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第五部 一章 「鬼の居る間」
「交換条件」
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見事に脅しという名の話し合いが通じ、クロトとエリーは鋭い眼差しを向けられながら村に入る事ができた。
まるで連行されるが如く。不安とエリーはクロトの上着を掴みながら離れず歩む。
今いるのは、大木をくりぬいた建造物の一つ。道は薄暗く、肌寒く、わずかな灯火だけが唯一の救いだ。
「……穏やかじゃねーな。もしかして俺らをどっかに閉じ込めるつもりか? あ?」
この状況に痺れを切らせたのか、クロトは先頭を進む住人の男に圧をかける。
ほんの少し、男の肩がビクッと跳ねた。
「確かに、この先はそういう場所だが……、こっちは案内しているだけだ」
落ち着かない様子。男の背にはなんの予兆もなく銃口が突きつけられた。
「ああ、そうかよ。ならいいが、妙な事しやがったら遠慮なく全員ぶっ殺すからそのつもりでいろよ? そっちの方が早そうだ」
クロトなら、その言葉通りを行う事は容易いだろう。
背筋を凍てつかせられ、男は冷や汗を流すばかり。
「わ、わかっているっ。……なんなんだ、この子供は」
ぼやきたくもなるだろう。
序盤から怒号のように圧をかけていたというのに、逆にクロトに圧をかけられるという仕打ち。
他の住人も同様であり、そのクロトに付き添うエリーにも嫌悪が向けられていた。
「……クロトさん、さすがにそういうのは」
クロトの言動をも不安になり、エリーはつい声をかけてしまう。
直後、ぺしっと軽い手刀が頭に落とされた。
「これぐらいやらねぇと、こういう人間は話が通じねぇんだよ」
それでも限度はあるはずだと、エリーは渋々反論をおさえて呑み込んでおく。
遠い記憶が蘇るようだ。ネアとイロハがいなかった頃。扱いも酷く武力行使が当たり前。ネアという歯止めがいたためしばらくの間は抑えがきいていた。その期間から解き放たれれば、今度は限度を知らずに悪化してしまうことも……。
エリーは記憶にあるネアを思い浮かべ、ふと頭の中で助けを求めてしまう。
その求めに手を伸ばしたのが炎蛇だ。
『まあ、確かにこっちの方が早そうだが……、姫君困らすのやめてくれねぇか? 普通にお前の性格の悪さがアイツらいないせいで露骨になってるぞ』
「アホかクソ蛇。こんなんただの脅しに決まってるだろうが、めんどくせぇ……」
と。クロトは内心で返答。
まさかクロトが無駄な殺生をしないとは……。思わずニーズヘッグは「成長したな」と親の気持ちになって感動する反面、クロトだからこそ言動が冗談では済まされないとすら感じてしまい、複雑と苦笑。
『うん。……俺にも言ってたけどさ、お前も自分の過去を振り返った方がいいぞ?』
そうこうしていれば、一同は足を止める。
先頭の男は「着いたぞ」と、前を開け灯りを前方にへと向ける。
奥にあったのは牢屋だ。その中には囚人がいるのだろう。
その囚人は……
「――イロハさん!?」
エリーが驚く。
牢屋の中にはイロハが座り込んでおり、キョトンとしてこちらを見た。
「あ。姫ちゃんと……先輩……?」
何故ここにいる? と言いたげな顔だ。
この様な形で出くわす事など想定外だっただろうが、こちらもそれは同じでしかない。
この道を通っている間でクロトももしやと予想はしていたが、本当に牢屋に入れられているとは……。
呆れてため息しか出ない。
「……何やってんだよお前。こんな所で馬鹿みたいにいやがって。……馬鹿だが」
「う~ん、先輩またボクの事悪く言ってる~」
「やはりお前らもこの化け物と仲間か」
「あの、イロハさんは化け物じゃ……。それより、どうしてこんな事に?」
エリーの質問は確かに必要なものだ。
イロハがただ見た目が魔族に見えるだけで、この様な扱いを受けるだろうか?
