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婚約者とマシュマロ系令嬢

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 唐突だが、シモンは異世界転生者である。
 ある日、ふと気がついたらシモン・モンテイエになっていた。

 目の前の姿見に映し出されるのは、銀髪に紅玉の瞳。
 前世のことをすべて思い出したわけではなかったけれど、見覚えのあるキャラクターだなと、うっすら思った。

 今はまだ幼いけれど、成長したらさぞかしモテるだろう。
 前世、彼女いない歴=年齢つまり童貞であったシモンは、将来をおおいに期待した。

 しかし、この世界。カラフルな見た目の人間だらけなのに、魔法がなかった。

 石畳みで出来た凹凸の激しい道を馬車や人々が行き交い、道端には糞尿が垂れ流しである。
 そんな何百年も昔の中世ヨーロッパ的な光景に、シモンは鼻をつまみながら頭を痛くした。

 もはや伝染病待ったなしですよ、とシモンは宰相である父に訴えた。
 シモンが大人になったような姿の父は、ならばどうする? とおもしろそうによわい8つの少年に無茶を言う。

 シモンは奮起した。
 異世界転生の醍醐味といえば、現代日本の知識を生かした内政だろう。

 モンテイエ領を手始めに、下水道などの生活設備を整え、風呂に入る習慣のない領民のために各所に公衆浴場を置いた。
 未来ある子どもたちに義務教育を施し、各家庭には年収に応じて一定の保険料を納めさせ、手厚い医療制度で領民たちを病や怪我から守った。

 おかげで寿命は延び、人口増加に繋がった。
 人口が増えれば働き手が増える。飲むし食べるし遊ぶし、金が動くから商人や大勢の人間がやって来る。

 モンテイエ領は活気づき、やがてシモンは神の御使いだのと領民に感謝された。

 ――神にも女神にも会ってないんだけどな。

 ◆

 シモンはつい最近まで、自分がこの物語の主人公だと思っていた。

 どこか見覚えのあるシモンの容姿。
 魔法やチートはなくても、願えばある程度は叶うゆたかな環境。

 あとは、可愛いお嫁さんをもらえば完璧じゃないか?
 もちろん、嫁はひとりでじゅうぶんだ。童貞にハーレムとか無茶言わんでくれ。

 婚約者探しを始めれば、国中からシモンと同年代の少女たちの絵姿と釣書きが集まった。

 その中のひとりがマリアベル・オーランシュだった。

 ふっくらした優しげな顔立ちの少女の絵姿は、『素朴』のひとことだった。
 まつ毛やら鼻の高さやら、何かしら盛られている絵姿の中で、唯一の本物に見えた。

「オーランシュ家の四女、マリアベルと申します」

 淑女のお手本のように完璧なカーテーシーであった。

 少女のその姿を見て、シモンはなぜだか胸がいっぱいになってしまった。

 この子、絶対努力家だよ!
 なんでも一所懸命やっちゃうでしょ?
 かなりふくよかだけど、そんなのはまったく問題ない。
 素直そうだし、すれてないし、気立てもよさそう。
 立ち振る舞いはカンペキ!!
 あとおっぱいでかい!!
 好き!!
 結婚したい!!
 てか、する!!

 一目惚れ6秒よりも早い、出会って3秒ほどの出来事であった。
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