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番外編 ギゼル視点

07-03 両手を2時間繋ぎなさい ギゼル視点

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「俺、きっと全然何にもできないと思う。料理とかお菓子作るのは好きだけど、それは俺の世界の色々な道具があってこそできることだし、魔法も全然使えないみたいだし。戦うのなんてもってのほかで、たぶんそこらの小さい子にも負けちゃうと思う。体もそっちの人に比べたら弱いんじゃないかな…。
 だけど、そんなダメな俺でも良いっていってくれるなら。俺はギゼルと一緒の世界にいきたい。毎日おはようって言いたいし、おやすみって言ってほしいよ」


っ……ぅぉぉおお! そうか、まじかぁ、うわくっそうれしいわ!



そのまま叫び出してしまいたかったが、悲しげに泣いているユキミを見て一気に冷静になった。

きっと本気でそう思ってくれてんだろうが、夢だって認識を覆すことはできねえか。まあ、現実のユキミには何も影響がないみてえだしな。せめて何かしらの痕跡でもあればな、良かったんだが。

手を握ったまま、涙を拭ってはやれねえ分、安心させるように精一杯ユキミに笑いかける。このあとも結構酷なこと言っちまうしなぁ。


「ユキミ…。こちらに来るためには、人じゃなくなるとしても、来てくれるか?」

俺からすると、今日判明した魔力と肉体の関係でユキミが人であるか微妙なラインではあるんだが、契約魔になったらもう完全に人ではなくなる。
ユキミに対する態度が今と変わることはないが…あー、もっと甘やかすとかそういう方向ならともかく、契約魔扱いすることはないが、向こうでの扱いは契約魔になるはずだ。
まあ人型の契約魔なんて伝説級だからな、極力隠していくが。それでも今まで通りっていうのは無理だろう。ユキミが自分のことを人間だと思っているなら尚の事、辛いと思うようなことがあるかもしれねえ。

「人じゃなくなる…死んじゃって幽霊になるってことか? それは…寂しい。でも、幽霊になってもこうやって触れ合うことができるなら…いいよ。ギゼルの側でずっとこうしていれるなら、死んじゃってもいいよ」

………まさか死んでもいいって言われるとは思ってなかった。もしかして、俺はかなり愛されてんのか。
くっそ、不謹慎だがかなり嬉しい。まじで、もうこいつ絶対連れてくわ。

「っ……いや、違う。死んだりはしない。ただ、人ではない存在になる。さっき魔力を流してみて分かったんだが、ユキミは今、体が無い魂だけの状態だった。
 そういう存在と契約して自分のものにできる、契約魔というのがあるんだ。ただそれは、基本生きた人間に使えた話どころか、そもそも人型の契約魔というもの自体が伝説的な扱いで、御伽噺だといわれているぐらいのものだけどな。
 ここで俺とユキミが契約できれば、契約魔は契約主のもの、身につけているものと同様の扱いになって、試練を共に脱出できるはずだ」

魂っつうか魔力の塊だし、体がないどころか精霊なんじゃねえかとか、詳しい生態については省いておく。そもそも、ユキミが精霊のような存在であろうとなかろうと、契約魔になったら結果は一緒だからな。精霊でも妖精でも、契約したら人の理で死ぬことになる。まあ体が人間になったりはしないが。

「えっと、俺って今魂なの?こんなに触れるのに?」

「ああ、俺も魔力を流してから違和感を感じて、試してみるまで気づかなかったぐらいだ。ユキミはかなり魂の力があるな」

あんまり突っ込んでこないでくれ、頼む。それでなくても夢かどうかって相違があるんだ、ここでお前は人じゃないかもなって言ったらもっとおかしいことになる。

「えっと、それってさ、その伝説級の存在になっても大丈夫なの?実験動物にされない?」

実験動物って、結構怖い発想してくんじゃねえか。

「人の契約魔に何かをすることは許されない。反撃されて、それで死んだとしてもしょうがないことだというのが常識だな。それに基本契約魔かどうかは本人たちしか分からない。ユキミがよっぽどなにか人外的なことをすれば、バレるかもしれないが」

あー、いっそ契約魔ってバラしちまったほうがいいのか?人間だと思われたままじゃあ可愛いユキミに惚れるやつが出てくるよな。だが、伝説級ってバレて頭のおかしい奴が寄ってきても嫌だ。
まあそれは、無事契約魔にできて、向こうに連れ帰れたら考えればいいか。

「ほほーう、そうなのか。え、迷うことがないぐらい、良いことだと思うけど…?」

ユキミが不思議そうな顔でこっちを見てくる。あっさりしてんな…しかも、なんかワクワクしてねえか? 夢だと思ってるからじゃねえよな?