よそ者に嫌悪感を容易く抱くくらいならあり得るが、それだけではなく思える。何かイロハにも原因があるはずだ。
「コレはな、畑を荒らしたんだよっ」
話が最初に戻ってくる。
確か此処の住人たちは、また畑を荒らしに来たと言っていた。
それだとクロトたちが来る以前にもそれを行った者がいる事となる。
それがイロハなのだろう。
「イロハさんはそんな悪い事しないと思いますけど……。イロハさん」
「…………」
エリーは無実を訴えるが、イロハは途端に顔を背ける。まるで後ろめたい事があるかの様に……。
黙り続けるイロハの表情は汗まみれである。
「……おい。お前やったのか?」
クロトが問い詰めると、イロハはビクッと反応。嘘も隠すことも下手くそな事が露骨と出てしまう。
クロトからの質問に逃げ切れないと判断したのか、それとも中のフレズベルグに言われたのか、イロハは恐る恐るこちらに視線を寄せ、「うん」と頷く。
「そんなぁ……。イロハさん、どうしてそんな事を……」
信じられないでいるエリーだが、イロハは元々人間社会を理解などしていない。
それが今回の原因と繋がっているのだろう。
クロトならその原因に幾つか予想がつく。
「クソガキ、簡単な事だろうが。どうせ俺らと同じで、コイツも空腹でやったって事だよ。俺らと違うのは、相手が人里の所有していた農作物だったって事だ。……どうせ知りもしないで食ったんだろ? だから馬鹿は嫌なんだ。自業自得だろ、アホくさ」
「……っ、そんな酷い感じで言わなくても。……だって、気づいたらこの辺にいて……お腹すいたから」
『言うな愚か者……。私が悪いみたいな言い方ではないか……』
実際、飛び出してしまったフレズベルグに非がある。
だが、そんな事はクロトにとってどうでもよい。
牢屋を蹴りつけてから、クロトは一番の要求をイロハに告げた。
「とりあえず、見つかったからには要件は一つだ。……お前の持っている【不死殺しの弾】を渡せ。じゃないと、お前を野放しにしとくのは面倒だからな」
「……え? ………………やだ」
間を開けてから、イロハは要求を拒否。
ガンガンと、クロトは更に鉄格子を怒り任せで蹴りつける。
怯えてイロハは牢屋の奥にへと逃げ込んでいった。
「クロトさんっ、落ち着いてくださいっ」
「だ、だって! コレはダメだもんっ。マスターがくれたのだし、フレズベルグもダメって言ってるし……っ」
「どうでもいい! とっととよこせ!!」
「ダメって……、言われてるから……っ。だから、ダメッ」
「――お前の答えはねぇのかよ!!」
イロハは自分の答えを持っていない。
あるのは、他人に言われた答えだ。
『……クロト。言ってもコイツは渡さねぇと思うぞ? ここは大人になって手元で見張ってる方が得策だって、俺ナイス助言者じゃね?』
「……っ。こんな奴とまた過ごせと? ふざけた事を言いやがるな、さすがクソ蛇」
『まあまあまあ。実際その方が得だと思うぞ? 弾を奪っても野放しにしとけばその内別の形で闇討ち来るって、ほんとやべーぞ?』
「それはお前の今後がって意味も兼ねてだろ?」
『……まあ、否定はしません』
「ちっ。面倒だな……」
納得せざるを得ない。無理にでも今後の障害をどれだけここで取り除けるか。
ニーズヘッグの言葉も一理あり、それを自分に言い聞かせるしかない状況なのやもしれない。
癪に障るが、自分を落ち着かせて話を進めようとした、その時だ。
「言っておくが、こんな奴をこのまま出すわけにはいかんからな? こっちの被害もある」
…………。
すーっと、クロトは落ち着いた途端、魔銃を天井に向け、怒りを弾に込めて連発する。
少し気が晴れたところで住人を睨みつけた。
「テメェらのなんざどうでもいいんだよ! それともなにか? 損害どうこう責任とれと? 燃やすぞクズども!?」
「クロトさん……っ」
エリーはクロトを掴んで必死と止めようとする。
「あのっ、どうすればイロハさんを出していただけますか?」
何事も穏便に済ませたいエリー。
一番が彼らの納得のいく解決法だ。
「……強いて言うなら、この近くにいる魔物にこの村は迷惑している。そこの奴も魔物の仲間だと思ってこうして捕まえてるんだからな」
「あっ!? まさか俺に魔物退治とか面倒な事をさせる気じゃねぇだろうな?」
「それさえなんとかしてもらえれば、農業への負担もかなり減るんだ……っ。俺たちだって必死なんだよ!」
『わーお、人間って本当に面倒な種族だよなぁ。……まっ、それくらいならなんとかなるんじゃね? どうせ低級な奴らだろ? ゴミです、消し炭だっての』
「……なんで俺がこんなっ。コレするって事はつまり」
『はい、我が主。人助けってやつです』
――ダン、ダン、ダン、ダン、ダンッ!!!
