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◆6 モブメイド
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私は、このブルフォード公爵家のモブメイドである。ここには今年で9年目、結構古株だ。
突然だが、この屋敷でとんでもない事が起こった。天地がひっくり返ったような、この星が逆回転したくらいのとんでもない事が。
「量が多いし屋敷は広いから大変だとは思うが、よろしく頼むよ」
この家の主、ブルフォード公爵様が朝っぱらから使用人達を玄関に集めたかと思ったら、そうおっしゃったのだ。玄関には、大量の荷物が置いてある。朝から業者がここに運び込んできたのだ。それは、大きな木箱。そして机などの家具だ。公爵様によると、これからこの屋敷内を模様替えするらしい。
勿論私達使用人は絶句である。
この屋敷は、派手な物が大の苦手な先代達の為に暗い色ばかりを揃えた、いわば悪魔の城だ。それを模様替えするという事か。
それを言い出した公爵様は、とある日を境に劇的に変わった。
パーティーから帰ってきて2日間起きてこなく、やっと起きたと思ったらまるで人が変わったかのような様子だった。
きちんと3食、朝昼晩とちゃんとした時間に食事を取るようになったし、表情が柔らかくなったし、人を殺すレベルの睨みもしなくなったし、疲れ切った顔も健康的になったし、お礼も言うようになった。そう、あの公爵様が!! ただの使用人に対して!! お礼を言ったのよ!!
しかも、あれから理容師と洋装店を呼んで髪を切り身なりを整えた。
この一族の方々は美男美女。けれど色々と残念なのだ。公爵様も、あまり身なりを整える事はしないから伸ばしっぱなしの髪と疲れ切った顔で認識が出来なかった。スタイル抜群なのにもったいないなぁ、と皆思っていた。
それがこれよ、何よあのイケメン。皆直視出来てないじゃない、眩しすぎて目が潰れちゃうわ。
何も興味を持たなかった公爵様が一体どうしちゃったのかしら、と皆思ってる、んだけど……
「おっと。危ないだろ」
「へ……!?」
「カーテン、重いだろ。次からは男に持ってもらえ」
「あ、りが、とう、ございます……」
イケメンスパダリとはあの方の事を言うのかしら。あの方の為だけに作られた言葉なのかしら。今までの男共はこの人の足元にも及ばないじゃない。え、やば、簡単に持って運んでくれちゃったわよ。カーテン持ってたあの子死んでるし。うん、気持ち分かるわ。
「え、やば、拝みたい」
「私もう死んでもいいかも」
「もう悔いはないわ」
完全に私達の心を鷲掴みにされてしまったという訳だ。こんなイケメンスパダリ様がこの世に存在していただなんて知らなかった。お目にかかれて光栄です。これから何度も拝めるだなんて考えるだけでもう心が舞い上がっちゃってるわ。きっと皆心は一緒ね。
「あの……紅茶、お入れしましょうか……?」
「ん? あぁ、ありがとう」
あぁ、尊い。最高、死んでもいい。合掌。
抜け駆けするなと怒られはしたけどこれは取ったもん勝ちね。
「あ、そういえばカーチェス様が言ってたわよ」
「え?」
「公爵様、婚約者と婚約破棄なさったそうよ」
その瞬間、皆揃ってガッツポーズをキメた。綺麗にシンクロしたのだ。元婚約者我儘っぷりは正直私達にとって大変だった。
この屋敷に来てはさもこの屋敷の主人は私よと主張しているかのように私達をこき使っていた。私達のご主人様は公爵様一人なんですけど、とどれだけ言いたかった事か。我儘だし少し機嫌が悪いと私達に当たるしでだいぶ困っていた。
しかも、この公爵家の財産にまで手を出していた。まぁ、公爵様はしつこくお願いされ面倒だったから好きにしろって許したのだろうけど、それに振り回されるのは私達使用人。
それを知っていたはずの公爵様は何も言ってくれなかったから、私達はただ従うしかなかった。公爵家の財産が底をつくことは決してないだろうけれど、悲しかった。
そのせいでやめていった使用人が数多くいたけれど、きっとそれは公爵様の耳には入ってもそのまま出てしまっていたはずよ。そういう人だったもの。
彼女は婚約者ではあったから、この後本当の主人となってしまう。だから皆その女が嫁いできたらここ辞めようと決めていた。私もその内の一人。まぁ、この天下のブルフォード家で働いているという名誉は失いたくない気持ちもあったけれど、仕方のない事で割り切った。
でも、それももう終わり。本当に変わられて私達使用人にも目をかけてくださるし、しかもご尊顔をずぅーっと見つめていられるだなんてもう最高じゃない。なんて素晴らしい職場なのかしら。
あの女にはざまぁみろ、と言ってやりたいわ。
でも、あの女はあんなに公爵様に執着していたのに、どうしていきなり婚約破棄なんかしたのかしら? 逆に恐ろしいかも。それとも、何かやらかして公爵様に何か言われたとか? あり得そうな話ね。
「それでさ、噂聞いた?」
「噂?」
「そう、婚約破棄された時にあの女が言ったらしいのよ、公爵様に。不能男って」
「は?」
「誰に?」
「公爵様に」
「はぁ? 何言ってんの? 言ったのあの女でしょ? 馬鹿だわ~」
「でしょでしょ? ほんとアホよね、そんな見え透いた嘘」
真実はどうであれ、あの二人はそういう関係にすらなっていなかったのは使用人である私達がよく知っている。バレバレよ、こんなの。
でもさぁ、そんな事言ったって事は公爵様は社交界で不能男認定されちゃったって事よね? はぁふざけんなゴラ。一発殴った方が良かったわね、あぁもどかしい!!