「まあそうだな。俺からすれば今すぐにでも契約できないか試してえぐらいだ。」

「えぇっ」

「ただ、契約魔になると、魔力や寿命を共有することになるし、ユキミからしたら訳が分からないことになるかもしれないからな」

ユキミがどんぐらい生きるのか分かんねえが、精霊だったら寿命ねえしな。俺は最低でも200は生きられるだろうが、それ以上は個人差でよくわからねえ。
何より契約魔ってことは人扱いはされねえからな。まあ下手な人間より悪くはならねえだろうが、特別扱い自体が嫌な場合もあるだろう。

「あのさ…俺はまだここが、恰好良くて優しいギゼルが、俺の作り出した夢だって思ってる。でも、もしそれが違うって、ギゼルが試したいって言ってくれるなら、俺はいつでもしてほしいよ。
 ギゼルの世界にいける可能性が少しでもあるならさ。契約魔になって、それでも夢から覚めちゃったとしても、また次の、ギゼルに会える夢を俺は待ってるよ」

小さな声を震わせながら伝えてくるユキミに胸が熱くなる。

たとえどっちになったとしても受け入れるってことか。まあ、これで契約魔にできなかったらそれこそ何にもならねえし……。
もしこのままこいつを連れてけなかったら、一生かけてアーティファクトを探しながらの罠荒らしだな。ユキミにここまで想われてんなら、喜んでするさ。

「そうか…じゃあ俺の契約魔にするぞ?」

「うん、ギゼルの契約魔にしてください」

あー、神様。どうかこいつを俺にください。


魔力を練り出そうとして気づく。

「あ、ユキミ、家名はなくなるが大丈夫か?」

いくら親とあんま良い関係じゃねえとはいえ、自分を構成する一部だろうからな。一応聞いておくか。

「んぇ?…俺は大丈夫だけど、ギゼルは大丈夫?」

間抜けな声をあげながら少し首を傾げているユキミに和む。

っつーか何で俺が大丈夫か聞かれんだ。お前のことだぞ。

「あ?俺か?」

「ギゼル、俺の家名大好きじゃん」

はぁ?

「別に好きじゃねえだろ…………お前、もしかしてアキラの方が名前か?」

「…うん」


………………………くっそ。


あー、あー、あー、あー。


………なんで家名が前にきてんだよ!


つまりあれか、今まで俺はずっと名前で呼んでたのか!?

くっそ………………くっそぉ、なにやってんだ俺は!

恥ずかしくてユキミを見てらんねえ。

「はぁ、最悪だ。ずっと勘違いしてたのか」

「……実は、名前で呼んでもらえないの寂しいって思ってた」

早く言ってくれ!

「早く言えよ」

「いや、頑なに幸見って呼ぶからさ、名前は呼びたくないのかなって」

「んなわけねえだろ……あー、だっせえ」

まぁじでだっせえ、魔力循環させても落ち着かねえ!

はぁー、駄目だ。落ち着け。契約は双方の合意があれば子供でもできる簡単なもんだが、精霊っぽいとはいえユキミの生態は未知数だしな。落ち着いてやったほうが間違いはねえはずだ。

頭をふって意識を切り替え、魔力を練り出しながらさっきのは無かったことにして、もう一度ユキミに確認する。

「家名はなくなるが大丈夫だな?アキラ」

「ぅははっ、大丈夫だよ!」

くっそ、可愛いけどな、笑ってんじゃねえ。

ちょっと目が据わっちまうのも仕方ねえと思いながらユキミを見ていると、少し悲しそうに目を伏せていた。…やっぱ、自分の現実を捨てるなんてそう簡単なもんじゃねえか。

俺の一生をかけて、こっちを選んで良かったと思わせてやる。

それも契約魔になってもらわねえとできねえし、とにかく今は魔力を練るか。






念のためにかなりの時間魔力を練り出していたが、多分そろそろ大丈夫だろう。

練り出すままに試練の場いっぱいに広げていた俺の魔力でユキミ、じゃねえ、アキラを覆うようにして、そのまま魔力を流し込む。
俺の魔力とアキラの魔力を合わせるようにしていけば、魔力がどんどん混ざりあっていき、アキラの魔力が全て変わった。

そうすれば、今までアキラに流した魔力を押し返すように、混ざって変化したアキラの魔力があふれ出して俺に流れてくる。
それに身を任せれば、俺の魔力もアキラの魔力と溶けて混じって塗り替わる。

よしよし、ちゃんと契約できそうだな。

全ての魔力が混ざり合うと、お互いの魔力は落ち着いていった。


が、アキラはそのままふらりと倒れちまった。

おいおいおい、大丈夫か?