クロトは、またしても銃弾を連発する。
クロトの嫌う事はいくつもあり、そのほとんどが他者を助けるなどという善行である。
今回の人助けなど、クロトが最も毛嫌いしている事だ。
『おーおー。お怒りでいらっしゃる。こんなウチの主が人助けしてくださるんですよ? 神様仏様。これはそれ相応の対価ってもんが必要だよなぁ~』
聞こえてはいないだろうが、ニーズヘッグも言葉に脅迫じみたものが込められている。
これはいわゆる交換条件だ。
クロトがこの人助けを乗り越え、その対価としてイロハを出させる。
それが成立しなければ…………。
『……まっ。そういう事っすわ、我が主。それでもコイツらが言い訳するようなら、俺も協力します。焼くのは得意なので♪』
「…………っ。本当に……殲滅してきたらコイツ解放するんだろうな?」
怒気を滲ませ、それでも堪える声が住人の心拍数を上げてゆく。
「……ほ、本当にするのか?」
「信用できるか?」
「むしろ仲間を見捨てそうな……」
彼らはひそひそと耳打ちし、どうなる事かと不安を積もらせている。
積もってゆくのはクロトの不快感だ。
その陰口の様な小言を黙らせるために天に発砲。
「うっせぇ!! ……おい、クソガキ」
「……あっ、はい!」
何発も撃ったせいか思考停止してしまっていたエリーが、途端に声をかけられハッとする。
「お前はコイツを見張ってろ。万が一、フレズベルグが余計な事をして逃げ出さないようにだ」
「……え? クロトさんだけで行かれるんですか?」
「お前がなんの役に立つんだよ? そういう事だ。お前らも勝手な事したら、今度見かけた時ただで済むと思うなよ? 馬鹿はおとなしく待ってろっ」
……と。ついでに牢屋にいるイロハとフレズベルグにも釘をさしておく。
「……先輩助けてくれるの?」
「助ける? ふざけんな! お前がアレを渡さねぇからだろうが!! 俺は俺のために行動してんだよ!」
『でた。俺のため理論』
「うるさいクソ蛇! とっとと終わらせてこんな胸糞悪い村出て行ってやる!! ……お前らだぞお前ら!! 詳細早く言え!!!」
怒りの方向が次々と向けられる。
これ以上クロトを怒らせないようにか、怯えを隠せない大人たちはありのままを伝える事とした。
まるで連行されるが如く。不安とエリーはクロトの上着を掴みながら離れず歩む。
今いるのは、大木をくりぬいた建造物の一つ。道は薄暗く、肌寒く、わずかな灯火だけが唯一の救いだ。
「……穏やかじゃねーな。もしかして俺らをどっかに閉じ込めるつもりか? あ?」
この状況に痺れを切らせたのか、クロトは先頭を進む住人の男に圧をかける。
ほんの少し、男の肩がビクッと跳ねた。
「確かに、この先はそういう場所だが……、こっちは案内しているだけだ」
落ち着かない様子。男の背にはなんの予兆もなく銃口が突きつけられた。
「ああ、そうかよ。ならいいが、妙な事しやがったら遠慮なく全員ぶっ殺すからそのつもりでいろよ? そっちの方が早そうだ」
クロトなら、その言葉通りを行う事は容易いだろう。
背筋を凍てつかせられ、男は冷や汗を流すばかり。
「わ、わかっているっ。……なんなんだ、この子供は」
ぼやきたくもなるだろう。
序盤から怒号のように圧をかけていたというのに、逆にクロトに圧をかけられるという仕打ち。
他の住人も同様であり、そのクロトに付き添うエリーにも嫌悪が向けられていた。
「……クロトさん、さすがにそういうのは」
クロトの言動をも不安になり、エリーはつい声をかけてしまう。
直後、ぺしっと軽い手刀が頭に落とされた。
「これぐらいやらねぇと、こういう人間は話が通じねぇんだよ」
それでも限度はあるはずだと、エリーは渋々反論をおさえて呑み込んでおく。
遠い記憶が蘇るようだ。ネアとイロハがいなかった頃。扱いも酷く武力行使が当たり前。ネアという歯止めがいたためしばらくの間は抑えがきいていた。その期間から解き放たれれば、今度は限度を知らずに悪化してしまうことも……。
エリーは記憶にあるネアを思い浮かべ、ふと頭の中で助けを求めてしまう。
その求めに手を伸ばしたのが炎蛇だ。
『まあ、確かにこっちの方が早そうだが……、姫君困らすのやめてくれねぇか? 普通にお前の性格の悪さがアイツらいないせいで露骨になってるぞ』