これだと、公爵様は結婚相手を探すのに苦労しそうだけど……いや、これでいいのかもしれない。どこの馬の骨とも知らない女がこの家に来たらもう私達死にそうだし。そんなのお仕え出来るわけないじゃない。最悪よ。
「あら、そういえば私今日の湯あみの係だったわ」
「は?」
「あ”?」
「ちょっと待て、お前今なんて言った?」
とりあえず、全力でじゃんけんをした。抜け駆けするな、と大人数のじゃんけんで勝敗がなかなか決まらなかったけれど。
勝ち取った者達は、見事に鼻血を出して帰ってきた。よく生きて帰ってきた、戦友達よ。でも明日こそは勝ち取ってみせるわ。あぁ、結果は皆同じだと思うけど。
「誰か公爵様の笑顔を見た事ある?」
「え? ないない」
「というか、笑顔を見た瞬間私失神するわよ」
「私も」
「俺ときめいたぞ」
「は?」
「お前今なんて言った」
「え”っ」
抜け駆けしたこの男はシメた。私達で。おいコラ何抜け駆けしてんだ。
けれど、恐らく私達がそれ見たら……吐血で失神では済まされない。でも悔いは残らないと思う。
とりあえず……神様、ありがとうございます。全力で感謝いたします。
突然だが、この屋敷でとんでもない事が起こった。天地がひっくり返ったような、この星が逆回転したくらいのとんでもない事が。
「量が多いし屋敷は広いから大変だとは思うが、よろしく頼むよ」
この家の主、ブルフォード公爵様が朝っぱらから使用人達を玄関に集めたかと思ったら、そうおっしゃったのだ。玄関には、大量の荷物が置いてある。朝から業者がここに運び込んできたのだ。それは、大きな木箱。そして机などの家具だ。公爵様によると、これからこの屋敷内を模様替えするらしい。
勿論私達使用人は絶句である。
この屋敷は、派手な物が大の苦手な先代達の為に暗い色ばかりを揃えた、いわば悪魔の城だ。それを模様替えするという事か。
それを言い出した公爵様は、とある日を境に劇的に変わった。
パーティーから帰ってきて2日間起きてこなく、やっと起きたと思ったらまるで人が変わったかのような様子だった。
きちんと3食、朝昼晩とちゃんとした時間に食事を取るようになったし、表情が柔らかくなったし、人を殺すレベルの睨みもしなくなったし、疲れ切った顔も健康的になったし、お礼も言うようになった。そう、あの公爵様が!! ただの使用人に対して!! お礼を言ったのよ!!
