上 下
29 / 30

◇27

しおりを挟む
 煌びやかな王城の、とあるホール。そこでは国王主催のパーティーが行われていた。

 色々あってドレスが汚くなってしまったけれど、仕方ないね。


「さっ、行くか」

「はいっ!」


 きっと何か言われてしまうと思ったけれど、でもエヴァンと一緒ならぜーんぜん怖くない。

 そして、会場に続くドアを潜った。

 明るい光が照らされ、そして周りの視線も浴びせられる。こんなに遅い参加にきっと疑問に思っている人もいるだろう。

 そして、真っ直ぐに国王陛下の元へ。


「国王陛下、王妃殿下にご挨拶申し上げます」

「ごきげんよう」

「あぁ。だいぶ遅かったな。何があったのだ」

「私の妻が誘拐されてしまいましてね」


 誘拐、という言葉で周りはざわざわと騒ぎ始める。まぁ、私のこの姿を見て信じてくれる人は何人かいるだろう。


「幸い、怪我もなく早く見つける事が出来ました。それで、面白いものを見つけましてね」

「面白いもの、とは」


 笑顔で懐から取り出したのは、さっき私が見つけた書類だ。左上の端を留めて二枚重ねになっている。

 そして、ビリッと一枚ずつにしてしまったのだ。それ、証拠の品でしょ。いいの?


「これ、一枚目を横にして右端を揃えて明かりに照らすと……あらあらびっくり何という事でしょう、どこかの家紋が出てくるではありませんか」


 ニヤァ、とした顔をしているエヴァンは、何とも恐ろしく感じた。そして、それを国王陛下に手渡した。


「ほぉ、確かに面白い」

「何でも屋によくある仕掛けですね。依頼主を記しつつも巧妙に隠すのは」

「この家紋はよく見た事がある。これは……サリサス伯爵家の家紋だ」


 その国王の言葉に、周りはとある人物三人に視線を移した。その人物達は、内二人は慌て、そして一人は青ざめている。これを見れば、誰の仕業か分かりきっている。


「てめぇ、やってくれたな」

「取り押さえよっ!!」


 陛下の一声で、子爵家の者3人が衛兵によって取り押さえられたのだ。


「わっ私は違うっ!! レティート夫人に頼まれたのよっ!!」


 そう言い出したのは、取り押さえている者の一人、伯爵家のご令嬢だ。そしてこの人は、あのルイシア嬢が催したガーデンパーティーに参加していた一人だ。

 レティート夫人というと……公爵家の夫人だったか。周りは夫人からそーっと離れる。

 そして、またまた怖い顔をしたエヴァンが夫人の元へ。


「どういう事だ?」

「な、何のこと、だか……」

「本当に?」

「も、もちろん、ですわ……っ!?」


 なんか、怖いオーラが出てません? エヴァンさん。近づき難い雰囲気が出てるのですが。


「ウチの可愛い可愛い嫁に手を出したんだ。そりゃあ罪は重いだろうよ。だが、自分から名乗り出た方がまだ少し軽くなるかもしれない」

「っ……」

「さぁ、どうする。このままじゃ、俺は家の方まで手を出しかねないな?」


 エヴァンの恐ろしさに腰を抜かしたのか、ゆっくりとその場に尻餅をついてしまった夫人。カタカタと震わせ、顔は青ざめている。

 周りはエヴァンの恐ろしさからかだいぶ離れた場所にまで下がっている。私、彼の背中しか見えないから一体どんな顔をしてるのか分からないな。


「さぁ、正直に言ってくれ」


 夫人の目の前にしゃがみ、そう言ってきたエヴァンに後ずさる夫人。うわぁ、怖っ。


「アンタは何かと俺の嫁にと娘を推しまくってきて呆れるほどだったからな。思い通りにいかなくてテトラに手を出しちまった、ってところか」


 まるで壊れたお人形かのように、カクカクと頭を何度も縦に振っている。なるほど、そういう事か。


「でっでもっ、うちは公爵家、ですから……上位階級の家です……た、太公様の、お相手には、ぴったりかと、思い、まして……」

「アンタは赤の他人。自分の嫁選びにとやかく口を出す権利などどこにもない。そのまま黙っていれば何もなかった。だが、テトラに手を出したのであれば、それ相応の処置を下す。いいな」

