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◆13 次の一手
しおりを挟む紡績業を長年行ってきたルアニスト侯爵。そんな強者に、評判の悪く若造の俺が挑んだ。はたから見たら負け戦ではあるが、今のところ上手くいっている。
俺がパーティーに出向いた効果がだいぶ出ているのか一気に売り上げが右肩上がりとなったのだ。高級マネキンの効果は絶大だった。世の中の貴族達は面食いだったらしい。
「ここまで利益を出されるとは、素晴らしいですわ!」
「……いや、まだ足りませんね」
セレナ夫人は喜んでいるが、俺としてはもう少し、いや、これよりもっと成果が出なくては困る。侯爵の顔を潰すにはまだまだ足りない。
これ以上の成果を上げるとなると……流石今まで業界を牛耳っていただけあり、新しい生地開発だけではなかなかに手強い。そもそも、絹織物での洋服は今貴族達全員が何着も持っているという現状だ。
しかも皇室の方々も持っている。それだけ長年紡績業界を仕切っていたという事だ。
だが、まだ手はある。
「これを、ですか……」
「えぇ、毎回見ていて思っていたんです。重いし窮屈だし、馬車を乗り降りするのも困難、パーティー中に疲れても椅子に座るのも一苦労でしょう」
「そ、それはそうですが……私達女性にとってこれが当たり前の事ですし……」
俺と契約をしたブティックの店長であるセレナ夫人の元へ訪れ、俺はこんな提案をした。
ドレスを膨らませているクリノリンを外したドレスを作ってほしい。
この国の女性は、クリノリンという頑丈な針金のようなものをドーム状に骨組みにしたものを装着しドレスを着るのだ。だが、それがまた重い。よくこんなものを長時間付けてるなと思ってしまった。これでは足に筋肉が付きまくりだろ。
まだ成人もしていない小さいご令嬢達だって、こんなものを着せられて偶にこけてしまう事だってあると聞いた。ここでは女性の履く靴はかかとの高いヒールが当たり前。そんな歩きづらい靴を履かされ、こんなものを着せられてしまうとは可哀想じゃないか。ならいっその事取ってしまえと思いこんな提案をしたわけだ。
ちなみに言うと、これは貴族出身のメイドから聞いた事だ。ドレスを着る上でなにか不憫な事はないだろうかと聞いたところ、クリノリンの事を教えてくれた。
「私は男性ですから当然着た事はありません。ですが、女性の方々が大変だという事は知っています。ですので、そんな女性達の苦労を少しでも減らしてあげたいと思ったのです」
「公爵様……」
「まぁ、当たり前の事をやめる、という事はやはり難しいでしょうがね」
そう、当たり前の事をやめることが一筋縄ではいかない事は当たり前だ。画期的なものを着る事には抵抗があるだろう。だが、だからこそこれを選んだ。
夫人も渋ってはいるが、ここはどうしても引き下がることは出来ない。だからこの手を使う事にした。
「ですが、夫人の腕は確かだという事は私もよく知っています。ですから、これを頼めるのは夫人しかいないのですよ」
「ぁ……」
お願い出来ますか? と、微笑みつつ夫人に伝えた。
「……ぁ、まぁ、そんな……公爵様からそんなお言葉をいただけるとは、光栄です……公爵様のお心遣いはとても素晴らしいと思いますわ。私も、パーティーに行くたびに苦労はしていましたから……分かりました、公爵様のご期待に沿えるよう全力で取り組ませてください……!」
「その言葉が聞けて良かった。よろしくお願いします」
ようやく、夫人も頭を縦に振ってくれた。ずるい? 使えるものは出し惜しみせず何でも使うのが当たり前だ。俺は、勿体ない事はしない主義だ。
とはいえ、夫人が手掛けるブティックも人気店だ。このブティックから新しいファッションを生み出してくれることを願おう。
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