しかも、あれから理容師と洋装店を呼んで髪を切り身なりを整えた。
この一族の方々は美男美女。けれど色々と残念なのだ。公爵様も、あまり身なりを整える事はしないから伸ばしっぱなしの髪と疲れ切った顔で認識が出来なかった。スタイル抜群なのにもったいないなぁ、と皆思っていた。
それがこれよ、何よあのイケメン。皆直視出来てないじゃない、眩しすぎて目が潰れちゃうわ。
何も興味を持たなかった公爵様が一体どうしちゃったのかしら、と皆思ってる、んだけど……
「おっと。危ないだろ」
「へ……!?」
「カーテン、重いだろ。次からは男に持ってもらえ」
「あ、りが、とう、ございます……」
イケメンスパダリとはあの方の事を言うのかしら。あの方の為だけに作られた言葉なのかしら。今までの男共はこの人の足元にも及ばないじゃない。え、やば、簡単に持って運んでくれちゃったわよ。カーテン持ってたあの子死んでるし。うん、気持ち分かるわ。
「え、やば、拝みたい」
「私もう死んでもいいかも」
「もう悔いはないわ」
完全に私達の心を鷲掴みにされてしまったという訳だ。こんなイケメンスパダリ様がこの世に存在していただなんて知らなかった。お目にかかれて光栄です。これから何度も拝めるだなんて考えるだけでもう心が舞い上がっちゃってるわ。きっと皆心は一緒ね。
「あの……紅茶、お入れしましょうか……?」
「ん? あぁ、ありがとう」
あぁ、尊い。最高、死んでもいい。合掌。
抜け駆けするなと怒られはしたけどこれは取ったもん勝ちね。
「あ、そういえばカーチェス様が言ってたわよ」
「え?」
「公爵様、婚約者と婚約破棄なさったそうよ」
その瞬間、皆揃ってガッツポーズをキメた。綺麗にシンクロしたのだ。元婚約者我儘っぷりは正直私達にとって大変だった。
この屋敷に来てはさもこの屋敷の主人は私よと主張しているかのように私達をこき使っていた。私達のご主人様は公爵様一人なんですけど、とどれだけ言いたかった事か。我儘だし少し機嫌が悪いと私達に当たるしでだいぶ困っていた。
しかも、この公爵家の財産にまで手を出していた。まぁ、公爵様はしつこくお願いされ面倒だったから好きにしろって許したのだろうけど、それに振り回されるのは私達使用人。
それを知っていたはずの公爵様は何も言ってくれなかったから、私達はただ従うしかなかった。公爵家の財産が底をつくことは決してないだろうけれど、悲しかった。
そのせいでやめていった使用人が数多くいたけれど、きっとそれは公爵様の耳には入ってもそのまま出てしまっていたはずよ。そういう人だったもの。
彼女は婚約者ではあったから、この後本当の主人となってしまう。だから皆その女が嫁いできたらここ辞めようと決めていた。私もその内の一人。まぁ、この天下のブルフォード家で働いているという名誉は失いたくない気持ちもあったけれど、仕方のない事で割り切った。
でも、それももう終わり。本当に変わられて私達使用人にも目をかけてくださるし、しかもご尊顔をずぅーっと見つめていられるだなんてもう最高じゃない。なんて素晴らしい職場なのかしら。
あの女にはざまぁみろ、と言ってやりたいわ。
でも、あの女はあんなに公爵様に執着していたのに、どうしていきなり婚約破棄なんかしたのかしら? 逆に恐ろしいかも。それとも、何かやらかして公爵様に何か言われたとか? あり得そうな話ね。
「それでさ、噂聞いた?」
「噂?」
「そう、婚約破棄された時にあの女が言ったらしいのよ、公爵様に。不能男って」
「は?」
「誰に?」
「公爵様に」
「はぁ? 何言ってんの? 言ったのあの女でしょ? 馬鹿だわ~」
「でしょでしょ? ほんとアホよね、そんな見え透いた嘘」
真実はどうであれ、あの二人はそういう関係にすらなっていなかったのは使用人である私達がよく知っている。バレバレよ、こんなの。
でもさぁ、そんな事言ったって事は公爵様は社交界で不能男認定されちゃったって事よね? はぁふざけんなゴラ。一発殴った方が良かったわね、あぁもどかしい!!
これだと、公爵様は結婚相手を探すのに苦労しそうだけど……いや、これでいいのかもしれない。どこの馬の骨とも知らない女がこの家に来たらもう私達死にそうだし。そんなのお仕え出来るわけないじゃない。最悪よ。
「あら、そういえば私今日の湯あみの係だったわ」
「は?」
「あ”?」
「ちょっと待て、お前今なんて言った?」
とりあえず、全力でじゃんけんをした。抜け駆けするな、と大人数のじゃんけんで勝敗がなかなか決まらなかったけれど。
勝ち取った者達は、見事に鼻血を出して帰ってきた。よく生きて帰ってきた、戦友達よ。でも明日こそは勝ち取ってみせるわ。あぁ、結果は皆同じだと思うけど。
「誰か公爵様の笑顔を見た事ある?」
「え? ないない」
「というか、笑顔を見た瞬間私失神するわよ」
「私も」
「俺ときめいたぞ」
「は?」
「お前今なんて言った」
「え”っ」
抜け駆けしたこの男はシメた。私達で。おいコラ何抜け駆けしてんだ。
けれど、恐らく私達がそれ見たら……吐血で失神では済まされない。でも悔いは残らないと思う。
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