上 下
13 / 39

◆13 次の一手

しおりを挟む

 紡績ぼうせき業を長年行ってきたルアニスト侯爵。そんな強者つわものに、評判の悪く若造の俺が挑んだ。はたから見たら負け戦ではあるが、今のところ上手くいっている。

 俺がパーティーに出向いた効果がだいぶ出ているのか一気に売り上げが右肩上がりとなったのだ。高級マネキンの効果は絶大だった。世の中の貴族達は面食いだったらしい。


「ここまで利益を出されるとは、素晴らしいですわ!」

「……いや、まだ足りませんね」


 セレナ夫人は喜んでいるが、俺としてはもう少し、いや、これよりもっと成果が出なくては困る。侯爵の顔を潰すにはまだまだ足りない。

 これ以上の成果を上げるとなると……流石今まで業界を牛耳っていただけあり、新しい生地開発だけではなかなかに手強い。そもそも、絹織物での洋服は今貴族達全員が何着も持っているという現状だ。

 しかも皇室の方々も持っている。それだけ長年紡績業界を仕切っていたという事だ。

 だが、まだ手はある。


「これを、ですか……」

「えぇ、毎回見ていて思っていたんです。重いし窮屈きゅうくつだし、馬車を乗り降りするのも困難、パーティー中に疲れても椅子に座るのも一苦労でしょう」

「そ、それはそうですが……私達女性にとってこれが当たり前の事ですし……」


 俺と契約をしたブティックの店長であるセレナ夫人の元へ訪れ、俺はこんな提案をした。

 ドレスを膨らませているクリノリンを外したドレスを作ってほしい。

 この国の女性は、クリノリンという頑丈な針金のようなものをドーム状に骨組みにしたものを装着しドレスを着るのだ。だが、それがまた重い。よくこんなものを長時間付けてるなと思ってしまった。これでは足に筋肉が付きまくりだろ。

 まだ成人もしていない小さいご令嬢達だって、こんなものを着せられて偶にこけてしまう事だってあると聞いた。ここでは女性の履く靴はかかとの高いヒールが当たり前。そんな歩きづらい靴を履かされ、こんなものを着せられてしまうとは可哀想じゃないか。ならいっその事取ってしまえと思いこんな提案をしたわけだ。

 ちなみに言うと、これは貴族出身のメイドから聞いた事だ。ドレスを着る上でなにか不憫ふびんな事はないだろうかと聞いたところ、クリノリンの事を教えてくれた。


「私は男性ですから当然着た事はありません。ですが、女性の方々が大変だという事は知っています。ですので、そんな女性達の苦労を少しでも減らしてあげたいと思ったのです」

「公爵様……」

「まぁ、当たり前の事をやめる、という事はやはり難しいでしょうがね」


 そう、当たり前の事をやめることが一筋縄ではいかない事は当たり前だ。画期的なものを着る事には抵抗があるだろう。だが、だからこそこれを選んだ。

 夫人も渋ってはいるが、ここはどうしても引き下がることは出来ない。だからこの手を使う事にした。


「ですが、夫人の腕は確かだという事は私もよく知っています。ですから、これを頼めるのは夫人しかいないのですよ」

「ぁ……」


 お願い出来ますか? と、微笑みつつ夫人に伝えた。


「……ぁ、まぁ、そんな……公爵様からそんなお言葉をいただけるとは、光栄です……公爵様のお心遣いはとても素晴らしいと思いますわ。私も、パーティーに行くたびに苦労はしていましたから……分かりました、公爵様のご期待に沿えるよう全力で取り組ませてください……!」

「その言葉が聞けて良かった。よろしくお願いします」


 ようやく、夫人も頭を縦に振ってくれた。ずるい? 使えるものは出し惜しみせず何でも使うのが当たり前だ。俺は、勿体ない事はしない主義だ。

 とはいえ、夫人が手掛けるブティックも人気店だ。このブティックから新しいファッションを生み出してくれることを願おう。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

【完】三度目の死に戻りで、アーネスト・ストレリッツは生き残りを図る

112
BL
ダジュール王国の第一王子アーネストは既に二度、処刑されては、その三日前に戻るというのを繰り返している。三度目の今回こそ、処刑を免れたいと、見張りの兵士に声をかけると、その兵士も同じように三度目の人生を歩んでいた。 ★本編で出てこない世界観  男同士でも結婚でき、子供を産めます。その為、血統が重視されています。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)

かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。 はい? 自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが? しかも、男なんですが? BL初挑戦! ヌルイです。 王子目線追加しました。 沢山の方に読んでいただき、感謝します!! 6月3日、BL部門日間1位になりました。 ありがとうございます!!!

【完】僕の弟と僕の護衛騎士は、赤い糸で繋がっている

たまとら
BL
赤い糸が見えるキリルは、自分には糸が無いのでやさぐれ気味です

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

処理中です...