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◆7 高位貴族院会議

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 屋敷内がようやくお通夜から抜け出せた数日後、俺は皇城に出向く事となった。

 その理由は、高位貴族院議会というものが行われる事となってしまったからだ。

 と言っても、議題はいつも行われる定期報告。以前のこいつは、ほぼ全部不参加で終わっていた。だからあまり記憶の中には会議の様子は入っていないが……聞いても何にもならない、くだらない報告を永遠と聞かされるという印象しか残っていなかった。

 俺は聞くだけだから発言することはないためそこは幸いか。

 今まで通り欠席してもいいが、今後のためにもいろいろと把握したいから行かなきゃいけないんだよなぁ。

 朝から、この大陸で一番深いとされているラディス深海よりも深く溜息をつき、仕方なく余所行きの紳士服に手を通した。


「いってらっしゃいませ!」

「はぅっ、よくお似合いですダンテ様っ!!」

「はぁ、とっても素敵です……!」


 最近、やけに使用人達が生き生きしているように見える。屋敷内の模様替えをしたというところもあるのだろうが、恐らく原因は俺だな。

 皆ダンテの記憶にはなかった事ばかりしてくれている。とても親切だ。やはりイケメンは得だな。とはいえ、毎回毎回鼻血を出されるのは困りものだが。貧血になるぞ。

 とりあえず、貧血にいい牛肉を使用人達の食事に取り入れるようコックに言っておくか。どうせなら高級肉にしよう。

 金は有り余っているから雇っている使用人達の為に使ったところで余るんだ。日頃の感謝も込めて、あとでカーチェスに言っておこう。ついでに俺のも、という事で。

 そんな事を考えつつ、全身真っ黒で金色で家紋が刻まれた馬車に乗り込んだ。

 ダンテの記憶から、数回しか参加したことのない高位貴族院会議の様子を引っ張り出していると、すぐに皇城に着いてしまった。

 とりあえず、馬車に乗っているタイミングで言っておこう。


「滅茶苦茶行きたくねぇぇぇえぇぇぇェ……」


 極力声を小さくしたから、俺の心の叫びは外にもれなかったと思う。


「……」


 俺の目の前にある、堂々とそびえ立つお城。俺のイメージ通りの建物だ。

 ……来てしまった。俺が屈辱を味わった原因の現場に。会議の会場が皇城だとは、最悪だ。

 周りには、俺と同じく馬車から降りる貴族も見える。皇城に足を運んだ貴族達や、使用人達の視線まで集めてしまっている。とはいえ、戸惑いの顔ばかりだ。

 この馬車に乗る事が許されるのはダンテ一人のみ。両親はいないからな。だが、今の俺はいつもと違った姿だ。あのブティックのセレナ夫人ですら俺を見抜けなかったんだ。一体誰なんだと困惑している事だろう。

 不眠症で疲れ切って死にそうだったろくでもないやつが、磨いてみればびっくり仰天、神様も驚く顔の整ったイケメンだったわけだ。


「……あ、あのぉ……」

「ダンテ・ブルフォード公爵様です」

「……え」


 御者の声に続けて、会議の招待状を皇城の者に渡す。

 それより、驚いていないで早く通してくれ。


「……あっもっもうしわけありませんっ! ただいまご案内いたしますっ……!」


 先ほどから刺さっている痛い視線を浴びつつ、そのまま皇城の敷地内に足を踏み入れた。

 皇城は、俺の知るお城のような見た目だ。と言っても、ダンテの領地にある屋敷も城みたいなものではある。まぁこれだけ地位が高ければ持っているものも格が上がるのは当たり前か。

 今日はいい天気だし、今は社交界シーズン。そのためここには大勢のご令嬢達が足を運んでいる。皇城の庭は金さえ払えばお茶をさせてもらえる為、きっとそういった集まりで来ているのだろう。それか、国王陛下、皇后陛下、皇太子殿下、第二皇子殿下、第一皇女殿下の内の誰かがお茶会を開けば、か。

 今こうして皇城に来てしまったわけだが、あの二人にはお会いしたくな。第二皇子殿下と元婚約者だ。こんなに人の多い場所で、だなんて一番最悪なシチュエーションだ。頼むから出てこないでくれよ。頼むから、本当に。


「あの……」


 コソコソ話していたご令嬢3人が、俺に声をかけた。いきなり話しかけてきては自分の自己紹介をし始める。これでは俺も名乗らなくてはいけないだろ。


「それで、その、お名前を教えてくださっても……よろしいでしょうか?」


 思った通り、顔を赤く染めもじもじするご令嬢達。照れた様子も見せてくる。ダンテは顔が整っているからその気持ちは分かるが、俺が今名乗ればその瞬間顔が引きつる事だろう。きっとご令嬢達も俺の噂を知っていることだろうからな。だが、ここで名乗らないのは失礼に値する。仕方ない。


「ダンテ・ブルフォードと申します、レディ」

「……」

「……」
 
「……」


 予想通り、ご令嬢達は顔をひきつらせた。私達は何と言えばいいのかしら、と困惑していることだろう。ご令嬢達の心境はよく分かる。だが、もうそろそろで会議が始まる為ここでもたもたしていられない。

 そこで、ここに来るまでに考え抜いた回避方法を使うことにした。俺が前世で培った営業スマイルだ。それをダンテがすると、どうなるだろうか。


「っ!?」

「あ……」

「すみません、折角素敵なご令嬢方にお声がけしてくださったのですが、生憎と今日は時間がないのです。では、失礼しますね」

「あ、いえいえ!」

「こ、こちらこそ、いきなりお声がけをしてしまって申し訳ありません!」


 こうなる。ご令嬢達は先ほどよりも真っ赤に頬を染めていた。顔の整ったイケメンは罪だ。笑った、というより口元をゆるませたわけだが、外でもこれだけで効果を発揮するとは。

 実は、外出する前に屋敷で実践をした。顔の整ったダンテが少し口元をゆるませると、先ほどの令嬢達のように顔が真っ赤になるのだが、微笑むのはあまり使わないほうがいいと実験結果が出ている。

 もちろん、本気で笑うなんてものは外出中には絶対に使わないほうがいい。収拾がつかなくなる。屋敷でだいぶ被害者が出たからな。

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