「ひっ……」


 うわぁ、涙目じゃん……そこにいらっしゃる夫人とそっくりのご令嬢震え上がってるし。

 そして、何故かエヴァンに手招きされた。あぁ、なるほど。


「ご夫人」

「ひっ……」

「……よくもやってくださいましたね」


 目を光らせると、恐ろしいものでも見たかのような表情をしていて。


「さ、お選びくださいな。グーとパーどちらがよろしいですか?」

「ぇ……」

「わたくし、力仕事を長年してきたものですから、腕っぷしには自信がありますの。さ、どちらがよろしいかしら」


 そうぶりっ子ぶってみた。私のこの発言に理解したようで、震える口でこう言ってきた。


「パ、パー、で……」

「はい、分かりました。では失礼して……っ!!」


 パァァン、と何とも清々しい音が会場内に響き渡ったのだった。

 うん、綺麗に夫人のほっぺたに紅葉が出来たわね。痛いだろうけれど、そのままにするのは癪に障るのよ。しかもナイフまで突きつけられたんだから。

 まぁ、多分これを見てるトマ夫人はやれやれとため息をついている事だろうけれど。


「おーおー見事な平手打ちだな。怒らせないよう気をつけよっ」

「旦那様でしたら特別大サービスでグーにして差し上げますよ」

「それは勘弁だ。まずは奥さんのご機嫌取りでもしないとな。いちごのヨーグルトでいいか?」

「は~い!」

「よしっ、じゃあさっさと帰るか」


 しゃがみ込んでいた私を、またまた抱っこしたエヴァン。周りに何人もの人がいると言うのによくやるな。


「では陛下、殿下、これにて失礼します。私はこれから奥さんのご機嫌取りをしないといけないのでね」

「はっはっはっ、早く行きなさい」

「では失礼」


 と、会場を後にしたのだった。


 次回、最終回。


しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜

しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。 高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。 しかし父は知らないのだ。 ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。 そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。 それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。 けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。 その相手はなんと辺境伯様で——。 なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。 彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。 それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。 天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。 壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~

石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。 食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。 そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。 しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。 何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。 扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

「あなたの好きなひとを盗るつもりなんてなかった。どうか許して」と親友に謝られたけど、その男性は私の好きなひとではありません。まあいっか。

石河 翠
恋愛
真面目が取り柄のハリエットには、同い年の従姉妹エミリーがいる。母親同士の仲が悪く、二人は何かにつけ比較されてきた。 ある日招待されたお茶会にて、ハリエットは突然エミリーから謝られる。なんとエミリーは、ハリエットの好きなひとを盗ってしまったのだという。エミリーの母親は、ハリエットを出し抜けてご機嫌の様子。 ところが、紹介された男性はハリエットの好きなひととは全くの別人。しかもエミリーは勘違いしているわけではないらしい。そこでハリエットは伯母の誤解を解かないまま、エミリーの結婚式への出席を希望し……。 母親の束縛から逃れて初恋を叶えるしたたかなヒロインと恋人を溺愛する腹黒ヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:23852097)をお借りしております。

地味令嬢は結婚を諦め、薬師として生きることにしました。口の悪い女性陣のお世話をしていたら、イケメン婚約者ができたのですがどういうことですか?

石河 翠
恋愛
美形家族の中で唯一、地味顔で存在感のないアイリーン。婚約者を探そうとしても、失敗ばかり。お見合いをしたところで、しょせん相手の狙いはイケメンで有名な兄弟を紹介してもらうことだと思い知った彼女は、結婚を諦め薬師として生きることを決める。 働き始めた彼女は、職場の同僚からアプローチを受けていた。イケメンのお世辞を本気にしてはいけないと思いつつ、彼に惹かれていく。しかし彼がとある貴族令嬢に想いを寄せ、あまつさえ求婚していたことを知り……。 初恋から逃げ出そうとする自信のないヒロインと、大好きな彼女の側にいるためなら王子の地位など喜んで捨ててしまう一途なヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。 扉絵はあっきコタロウさまに描いていただきました。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

告白さえできずに失恋したので、酒場でやけ酒しています。目が覚めたら、なぜか夜会の前夜に戻っていました。

石河 翠
恋愛
ほんのり想いを寄せていたイケメン文官に、告白する間もなく失恋した主人公。その夜、彼女は親友の魔導士にくだを巻きながら、酒場でやけ酒をしていた。見事に酔いつぶれる彼女。 いつもならば二日酔いとともに目が覚めるはずが、不思議なほど爽やかな気持ちで起き上がる。なんと彼女は、失恋する前の日の晩に戻ってきていたのだ。 前回の失敗をすべて回避すれば、好きなひとと付き合うこともできるはず。そう考えて動き始める彼女だったが……。 ちょっとがさつだけれどまっすぐで優しいヒロインと、そんな彼女のことを一途に思っていた魔導士の恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

公爵閣下に嫁いだら、「お前を愛することはない。その代わり好きにしろ」と言われたので好き勝手にさせていただきます

柴野
恋愛
伯爵令嬢エメリィ・フォンストは、親に売られるようにして公爵閣下に嫁いだ。 社交界では悪女と名高かったものの、それは全て妹の仕業で実はいわゆるドアマットヒロインなエメリィ。これでようやく幸せになると思っていたのに、彼女は夫となる人に「お前を愛することはない。代わりに好きにしろ」と言われたので、言われた通り好き勝手にすることにした――。 ※本編&後日談ともに完結済み。ハッピーエンドです。 ※主人公がめちゃくちゃ腹黒になりますので要注意! ※小説家になろう、カクヨムにも重複投稿しています。

処理中です...