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第七部 六章「もう一度、此処から」
「もしもの奇跡」
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二人が去るのを見送ったネア。
後ろから、クロトが呟く。
「本当に戻んなくてよかったのかよ?」
「しつこいわねぇ……。いいって言ってんのっ。今後も色々ありそうでエリーちゃんが心配ですもんね。お姉さんに眠れない夜を過ごせって言うの?」
「今回の厄介者が何を言うか……」
「あ~ん、聞こえな~~い。エリーちゃんもお姉さんと一緒にいたいわよね?」
「え!? あ、はい! ネアさんとまた一緒にいれて嬉しいです」
咄嗟に話題をふられ、自分の感情に任せてエリーはこの状況を喜ぶ。
ネアはその返答に、どやっ、とした顔をクロトに向けてくる。その顔は不愉快であるものだが、深く追求すれば後につけがまわってくるというもの。ここは見なかった事とする。
「ボクお姉さん怖いからやだ……」
ここで、イロハによる空気を読まない言葉が……。
クロトは聞かなかったと、他人の顔で少しイロハから距離をとる。同時にネアの無言による眼光がイロハを捉え、イロハは今度は木の後ろにへと。
黙らせてからネアは次の話にへと移る。
「それよりクロト。次は何処へ行くつもり?」
いつまでもこのような場所にいるわけにもいかず、次なる目的地をクロトにへと問いかける。
「それよかまずは宿に戻るのが優先だろうが。お前の電流浴びすぎて疲労が――」
と。愚痴を言おうとすればネアはまた耳を塞ぎ、「聞こえな~い」の連発である。
せめてこちらの苦労を受け止めてほしいものだが、ネアにその期待は持てない。
単調直入で物事を伝えるしかない。
「とりあえず宿に戻るっつってんだよ! 夜中に労働させやがって、昼まで寝させろ!!」
怒鳴り、クロトは他など置き去りにする素振りでさっさと宿のある街にへと向かい始めた。
ある程度離れた所で、ネアが「ぷっ」と噴き出し笑う。
「だってさ。お姉さんも疲れたから宿に戻って休んで、早く魔力戻すためのケアもしないとね。……ほら、アンタもとっとと来なさい。置いて行くわよ?」
ネアはエリーに付き添いつつ、木に隠れていたイロハを呼ぶ。
イロハは慌てて飛び出すと置いて行かれぬ様に後ろをついてゆく。
……また、この様に戻るとは思っていなかった。
後ろを少し振り向けば、また一同の面々が視界に入る。
ネアはそこにいないとすら思えていた。だが、こりもせずに同行を続けようとする。
物好きと言えば物好きであり、妙な正義感もあってお節介だが、ネアの情報は確かに有力である。
今のクロトにとって、彼女はまだ使える道具、という扱いに戻っただけでしかない。
つまりは、いつも通りの日常がまた始まるという事だ。
『それ考えると、お前もある意味物好きだよなぁ……。電気女があの時死のうがアイツの自滅みたいなもんだ。お前なら殺しててもおかしくない状況だったろうに』
「あの時も言っただろうが。アイツは俺に殺されようとしていた。なんで俺がアイツのために殺さなきゃならねーんだよ。勝ち逃げされるよりはよっぽどマシだ」
二度も言わせるな。そうクロトは言いたいのだろう。
それも一つのクロトという人物が導き出した答えだろうが、ニーズヘッグとしては、らしくない、と思った。
それは、魔銃使いとしての、以前のクロトならあり得ないと思える行動だったからだ。
クロトは、他者を思いやるという事を契約当時からやめている。その思考がある限り、クロトがネアの意図に気付くわけもない。気付くことなく、ただ相手を排除すべき敵と認識し殺すのみ。それが魔銃使いとしてのクロト、……だった。
――やっぱ、変わっちまったのな……
ニーズヘッグは以前からクロトの変化には気付いていた。
日に日に増していく変化。それにクロトが気付いていないというのがなんとも残念な事だ。
だが、気付かない方がよいのかもしれない。そう、ふと思ってしまう。
気付いてしまえば、クロトはどうなるか…………。
だが、気付かないままというのも…………。
『……鈍感』