「アキラ?」

慌てて呼びかけるが起きる様子はねえ。

契約して気絶するなんて聞いたことねえが………アキラの生態が違うせいか?

………悩んでも、今更どうしようもねえ。一応のんびり寝ているだけに見えるし、さっさとここを出て調べるべきだな。

連れて出れるよな…契約はちゃんとされてる、アキラとの繋がりも感じる。
このままここに取り残されちまわねえだろうな。頼むぞ。





……あとどれぐらいで試練は終わるんだ。あー、もっとぎりぎりまで粘ってからにするべきだったか?

…いや、それで契約する前に試練が終わってた方がまずかったはずだ。

「アキラ」

くっそ。

アキラを囲い込むように抱きしめながら両手を握り、この試練が終わるのを待つ。




アキラを抱えて目を瞑りながら、一緒に外に出れるように祈っていると、その時はやってきた。


「っ、くっそ」

ものすごい寒さを感じて目を開けた。

やべえ。

細氷ダンジョンで罠荒らしをしていたことをすっかり忘れていた。

細氷ダンジョン用の装備を取り出し急いでアキラに被せる。が、絶対これだけじゃ足りねえ。さらに野営用の毛布を取り出してぐるぐる巻きにしていく。

くっそ、嬉しさを感じている暇がねえ。

なんで俺は地下8階とかいう中途半端な位置にいたんだ。10階層なら転移で即地上に出れんのに。くそあほ馬鹿野郎か俺は!

アキラを抱き上げてとにかく10階層を目指して走る。あー、くっそ、このままじゃ俺はともかくアキラが心配だ。

幸い9階層にはすぐ下りれたが。……あんまこういうのはよくねえんだけどな、背に腹は代えられねえ。

魔力を練り上げて複数の火球を作りだし、ある程度の大きさになったやつから進行方向の離れた地面にぶつけていく。


ドオォンッ!!  ドオォォンッ!!  ドオォンッ!!


蒸気は上がっているし雪はある程度飛ばせているが、多分そこまで温度は下がらねえだろう。

本当はこのまま自分の側に火を留めて置ければいいんだが…俺はそれができねえんだよな。
ブレるからこっちに当たるかもしれねえし、デカくなって火球になったあと最終的には爆発しちまう。くっそ、昔からもっと真面目に練習しておけばな…あー、これから鍛えるとしたらあと何十年かかんだか。


後悔しつつも、火球を作り続けて、10階層を目指して走る。元々魔力自体は多いからそこは大丈夫だが。


ドオォドドオォンッ!!!  ドオォンッ!  ドゴオオオオンッ!!!!


どんどん魔力操作に荒が出てくる。くっそ、地面が抉れて逆に走り連れえとこもできちまった。

っつーか、こんだけうるさくしようがアキラはピクリともしねえな。……早くここから出て状態を見てやんねえと。





______________________________




なんとか地上に戻り、ようやく宿に帰ってきた。

一生ここに足止め食らう可能性も考えて向こう数年分は金を払ってあるからな、そのまま自分の割り当てられてた部屋に直行する。


「おいおいおい、無視すんじゃねえ!」


足で扉を蹴破って入ると、まあ一応手入れはされてるみてえだな。部屋は普通の温度だが、これじゃあまだ寒いだろうし、魔術具だしてベッド周りだけでも温めるか。
何重にも毛布でくるまれたアキラから外側の一枚だけはずし、それより下が濡れてないかどうか確認する。よしよし、中まで雪がしみ込んだりしてねえな。


