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◇23
しおりを挟むあの日の馬車での事件以来、私はずっとエヴァンを避けていた。というか、顔が見れなかった。
「テ~トラちゃんっ」
「……」
逃げて逃げて逃げまくり、食事もガン無視、夜も先に私がベッドに入り、エヴァンが来る前に就寝していた。というか、強引に寝ていた。
だって、だって、あんな事言われたら私どうしたらいいか分からないもんっ!! 俺の事好き? だなんて聞かないでくださいよっ!!
今まで、可愛いって言葉は何度も聞かされたけれど、好き、なんて言葉はあの日が初めて。そもそも、これは自分の家を守るためにした結婚で、いわゆる政略結婚だ。向こうも困っていたし、私達も困っていたのだからWin-Winの関係のはずだった。それに、エヴァンとは結婚式で初めて会ったんだし。
せっかく結婚したのだから、仲良く生活出来たらいいな、なんて思っていたのに。
それなのに、なんだろう。エヴァンの事を考えると、病気かってくらい心臓がバクバクで中々収まらない。
「で、いかがしました」
「……」
「大公夫人」
「……いえ、その、旦那様と……」
「と?」
「気持ちのすれ違い、と言いますか……」
実は今、トマ夫人の公爵邸にいる。というか、呼ばれた。貴族女性の心得を教えてもらうために。けれど、集中力のかけらもない私に呆れたのだろうか、授業を中断したみたいで。
「はぁ、これでは困りますわ。大公様と夫人の仲が良好でいて下さらなければ、付け入る隙が出来てしまいます。ネルティア公爵邸での事で社交界は持ちきりなのですから、絶対に気付かれないようお願いしますよ」
「……ハイ」
そうですよ、それが問題なんですよ。
その事件の後、社交界はだいぶ私とエヴァンの事でもちきりなのだそうだ。こっちはこっちで大変だっていうのに。はぁ、何とかしてくれ。
「これから、国王主催のパーティーが催されますから、それまでに何とかしてくださいね」
「ハイ」
そう、これから国王陛下主催のパーティーが行われる事になっている。これはこの国でも結構大きな行事で、この国全部の貴族達が集められてパーティーを楽しむらしい。
今まで、お父様しか参加してなかったから私は参加をしたことがない。だから、どんな感じなのか今日トマ夫人に教えてもらうために今日ここに来たんだけど……これじゃあ、どうにもならない。
またあの日のパーティーみたいにエヴァンを助けないといけない場面があったら……私、出来るかな。
……自信ない。
なんて思いつつも、この状況をずるずる引きずってしまった。
気まずい空気が漂う食堂。カチャカチャとお皿とカトラリーの音しかしない。しかも、料理は私の好きなものばかりが並べられている。最近ずっとだ。
きっとエヴァンの仕業ね。最近エヴァンだって気まずそうだもん。
でも私のせいって事は分かってるけど……どうしたらいいんだろう。
一体私、今までどうやってたんだっけ。
「あぁ、テトラ」
「っ……」
「……お前のドレス、準備しといたから」
「え……」
そういえばドレス選ばなきゃいけなかったんだった。忘れてた、わけではなかったけれど……エヴァンとお揃いのものを選ばないといけないから、と思うと……後回しにしてしまっていたのだ。
そっか、エヴァン、選んでくれたんだ。
……きっと、時間かかったんだろうなぁ。ブティックのスタッフの人困らせていたはずだ。大丈夫だったかな。
そして数日が過ぎ、私達の仲が直らないまま問題のパーティーがやってきてしまったのだった。
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