「アホかクソ蛇。こんなんただの脅しに決まってるだろうが、めんどくせぇ……」
と。クロトは内心で返答。
まさかクロトが無駄な殺生をしないとは……。思わずニーズヘッグは「成長したな」と親の気持ちになって感動する反面、クロトだからこそ言動が冗談では済まされないとすら感じてしまい、複雑と苦笑。
『うん。……俺にも言ってたけどさ、お前も自分の過去を振り返った方がいいぞ?』
そうこうしていれば、一同は足を止める。
先頭の男は「着いたぞ」と、前を開け灯りを前方にへと向ける。
奥にあったのは牢屋だ。その中には囚人がいるのだろう。
その囚人は……
「――イロハさん!?」
エリーが驚く。
牢屋の中にはイロハが座り込んでおり、キョトンとしてこちらを見た。
「あ。姫ちゃんと……先輩……?」
何故ここにいる? と言いたげな顔だ。
この様な形で出くわす事など想定外だっただろうが、こちらもそれは同じでしかない。
この道を通っている間でクロトももしやと予想はしていたが、本当に牢屋に入れられているとは……。
呆れてため息しか出ない。
「……何やってんだよお前。こんな所で馬鹿みたいにいやがって。……馬鹿だが」
「う~ん、先輩またボクの事悪く言ってる~」
「やはりお前らもこの化け物と仲間か」
「あの、イロハさんは化け物じゃ……。それより、どうしてこんな事に?」
エリーの質問は確かに必要なものだ。
イロハがただ見た目が魔族に見えるだけで、この様な扱いを受けるだろうか?
よそ者に嫌悪感を容易く抱くくらいならあり得るが、それだけではなく思える。何かイロハにも原因があるはずだ。
「コレはな、畑を荒らしたんだよっ」
話が最初に戻ってくる。
確か此処の住人たちは、また畑を荒らしに来たと言っていた。
それだとクロトたちが来る以前にもそれを行った者がいる事となる。
それがイロハなのだろう。
「イロハさんはそんな悪い事しないと思いますけど……。イロハさん」
「…………」
エリーは無実を訴えるが、イロハは途端に顔を背ける。まるで後ろめたい事があるかの様に……。
黙り続けるイロハの表情は汗まみれである。
「……おい。お前やったのか?」
クロトが問い詰めると、イロハはビクッと反応。嘘も隠すことも下手くそな事が露骨と出てしまう。
クロトからの質問に逃げ切れないと判断したのか、それとも中のフレズベルグに言われたのか、イロハは恐る恐るこちらに視線を寄せ、「うん」と頷く。
「そんなぁ……。イロハさん、どうしてそんな事を……」
信じられないでいるエリーだが、イロハは元々人間社会を理解などしていない。
それが今回の原因と繋がっているのだろう。
クロトならその原因に幾つか予想がつく。
「クソガキ、簡単な事だろうが。どうせ俺らと同じで、コイツも空腹でやったって事だよ。俺らと違うのは、相手が人里の所有していた農作物だったって事だ。……どうせ知りもしないで食ったんだろ? だから馬鹿は嫌なんだ。自業自得だろ、アホくさ」
「……っ、そんな酷い感じで言わなくても。……だって、気づいたらこの辺にいて……お腹すいたから」
『言うな愚か者……。私が悪いみたいな言い方ではないか……』
実際、飛び出してしまったフレズベルグに非がある。
だが、そんな事はクロトにとってどうでもよい。
牢屋を蹴りつけてから、クロトは一番の要求をイロハに告げた。
「とりあえず、見つかったからには要件は一つだ。……お前の持っている【不死殺しの弾】を渡せ。じゃないと、お前を野放しにしとくのは面倒だからな」
「……え? ………………やだ」
間を開けてから、イロハは要求を拒否。
ガンガンと、クロトは更に鉄格子を怒り任せで蹴りつける。
怯えてイロハは牢屋の奥にへと逃げ込んでいった。
「クロトさんっ、落ち着いてくださいっ」
「だ、だって! コレはダメだもんっ。マスターがくれたのだし、フレズベルグもダメって言ってるし……っ」
「どうでもいい! とっととよこせ!!」
「ダメって……、言われてるから……っ。だから、ダメッ」
「――お前の答えはねぇのかよ!!」
イロハは自分の答えを持っていない。
あるのは、他人に言われた答えだ。
『……クロト。言ってもコイツは渡さねぇと思うぞ? ここは大人になって手元で見張ってる方が得策だって、俺ナイス助言者じゃね?』