「おい、聞こえてんだろうがっ!!」


呼吸がしやすいように顔周りだけ毛布から出し、触れて体温を確かめる。やっぱ冷てえか。俺の体温が移るようにそのまま触っておく。

「おい!!クソ変態冒険者!!!」

「さっきからうっせえんだよ!っつーか人の部屋に勝手に入ってくんじゃねえ!」

「お前が止まんねえうえに無視するからだろうが!」

ちっ クソギルマス、せっかく落ち着けるってのに、邪魔すんじゃねえ。

「うるせえ、調査用アーティファクトを貸しもしねえクソギルマスなんかに用はねえんだよ!」

あーあ、アキラの体の状態をアーティファクトで調べてえからって、アキラを抱えたまま直接ギルドに行くとか馬鹿なことしちまった。

「魔物相手ならともかく、それ以外でほいほい貸せるわけねえだろうが!!」

「マジでうるせえな、耳が傷ついたらどうしてくれんだ、あ?もううるせえからクソギルマスは外に出ろ」

アキラの耳がおかしくなったらどうするつもりだ。

近くにいたいとこだが、一旦このギルマスを何とかしねえとどうしようもねえ。ギルマスの腕を掴んでさっさと部屋の外に向かう。

「はぁ、最初からそうしろってんだクソ変態冒険者!」

「うっぜえな」

外に出てから扉をしめて、そのまま部屋の前の廊下で話はじめる。部屋自体に軽い結界と防音が掛かっているから、多少うるさくしても大丈夫だろう。宿からしたらいい迷惑かもしれねえが。

「で、なんだ?」

「どういうことだ」

「何がだよ」

「何がじゃねえ、あの坊ちゃんだよ」

「うるせえ、だから俺の…」

…あ? 

「おい、なに急に黙ってんだ?」

今なんか揺れたか?なんか近くで……アキラか!? 今出てきたばかりの扉を慌ててタックルするように開けて部屋の中に戻る。

「おい、ちょっとまて!」

「うるっせえ!ついてくんじゃねえ!!」

「ついていくに決まってんだろうがっ!気でも狂ったかってぐらいダンジョンに籠ったかと思えば、寝衣姿の令息を抱えて帰ってくるたあ、どういう了見だ!どこかで犯罪でも犯してきたんじゃねえだろうな!?」

そのダンジョンから連れて帰ってんだよ!っつーか俺が何を言おうがアキラに会って話すまで納得しねえじゃねえか。
恋人が寝たきりになって心配だって言ったらブチギレただろうがよ!変態だ誘拐だ余計なお世話だ。

「ギゼル、大丈夫?」

「「っ!!」」

「アキラ!!目が覚めたのか」

やっぱさっき魔力を感じたと思ったがアキラだったのか。ああー、くそ、良かった。

「うん、目が覚めた」

すぐにアキラの側に寄って肌に触れば、体温が戻っていた。よしよし。
そのまま周りの毛布を適当に投げ飛ばしていく。もうこいつらの仕事は終わりだからな。

ようやく安心して話せるだろうとアキラを見ると、アキラはこちらではなく扉の方をみていた。
………ギルマスか。せっかくアキラが起きたっつうのによ。

ついでにギルマスを見ながらなんか悩みはじめちまった。そして俺とギルマスを交互に見ては困り顔だ。どうすっかな。

ギルマスからの視線を遮るようにアキラの前に立つ。

「こいつはダンジョンで見つけた。詳細は話さないがこいつはこいつの意思でここにいる。精神操作が心配なら魔術具でもアーティファクトでもなんでも持ってこい」

アキラが起きて普通に俺と話してるのを見たから疑いは晴れただろうが。

「はぁ。…話してる感じ問題なさそうなのはわかったが、一応聞かせてもらうぞ。
 坊ちゃん、こいつに無理やり連れてこられたんじゃねえな? 何かを恩に着せられて逃げられねえとか、誰かに売られてこいつに買われたとか、そうじゃねえんだな?」

「はい、大丈夫です。俺の意思でここにいます」

アキラは一生懸命頷いてギルマスを見つめている。 やめてくれ、そんな幼気な態度だとぜってえこいつ世話焼こうとしてくる。

「大丈夫そうだな。はぁー、まったく、上位冒険者の不祥事かと思って焦ったぜ。まあ、当人同士が問題ないって言うならこっちは関与しねえが…なにかあったらすぐに冒険者ギルドにくんだぞ、坊ちゃんよ」

「えっと、坊ちゃんじゃなくて明と言います。心配していただいてありがとうございます。特に問題はありませんが、何かあった時はどうぞよろしくお願いします」

あーあーあー、アキラは良い子だな、良い子なんだが、そんな態度だとマジで会う奴会う奴絆しちまってやべえ。
冒険者は荒くれものばっかだ…いや、今時深窓の令嬢ですらそんな態度じゃねえんだ、マジで危ねえ。

