恋の御伽噺を異世界で

冬咲 椿

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第四章 【学校入学編】

爺の過去と心配される嬉しさ

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「それじゃあ、行ってきます!」

必要最低限の荷物を入れた肩掛けバックを肩に、家の玄関で両親や執事、メイドたちに元気よく挨拶をする。

だけど、元気な僕とは対照的に、僕を見送るみんなの雰囲気は暗かった。両親が落ち込むのはわかる。可愛がっていた子供が家を出るんだから悲しいのは当たり前だ。でも意外なのは、僕を嫌っていたはずのメイドや執事達が悲しそうにしていたからだ。あれかな。みんなにクッキーあげたのが良かったのかな。クッキーの力ってすごいね。

でも何故か爺だけはめっちゃ嬉しそうな顔してる。いつもは無表情なのに、そんなに僕が家を出てくのが嬉しいのか!?

っていうか、努力して試験に合格して、家を出るという大人への第一歩を踏み出そうとしてるんだから、少しくらい応援してくれてもいいと思うんですけど?

そんなことを思いながら最後にみんなを見渡していると、母さんが顔を歪めながら口を開いた。

「……ねえ、やっぱり家に——」

「いない! もう、いつまで僕を引き止めようとしてくるの!」

「だってだって! 私の可愛い天使がいなくなるって考えると胸が張り裂けそうなのよ! レイヴン達は全然甘えてくれないし! もう私のそばにはあなたしかいないのよぉ……!」

拗ねたようにそういう母さんは、体だけ成長した子供のようだった。

「なあノエル、貴族に色々言われたって気にしなくていいんだぞ? 学校に行くのが嫌ならそう言っていいんだからな?」

「僕は行きたいの! ちゃんとしたところで学んで友達とか作りたいの!」

「し、しかし……」

まだ納得しないと言った様子で口ごもる。そんな父さんを見かねたのか、もしくは僕を早く家から出て行かせたいのかわからないが、隣から爺が僕のフォローに入った。

「旦那様。これはノエル様の決めたことです。自由にさせてあげるのも教育には大切なことですぞ」

「……仕方ないか。ノエルは変なところで頑固だからな。……ノエル、行くからには精一杯やるんだぞ? でも辛かったらいつでも帰ってきていいんだからな?」

「……うん。ありがとう!」

僕の言葉に、父さんは満足そうに頷くいた。

「よしっ! それではあとは頼むぞ、爺」

「かしこまりました」

……ん? あとは頼む? 爺に? 何を?

「父さん? なんの話?」

「なんのって……爺、まさか話してないのか?」

「驚かれた顔を見て見たかったものですからつい。申し訳ありません」

「だからなんのこと? 何隠してるの?」

「お前の監視役として爺を選んだんだ。聞いて驚け! 爺は昔宮廷暗殺者をやっていたんだぞ?」

「きゅうてい? 暗殺者? ……ええええええええ!!?」

宮廷暗殺者……たしか王に仕えてる暗殺者で、その腕は一級品。他国に侵入して自国の不利益になる奴を密かに殺してるっていうあの!?

なんでそんな人がうちの執事なんてしてるの!?

「というわけですのでノエル様、今後とも宜しくお願い致します」

爺は僕にそう告げてお辞儀する。なんとも嬉しそうな表情で……だからなんでそんな嬉しそうなの?

「それではノエル様、行きますよ」

爺に手を引かれ、玄関の外で待っていた馬車に乗り込む。

「いい? 体には気をつけるのよ? 怪我したらちゃんと回復魔法かけてね? 友達もちゃんと作るのよ? 好きな子ができたら紹介してね?」

「う、うん」

最後の最後まで子供扱いをやめない母さんを適当にあしらい、いよいよ僕は学校へと出発した。

しかし馬車が出発しても母さんの心配性は消えない。

「ノエルー! 元気でねー! 絶対にまた戻ってくるのよー!!」

母さんがハンカチを振りながら涙目にそう叫んでいた。僕も窓から、母さんの姿が見えなくなるまで大きく手を振った。

「ノエル様、寂しくはないですか?」

「全然……って言ったら嘘になるけど、でもそんなには寂しくないよ」

……だって、馬車で移動すると、一般学校って家までたったの1時間だもん。

休みの日なんかは簡単に帰れるし、家から通えるレベルだし。

なのにみんなあんな大げさに……まあ、寂しいって思ってもらえるのは素直に嬉しいけどさ。

心配してくれる人がいる、それが嬉しくてたまらない。

そんな嬉しさの余韻に浸りながら爺と今後の話をすること1時間。一般学校へと到着した。
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