美味しい珈琲と魔法の蝶

石原こま

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(番外編)男たちの珈琲談義(1)

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 俺たち三人が久しぶりに顔を合わせたのは、初夏の兆しを感じるようになった夕刻のことだった。

 ルバートはこの秋、ついにアメリアと結婚することが決まった。



「ルバート。とりあえず、おめでとう。公爵閣下が全く反対しなかったのは意外な気もするが、良かったな。」



 フェリクスがグラスを上げる。

 それに対して、ルバートも答え、グラスを持ち上げる。



「ああ、そうだな。でも、父上はバランス重視の方だから、俺が目立ちすぎるのを嫌ったんだろう。これだけ名が上がってしまった今、下手に高位令嬢と結婚などするより、何の後ろ盾もない娘との結婚の方が、権力争いなどに巻き込まれることも少ないだろうからな。」



「それもそうだな。お前も一応、王位継承権持ってるしな。まあ、俺はお前が王座を譲れって言ったら、すぐ譲るがな。」



「何の後ろ盾もないって。。。一応、後ろ盾は我が家なんですけども。」



 俺の言葉に、フェリクスが「ないようなもんだろ」と笑う。



 相変わらず、俺の扱いが雑だよなと苦笑する。

 高等部にいたころは毎日一緒に過ごした俺たちだが、こうやって三人集まるのは本当に久しぶりだった。

 まあ、本来なら、俺はこの二人にこんな口の利き方していい身分じゃないのだが、学生時代からの仲間っていうのはいいもんだなと、改めて思う。



「っていうかさ、ルバート。お前は俺に頭が上がらないはずだぞ!誰のおかげで、結婚できることになったと思ってるんだよ!!」



 これについては声を大にして言っておかなければならないし、今後も定期的に繰り返し言っていくつもりだ。

 俺がいなければ、今頃、ルバートはあのままどん底にいたはずなのだから。



「ああ、リドルには一生頭が上がらないな。アメリアは、今度ぜひリドルのためにコーヒーを淹れさせて欲しいと言っていたぞ。」



 ルバートが嬉しそうに笑いながら、頭を下げた。



「まあ、俺が飲んでいる味にはならないがな。」



「一言多いんだよ!」



 ドヤ顔で言うルバートに本当に腹が立つ。

 ルバートの肌艶がいいのは、アメリアのコーヒーのおかげなのかもしれない。

 ちょっと前まで死にそうな顔していたくせにと思う。



「そういえば、フェリクスもソフィアにコーヒーを淹れてもらったんだろ?先月、アメリアが挨拶に行った時、コーヒーの淹れ方を教えたと言っていたが、どうだったんだ?」



 ルバートがフェリクスに尋ねた。

 アメリアは先月、結婚準備のため王都に戻って来ていたのだ。



「あー、それなんだがな。まあ、ソフィアの前では言えないが、おそらくコーヒーを淹れるには向き不向きがあると思うぞ。」



 フェリクスが少し複雑な笑みを浮かべた。



「へー、それは興味深い話だな。お互いが思い合っていれば美味しいコーヒーになるんじゃなかったのか?」



 今も魔動コーヒーメーカーの改良を続けている俺としては、是非とも聞いておきたい話だった。

 フェリクスはコーヒーの味を思い出しているかのように少し笑いながら話し始めた。



「もちろん不味いってことじゃない。ルバートの言う通り、疲れも取れる気がするし、味もいいとは思う。だがな、ソフィアの淹れたコーヒーは邪念が多くてな。」



 フェリクスが顔を顰めた。



「ソフィアの魔力量が無駄に多いことも理由なんだろうが、なんていうか『どう?美味しいでしょ?あなたのために淹れたのよ!』っていうソフィアのドヤ顔がちらついて、いまいち楽しめん。」



 ルバートと俺は一斉に吹いた。

 確かに、ソフィアらしい。

 自己顕示欲が強いコーヒーってどんなものなんだろうと想像すると、笑える。
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