに水をかけなかっただけエライかな。
 
 サッカー部の部室に着くと、小山田くんの先輩たちがちょうど部室から出てくるところだった。

 事情を話して、部室の鍵をあずかった小山田くんといっしょに部室に入る。

「おじゃまします」

 サッカー部は大所帯だから部室も広い。イメージしていたよりも、きれいに片付いていて清潔だった。
 運動部に所属した経験がないぼくは、思わずきょろきょろしてしまう。

「カズ、これ」
 
 小山田くんがロッカーから、黒のTシャツを出すとぼくに向かって差し出す。

「ありがとう」
「サイズは合わないだろうけど、ないよりマシだよな?」
「じゅうぶんだよ。あと、出来ればズボンも貸してもらえるとうれしいんだけど。ちょっと冷たくて……」
「下着は大丈夫か? コンビニで買ってくるぞ?」
「あ、そっちはなんとか大丈夫」

 借りたTシャツは案の定、ぶかぶかだった。小山田くんにはひざ丈のハーフパンツも、ぼくにはスネ丈だよ。

「カズ、脱いだやつ寄こせ。乾してくるから」
「あ、はい」

 シャツとズボンを小山田くんに渡すと、ハンガーをたずさえて部室を出て行った。

 小山田くんてほんと面倒見がいいよね。
 なにもかも世話になってしまって申し訳がない。

 こういうやさしさって、ぼくなんかに向けている場合じゃないんだよね。
 小山田くんにも、小山田くんの好きな相手にも悪い。

 ――小山田くんの好きなコか……。

「カズ?」

 顔をあげると、思いのほか近くに小山田くんがいてびっくりした。

「お、小山田くん、ありがとう」
「……カズは俺の好きな子、知りたくない?」
「え?」

 心臓をぎゅっとわしづかみされたような気がする。
 ぼくは思わず胸を押さえた。

「教えてくれるの?」
「カズが知りたいんなら」

 いきなりどうしたんだろう? この間はうやむやにされたから、ぼくには教えたくないんだと思ってた。

 小山田くんの真剣な表情を見上げ、ぼくは確信した。
 
 きっと好きなコに対して、いよいよ本気を出すことにしたんだろう。

 つまり、ぼくはもう不要ってこと――。
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