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◆29 俺を巻き込まないでくれ
しおりを挟む今、服飾事業と装飾品製造事業が順調に進んでいる。事業提携をした革製品卸売業を行っている侯爵からも良い報告を受けている。
ルアニスト侯爵は、以前殿下の援助を受け、危うい状況であってもまた援助が見込めると油断しきっているはずだ。娘の婚約者なのだから、と思っているのだろうな。それに何やら準備をしている事も俺の耳にも入っている。このまま何事もなく進めば、俺の計画の終わりはもうすぐそこだ。
だが……問題はまだ解決されていない。
最近増えてきたご令嬢達からの手紙の数々。そして……殿下への気持ち。
こうなる事は、全く予測していなかった。手紙だって、ここまで来るとは思わなかった。最近狂ってきているように思える。
イケメンは得だ、と思っていたが、油断していたな。前世じゃ全然イケメンではなかったし、ここまで人気のある男は友人にはいなかった。だからイケメンならではの悩みというものはからっきしだった。
「会いたかったですわ、公爵様」
……本当に、実に困った。
カーチェスから、メドアス夫人が訪ねてきたと報告を受けた。俺の予定には来訪者は一人もいなかったと思うのだが。内心イライラしつつも、客間に急いだ。
……ら、何故か俺は今ソファーに押し倒されてしまっている。相手は女性だから俺は手が出せない。それをいいことにこのような行動に出たのだろう。何てことをしてくれているんだ。押し倒されるのは殿下で間に合ってるんだが。
連れてきたカーチェスには、重要な話をするからと言われ下げたが……こういう事か。
「あの日から、ずぅーっと公爵様に会いたくて会いたくて仕方なかったんです。ずっと、ずっと公爵様の事しか考えられなくって。私、とっても寂しかったんですよ?」
「……」
俺は微塵も寂しく思っていなかったが。まずは俺の上からどいてくれ。そう呆れていたら、あろうことかネクタイをシュルっと解かれ腕を縛られしまった。まさか、こんな趣味をお持ちだったとは……俺は一体どうなってしまうんだ。
「……どういう事です?」
「私、知ってるのですよ? 今社交界で公爵様がどう言われているのか。でも、思ったんです。あんな小娘ごときに貴方を満足させられるわけないじゃない、って。大丈夫、公爵様は心配しなくても、私が手取り足取り教えて差し上げますから」
いや、俺には必要ないものだろうから余計なお世話だ。頬を紅潮させながら一つ一つボタンを外されるが、俺は抵抗出来ない。これで強引に押しやったら何を言われるか、どうなるかたまったもんじゃない。
シャツの第三ボタンまで外された時、コンコンッとこの部屋のドアがノックされた。カーチェスの、失礼しますという声が聞こえてきた。俺達の声を聞かずに、ドアが開かれる。
その行動に機嫌を悪くした夫人だが、カーチェスと共に入ってきた人物を見て顔が青ざめた。
「……どういう事です、公爵」
「それはこっちのセリフでしょう。貴方の奥方、何とかしてくださいませんか」
「あっ……」
「これはどういう状況で?」
「いきなり訪問してきて襲ってきた、といったところでしょうか」
「ちがっ」
違う、そうじゃない。そう夫人は焦りを見せながら弁解するが、これはもう言い訳が効かない状況まで来てしまっている。俺の手が縛られ、ここまではだけさせられているのに対し、ご夫人の服は何も乱れていない。俺が襲ったのではなく、襲われたという事は見て分かる。悪いのは俺ではなく夫人だ。
よっこいせ、と夫人の下から脱出した俺はカーチェスに腕を解いてもらい、夫人の旦那であるメドアス伯爵にこう伝えた。
「この客間を使って構いませんから、どうぞお話ください」
そう一言残して部屋を出た。
夫人がこちらに来訪していることを聞いた時点で、きっと何かあるな、とカーチェスにお指示しておいたのだ。この近くにある伯爵家で行われるお茶会に参加するという事を聞いていてよかった。時間稼ぎは出来たが、危うくスラックスまで脱がされるところだった。タイミングばっちり、流石俺の執事だ。
「ダっダンテ様……!?」
「あ……」
心配して来てくれたらしいメイド達は、俺を見た瞬間全員ぱたぱたと失神していった。自分が今服がはだけてた事を思い出すのが遅かった。
後日、あのメドアス伯爵と夫人が離婚したというニュースが社交界で飛び交った。当然の結果、と言ったところか。そもそも、何故伯爵は今まで目をつぶってきたのだか。仕事で大変だったのだろうとは思うがな。それに、色々と事情があったというところもあるのだろう。
実は、夫人の実家、子爵家には莫大な借金があり、結婚するという条件で伯爵が肩代わりをした。伯爵は当時、事情があり婚約者を探していた。ワイン事業で裕福だったため、政略結婚として成立した。
だが今回、離婚し伯爵が肩代わりした借金を今度は子爵家が伯爵に返していかないといけなくなる。
散財癖で有名な夫人だ。恐らく子爵家の者達もあんなに借金を作ったのだから同じ様な性格なのだろう。果たしてすぐに返せるだろうか。
とはいえ、俺には知ったこっちゃない為慰謝料は請求したがな。襲われたのだから当たり前の事だ。キッチリ払ってもらわなければ俺の気が済まない。
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