「……ほら、さっさと出てけ」

半目で見ながら扉を指さしてやる。

「まったく、これだから上位冒険者は可愛くねえんだよ。アキラ、困ったことがあったらなんでも言うんだぞ!俺は冒険者ギルド、フローレス支部のギルドマスターヤニックだからな!」

さり気なく名前を名乗るんじゃねえ。

「あ、はい、ヤニックさん、お疲れ様です」

なあにが上位冒険者は可愛くねえだ、今の下位冒険者は生意気、新人は見込みがねえ、どいつだって基本気に入らねえだろうがクソ爺。
いつもは「一応フローレスのギルドマスターだが、なにかあったら副の方に頼め」って愛想もなく言ってるじゃねえか。

すかした顔してこっち見てくんな、ぜってえ心の中でアキラにデレデレしてんだろ?うっぜえ。

「ギゼル、口と態度悪くないか?」

「お前を怖がらせないように多少取り繕ってた部分はある。どこでもこんなもんだ。アキラこそあまり丁寧に対応しなくていい、ああいう態度はこっちじゃ貴族だってしねえのがほとんどだ」

あー、わりい、結構おれもかっこつけてんだよな。だが、マジで変な奴が近づかないように目を光らせとかねえとまずいよなぁ。

「そうなの?貴族も…? 俺が想像する貴族よりもなんだか楽しそうだ」

アキラはどんな貴族を想像してんだ………?

アキラの顔を見つめながらそんなことを考えていると、楽しそうだった顔が急に陰りだした。不安そうに目が伏せられちまう。
寄り添うためにアキラの隣に座り、そっと肩をを抱き寄せた。

「心配そうな顔だな。上手くやっていけるか不安か?」

アキラはこちらを見ながら何かを迷っているようだったが、結局目を瞑ってよりかかってきた。元気のない、寂しそうな声で話し始める。

「まだ夢の続きなのかなって思ってさ。いつもは試練が終わった時に夢から覚めてたんだ。もしこんな希望を見せられた後で夢が覚めたら、まともじゃいられないかもなって…」

だんだんと声が震えてきて、そのまま言葉に詰まっちまったみてえだな。ユキミからすれば夢の続きなんだよな、ここが。これは長期戦でいくしかねえだろう。

「アキラ…まだ信じられないと思う、当然だ。一生かけてこれが夢じゃないってわかってくれればいい。不安なときはそう言って泣いてくれ、我慢は絶対するな」

アキラからしたら何言ってんだって感じだろうが、不安だと泣くアキラも可愛くて仕方ねえ。俺を選んで俺の側で辛いと泣く、その涙を何度だって拭いたい。

そっちの現実にいけなくてわりい、こっちに来てくれてありがとう。そう思いながら抱きしめて、瞼にキスをする。
そのまま力を抜いてされるがままなのも愛しいんだよな。我慢できずにおでこや鼻にもキスしていく。

「っはは、くすぐった」

「お前はどこもキスしがいがあるからな」

泣いてんのも可愛いが、もちろん笑顔が一番だ。ちょっと気が抜けたようなアキラの声につられて俺の声のトーンも上がる。
最初からずっと、まぁじで可愛いんだよ、お前は。

アキラは急にがばっと抱きついてきたかと思うと

グーーっ

盛大に腹を鳴らした。

ふっ、まぁじで可愛いし面白いわ。

照れたように視線うろうろさせてんのを見て揶揄おうかと思ったが、腹が空くのはいいことだ。なによりも、アキラと一緒に飯を食えるってのが嬉しいしな。

「宿の飯はまだ時間外だから、いま手持ちにあるやつ適当に食うか」

「……うん」

なんとも言えない顔でゆっくりと頷く姿を見つつ、アキラ用のマジックバッグに詰め込んだもんが披露されるかと思うとワクワクしてくる。

ランジャのジュースだけじゃなくて食べ物も披露される機会がくるとか、まじで良かったわ。

アキラと会えて、こっちに無事連れてこられて、これから2人で過ごしていけるとか、それこそ夢みてえだ。

今後はダンジョンの罠に気を付けねえと。災害級に会うなんて絶対ごめんだからな。









______________________


ひとまずこれにてギゼル視点完結。ここまで読んでいただきありがとうございました。

このあとは主人公視点に戻って番外編を少し書きたいなと思っています。


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