「……っ。こんな奴とまた過ごせと? ふざけた事を言いやがるな、さすがクソ蛇」
『まあまあまあ。実際その方が得だと思うぞ? 弾を奪っても野放しにしとけばその内別の形で闇討ち来るって、ほんとやべーぞ?』
「それはお前の今後がって意味も兼ねてだろ?」
『……まあ、否定はしません』
「ちっ。面倒だな……」
納得せざるを得ない。無理にでも今後の障害をどれだけここで取り除けるか。
ニーズヘッグの言葉も一理あり、それを自分に言い聞かせるしかない状況なのやもしれない。
癪に障るが、自分を落ち着かせて話を進めようとした、その時だ。
「言っておくが、こんな奴をこのまま出すわけにはいかんからな? こっちの被害もある」
…………。
すーっと、クロトは落ち着いた途端、魔銃を天井に向け、怒りを弾に込めて連発する。
少し気が晴れたところで住人を睨みつけた。
「テメェらのなんざどうでもいいんだよ! それともなにか? 損害どうこう責任とれと? 燃やすぞクズども!?」
「クロトさん……っ」
エリーはクロトを掴んで必死と止めようとする。
「あのっ、どうすればイロハさんを出していただけますか?」
何事も穏便に済ませたいエリー。
一番が彼らの納得のいく解決法だ。
「……強いて言うなら、この近くにいる魔物にこの村は迷惑している。そこの奴も魔物の仲間だと思ってこうして捕まえてるんだからな」
「あっ!? まさか俺に魔物退治とか面倒な事をさせる気じゃねぇだろうな?」
「それさえなんとかしてもらえれば、農業への負担もかなり減るんだ……っ。俺たちだって必死なんだよ!」
『わーお、人間って本当に面倒な種族だよなぁ。……まっ、それくらいならなんとかなるんじゃね? どうせ低級な奴らだろ? ゴミです、消し炭だっての』
「……なんで俺がこんなっ。コレするって事はつまり」
『はい、我が主。人助けってやつです』
――ダン、ダン、ダン、ダン、ダンッ!!!
クロトは、またしても銃弾を連発する。
クロトの嫌う事はいくつもあり、そのほとんどが他者を助けるなどという善行である。
今回の人助けなど、クロトが最も毛嫌いしている事だ。
『おーおー。お怒りでいらっしゃる。こんなウチの主が人助けしてくださるんですよ? 神様仏様。これはそれ相応の対価ってもんが必要だよなぁ~』
聞こえてはいないだろうが、ニーズヘッグも言葉に脅迫じみたものが込められている。
これはいわゆる交換条件だ。
クロトがこの人助けを乗り越え、その対価としてイロハを出させる。
それが成立しなければ…………。
『……まっ。そういう事っすわ、我が主。それでもコイツらが言い訳するようなら、俺も協力します。焼くのは得意なので♪』
「…………っ。本当に……殲滅してきたらコイツ解放するんだろうな?」
怒気を滲ませ、それでも堪える声が住人の心拍数を上げてゆく。
「……ほ、本当にするのか?」
「信用できるか?」
「むしろ仲間を見捨てそうな……」
彼らはひそひそと耳打ちし、どうなる事かと不安を積もらせている。
積もってゆくのはクロトの不快感だ。
その陰口の様な小言を黙らせるために天に発砲。
「うっせぇ!! ……おい、クソガキ」
「……あっ、はい!」
何発も撃ったせいか思考停止してしまっていたエリーが、途端に声をかけられハッとする。
「お前はコイツを見張ってろ。万が一、フレズベルグが余計な事をして逃げ出さないようにだ」
「……え? クロトさんだけで行かれるんですか?」
「お前がなんの役に立つんだよ? そういう事だ。お前らも勝手な事したら、今度見かけた時ただで済むと思うなよ? 馬鹿はおとなしく待ってろっ」
……と。ついでに牢屋にいるイロハとフレズベルグにも釘をさしておく。
「……先輩助けてくれるの?」
「助ける? ふざけんな! お前がアレを渡さねぇからだろうが!! 俺は俺のために行動してんだよ!」
『でた。俺のため理論』
「うるさいクソ蛇! とっとと終わらせてこんな胸糞悪い村出て行ってやる!! ……お前らだぞお前ら!! 詳細早く言え!!!」
怒りの方向が次々と向けられる。
これ以上クロトを怒らせないようにか、怯えを隠せない大人たちはありのままを伝える事とした。
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