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アラサーαは囲いたい
2.
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「イオリには、パートナーはいるのか?」
『はあっ!?』
最近、パソコン通話をするようになった年上の翻訳家にたずねてみる。
リチャードはどうやら相手の息の根を止めてしまったようだ。ごほごほ、と苦しげな咳がパソコンの向こうから聞こえてきた。
「おい、大丈夫か?」
『……ダイジョーブ』
「で、コイビトは?」
『そんなことより、この間観たDVDが当たりだった』
あからさまにはぐらかしてきた。
イオリはこの手の話題を徹底的に避ける。独身主義者だとちらりと聞いたような……。リチャードはオトナなので、わざと話に乗ってやることにする。
「ふーん。なにを観たんだ?」
『……えっ? ええと、あれ? タイトル忘れた! さっきまでは憶えていたのに!』
「思い出したら教えてくれ」
「お、おう」
イオリ=サクラは、リチャードよりも15も年上のわりには、幼稚で世間知らずだった。長らくひきこもりなんてやっているせいだろうと思う。
そして、秘密主義。
プライベートは、なにひとつ教えてくれない。
対してこちらは自身のガイドブックまで出ている有名人だ。全世界にプライベート情報が筒抜けである。ちょっと不公平じゃないか?
リチャードの誕生日に、事務所を通して日本から送られて来たのは、リチャードが以前から手に入れたかった万年筆――ワイバーンNo.81だった。おそらく入手するのに、ひどく苦労したことだろう。
「礼に誕生日プレゼントくらい贈らせろよ」
『いらないよ。気持ちだけもらっておく』
日本人は慎ましいとは聞いていたけれど、慎ましいにもほどがある。イオリは見返りを求めてこないし、求めさせてもくれない。
だから、リチャードはイオリに贈り物をすることにした。
取材旅行に行った先から、美味しい菓子を食べた店から、イオリにいつか見せてあげられたらいいと思う、さまざまなイングランドの風景写真など――。
送られた相手は、パソコンの向こうで困惑していた。どうして、リチャードが贈り物をするのかまったく気付いていない。
イオリなんて、もっと困ればいいのだ。
リチャードだって、年上の友人を相手にずっと困っているのだから――。
『はあっ!?』
最近、パソコン通話をするようになった年上の翻訳家にたずねてみる。
リチャードはどうやら相手の息の根を止めてしまったようだ。ごほごほ、と苦しげな咳がパソコンの向こうから聞こえてきた。
「おい、大丈夫か?」
『……ダイジョーブ』
「で、コイビトは?」
『そんなことより、この間観たDVDが当たりだった』
あからさまにはぐらかしてきた。
イオリはこの手の話題を徹底的に避ける。独身主義者だとちらりと聞いたような……。リチャードはオトナなので、わざと話に乗ってやることにする。
「ふーん。なにを観たんだ?」
『……えっ? ええと、あれ? タイトル忘れた! さっきまでは憶えていたのに!』
「思い出したら教えてくれ」
「お、おう」
イオリ=サクラは、リチャードよりも15も年上のわりには、幼稚で世間知らずだった。長らくひきこもりなんてやっているせいだろうと思う。
そして、秘密主義。
プライベートは、なにひとつ教えてくれない。
対してこちらは自身のガイドブックまで出ている有名人だ。全世界にプライベート情報が筒抜けである。ちょっと不公平じゃないか?
リチャードの誕生日に、事務所を通して日本から送られて来たのは、リチャードが以前から手に入れたかった万年筆――ワイバーンNo.81だった。おそらく入手するのに、ひどく苦労したことだろう。
「礼に誕生日プレゼントくらい贈らせろよ」
『いらないよ。気持ちだけもらっておく』
日本人は慎ましいとは聞いていたけれど、慎ましいにもほどがある。イオリは見返りを求めてこないし、求めさせてもくれない。
だから、リチャードはイオリに贈り物をすることにした。
取材旅行に行った先から、美味しい菓子を食べた店から、イオリにいつか見せてあげられたらいいと思う、さまざまなイングランドの風景写真など――。
送られた相手は、パソコンの向こうで困惑していた。どうして、リチャードが贈り物をするのかまったく気付いていない。
イオリなんて、もっと困ればいいのだ。
リチャードだって、年上の友人を相手にずっと困っているのだから――。
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