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第五部 六章「友人A」

「簡単なお仕事」

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「……なるほど、ねぇ。また想定外な事になってるのね。さすがの私の目でもそこまで把握はできないわよ」

 呆れた顔で、ネアはお手上げと肩をすくめた。
 もめ続けた後。とりあえず場所を変えようと、ネアは自身が利用していた宿にへと移動。
 何故魔界にいるのか。何故ニーズヘッグが表に出てきているのか。内容を聞き、ネアは納得して頷く。
 
「クロトは魔素の影響で爆睡。エリーちゃんはなんとか耐性があったのか、とりあえずグリアの実で正体は免れている。探しているのは魔素耐性に必要なマカツ草……か」

 ネアはニーズヘッグの持っていたソフラの名を記した紙に目を細める。

「よくもまあ、あのウサギさんと張り合えたものね」

「電気女のくせに、意外な言い分だな」

「……確かに女性だけど、私、あの人苦手なのよね。極力会いたくないっていうか……。まあ、私だって色々あるわけ」

 ネアに会いたくない女性がいるとは驚きだ。
 明日は天変地異かと、ニーズヘッグが思ってしまうほどである。
 その疑わしい目から遠ざかるため、ネアは本題に話を戻す。

「で? あの人の紹介でこの街にまで来たけど……お目当ての物がない、と」

「ねーんだよ! 森やら荒野やら通ってきたが、全くねーし。……どうなってんだよっ」

「とりあえず、最後まで話を聞きなさい蛇野郎」

 心当たりがあるのか、ネアにはまだ何か続きがあるらしい。
 彼女の本業は情報屋。彼女なら、もしかしたら何か情報を得ているやもしれない。
 それに期待し、一度ニーズヘッグは黙って話を聞くこととした。

「そのマカツ草なんだけど、この近辺には今無いのよねぇ。あの人の事だからどうせそれすら知ってて、尚且つアンタに教えなかったんでしょうね。……相変わらず腹黒い」

「どういう事だよ?」

「お目当てのマカツ草はね、とある魔界貴族が買い占めてるの。……それも、この近辺一帯のを根こそぎね」

「あんなもん、魔族にとっちゃ不要なもんだろ? 結構マズいらしいし」

「そこが気に入ったらしいわよぉ? 場所なら特定できてるわ。この街の奥に領主の屋敷があってね、そこの魔界貴族の豚野郎が集めてるって話」

「……豚さんなんですか?」

 エリーは、ふと想像する。
 ピンクでまん丸とした可愛らしい泣き声を出す豚。それが高貴な身なりをしている様を。
 想像上ではエリーは可愛いと和むものでしかない。

「……ああ、たぶん。エリーちゃんが想像している様な要素はないと思うの、ごめんね」

「そ、そうなんですか!?」

「夢を壊すつもりはないけど、それはもうきったない豚野郎でね。農家の豚の方が幾度かマシなものなのよ」

「すんげーぶち壊しにいくじゃねーか……」

「想像上だけでも、エリーちゃんがあの豚野郎を美化してしまうなんて、お姉さん耐えられない!!」

 その程度は堪えろと、ニーズヘッグは心の奥底で思ってしまう。
 クロトたちとのやり取りを見ていたが、「なるほど」とネアとの接し方には慣れが必要であると確信。
 あまり深くつっこめばそれだけで無駄な時間を過ごすことになりそうだ。
 しかし、ならばとニーズヘッグの方針が決まる。
 窓を開け、街の奥で堂々と建つ大きな屋敷を見ては、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

「なるほど、簡単な案件だな! 要はあそこの豚を焼いてくればいいってわけか!」

 物騒と、何処か活き活きとしたニーズヘッグは瞳を輝かせる。
 その発言にエリーは戸惑うも、

「じゃあ、手っ取り早く焼いてきてちょうだい。悪評もあったし、いい機会と思って」

 と、ネアが了承。
 賛同の声があがれば、ニーズヘッグは腕を鳴らし窓から飛び出す。
 
「ニ、ニースヘッグさんっ。穏便に……っ」

 温情の言葉がニーズヘッグに届いたかどうかはわからない。
 さんざん頭を悩まされる事が続いていたため、ここぞとばかりにニーズヘッグは容易い方法に活気づいて、むしろ楽しそうでもあった。
 そこが不安だ。

「あ~あ、本当に野蛮だこと。まあ、いいんじゃない? 私もあの屋敷の奴、嫌いだし」

「ネアさん……」

「なんとなくだけどさ。たぶん大丈夫よ」
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