これは気付けないクロトが悪いと、鈍い事に腹を立てておくこととする。
「なんか言ったかクソ蛇?」
『気にすんなって我が主ぃ。ただの独り言なんで』
マズいと思い、ニーズヘッグは話を逸らし始める。
『そういえば、聞いたら怒ると思うんだが、いいか?』
「……内容によるが、なんだ?」
『寛大だね~。……いやぁ、お前んとこの親の――』
「アアッ!?」
『……こほんっ。アイツが言っていた死者を生き返らせる研究だっけか? 本当に実在すんのかねぇ?』
なるべくクロトから親という単語を避けてニーズヘッグは会話を続ける事とした。
不思議とクロトは首を傾ける。
「悪魔のお前がそういう事を言うのか? 【願い】を叶えれるお前らが……」
『ちょっと勘違いしてねーかクロト? 俺らが叶えるお前らの【願い】ってのにも限度がある。あれはあくまで、俺らの魔力を魔武器で変換してできる事でしかない。本来の俺にはないもんだ。……そして、死者を蘇らせる事すら魔王でもできない』
「……確か、冥府の魔王がいなかったか?」
『魂の管理人なんで、死者の魂を逆流させるなんて事あったらならねーんだよ。もちろん、時の管理人ですらそれは許されない。魔界ではこれを禁忌とされ、両者の魔王の管理下、それは実現できなくなっている。いわば、失われた秘術だ』
「だったら、その研究は破綻するしかねぇ、くだらねぇもんだったって事だ。俺にはもう……関係のない事だしな」
『御尤も。……でさ主。こっからは余談なんだがよぉ。もし、本当にそんなでたらめが成功してたとすれば、いったい何がこの世に蘇ったんだろうな?』
にやけた面で、もしも成功していたらの話を持ち出す。
魔王でも実現できない事を人間がやってのけたとあれば、それは一大事でもある。
ゾンビや未練だらけに死にきれずにいるゴーストなどとは違う。正真正銘の死者が生者となる奇跡。
少しばかり好奇心も沸いたが、結局クロトは興味なさげに鼻で笑う。
「あったとしても、一日限り程度で終わったネズミかなんかじゃねーのか? 生存しなければ意味ねーだろ、そんな研究。デマかなんかだっての」
この話は此処で終わる。
切り捨てた肉親の研究など、今のクロトにとってはなんの関係もないのだから。
後ろから、クロトが呟く。
「本当に戻んなくてよかったのかよ?」
「しつこいわねぇ……。いいって言ってんのっ。今後も色々ありそうでエリーちゃんが心配ですもんね。お姉さんに眠れない夜を過ごせって言うの?」
「今回の厄介者が何を言うか……」
「あ~ん、聞こえな~~い。エリーちゃんもお姉さんと一緒にいたいわよね?」
「え!? あ、はい! ネアさんとまた一緒にいれて嬉しいです」
咄嗟に話題をふられ、自分の感情に任せてエリーはこの状況を喜ぶ。
ネアはその返答に、どやっ、とした顔をクロトに向けてくる。その顔は不愉快であるものだが、深く追求すれば後につけがまわってくるというもの。ここは見なかった事とする。
「ボクお姉さん怖いからやだ……」
ここで、イロハによる空気を読まない言葉が……。
クロトは聞かなかったと、他人の顔で少しイロハから距離をとる。同時にネアの無言による眼光がイロハを捉え、イロハは今度は木の後ろにへと。
黙らせてからネアは次の話にへと移る。
「それよりクロト。次は何処へ行くつもり?」
いつまでもこのような場所にいるわけにもいかず、次なる目的地をクロトにへと問いかける。
「それよかまずは宿に戻るのが優先だろうが。お前の電流浴びすぎて疲労が――」
と。愚痴を言おうとすればネアはまた耳を塞ぎ、「聞こえな~い」の連発である。
せめてこちらの苦労を受け止めてほしいものだが、ネアにその期待は持てない。
単調直入で物事を伝えるしかない。
「とりあえず宿に戻るっつってんだよ! 夜中に労働させやがって、昼まで寝させろ!!」
怒鳴り、クロトは他など置き去りにする素振りでさっさと宿のある街にへと向かい始めた。
ある程度離れた所で、ネアが「ぷっ」と噴き出し笑う。
「だってさ。お姉さんも疲れたから宿に戻って休んで、早く魔力戻すためのケアもしないとね。……ほら、アンタもとっとと来なさい。置いて行くわよ?」
ネアはエリーに付き添いつつ、木に隠れていたイロハを呼ぶ。
イロハは慌てて飛び出すと置いて行かれぬ様に後ろをついてゆく。
……また、この様に戻るとは思っていなかった。
後ろを少し振り向けば、また一同の面々が視界に入る。
ネアはそこにいないとすら思えていた。だが、こりもせずに同行を続けようとする。
物好きと言えば物好きであり、妙な正義感もあってお節介だが、ネアの情報は確かに有力である。
今のクロトにとって、彼女はまだ使える道具、という扱いに戻っただけでしかない。
つまりは、いつも通りの日常がまた始まるという事だ。
『それ考えると、お前もある意味物好きだよなぁ……。電気女があの時死のうがアイツの自滅みたいなもんだ。お前なら殺しててもおかしくない状況だったろうに』
「あの時も言っただろうが。アイツは俺に殺されようとしていた。なんで俺がアイツのために殺さなきゃならねーんだよ。勝ち逃げされるよりはよっぽどマシだ」
二度も言わせるな。そうクロトは言いたいのだろう。
それも一つのクロトという人物が導き出した答えだろうが、ニーズヘッグとしては、らしくない、と思った。
それは、魔銃使いとしての、以前のクロトならあり得ないと思える行動だったからだ。
クロトは、他者を思いやるという事を契約当時からやめている。その思考がある限り、クロトがネアの意図に気付くわけもない。気付くことなく、ただ相手を排除すべき敵と認識し殺すのみ。それが魔銃使いとしてのクロト、……だった。
――やっぱ、変わっちまったのな……
ニーズヘッグは以前からクロトの変化には気付いていた。
日に日に増していく変化。それにクロトが気付いていないというのがなんとも残念な事だ。
だが、気付かない方がよいのかもしれない。そう、ふと思ってしまう。
気付いてしまえば、クロトはどうなるか…………。
だが、気付かないままというのも…………。
『……鈍感』
これは気付けないクロトが悪いと、鈍い事に腹を立てておくこととする。
「なんか言ったかクソ蛇?」
『気にすんなって我が主ぃ。ただの独り言なんで』
マズいと思い、ニーズヘッグは話を逸らし始める。
『そういえば、聞いたら怒ると思うんだが、いいか?』
「……内容によるが、なんだ?」
『寛大だね~。……いやぁ、お前んとこの親の――』
「アアッ!?」
『……こほんっ。アイツが言っていた死者を生き返らせる研究だっけか? 本当に実在すんのかねぇ?』
なるべくクロトから親という単語を避けてニーズヘッグは会話を続ける事とした。
不思議とクロトは首を傾ける。
「悪魔のお前がそういう事を言うのか? 【願い】を叶えれるお前らが……」
『ちょっと勘違いしてねーかクロト? 俺らが叶えるお前らの【願い】ってのにも限度がある。あれはあくまで、俺らの魔力を魔武器で変換してできる事でしかない。本来の俺にはないもんだ。……そして、死者を蘇らせる事すら魔王でもできない』
「……確か、冥府の魔王がいなかったか?」
『魂の管理人なんで、死者の魂を逆流させるなんて事あったらならねーんだよ。もちろん、時の管理人ですらそれは許されない。魔界ではこれを禁忌とされ、両者の魔王の管理下、それは実現できなくなっている。いわば、失われた秘術だ』
「だったら、その研究は破綻するしかねぇ、くだらねぇもんだったって事だ。俺にはもう……関係のない事だしな」
『御尤も。……でさ主。こっからは余談なんだがよぉ。もし、本当にそんなでたらめが成功してたとすれば、いったい何がこの世に蘇ったんだろうな?』
にやけた面で、もしも成功していたらの話を持ち出す。
魔王でも実現できない事を人間がやってのけたとあれば、それは一大事でもある。
ゾンビや未練だらけに死にきれずにいるゴーストなどとは違う。正真正銘の死者が生者となる奇跡。
少しばかり好奇心も沸いたが、結局クロトは興味なさげに鼻で笑う。
「あったとしても、一日限り程度で終わったネズミかなんかじゃねーのか? 生存しなければ意味ねーだろ、そんな研究。デマかなんかだっての」
この話は此処で終わる。
切り捨てた肉親の研究など、今のクロトにとってはなんの関係もないのだから。
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