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◇22-1

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 私が初めて参加した、王妃殿下主催のパーティー。その日、お約束したルイシア嬢とのお茶会の招待状は、パーティーの次の日の早朝に届いていた。いや、早すぎでしょと思ったけれど、それだけ私とお茶をしたかったのかとも思った。あのパーティーで言われたし。

 それからすぐにトマ夫人とのお茶会に出たけれど、きっとその事は社交界に広まっていると思う。ルイシア嬢の耳にも入っているはずだ。

 そして今日、そのお茶会に行く日となった。果たして、今日はどうなるだろうか。


「……可愛いな。もったいない」

「何がもったいないんです?」

「他の奴らに見せるのが」

「今日はルイシア嬢とのお茶会ですよ」

「でも屋敷には使用人達だっているだろ」

「はぁ……」


 馬鹿な事を言う人はガン無視で馬車に乗り込んだ。今日はルイシア嬢とのお茶会。そのために仕立てた洋服はとても動きやすく品のあるようなものだった。毎回思うけど、一体これにはいくらかかってるんだ。絶対に汚せない。

 トマ夫人には、貴族派のご令嬢達を野放しにするなと言われたけれど……ルイシア嬢も貴族派のご令嬢なんだよね。あんなに無害ですよって言ってるような可愛い女の子だし。

 でも気は抜けない。私は大公夫人なんだから。そう意気込んでいたけれど……


「ようこそいらっしゃいました、大公夫人」

「招待してくださってありがとうございます」


 ネルティア公爵邸に辿り着くと、ルイシア嬢がすぐに私を見つけにこやかに近づき挨拶をしてくれた。うん、今日も可愛いな。


「今日はですね、私のお友達たちも呼んでいますの。皆さんも夫人と仲良くなりたいみたいなのです」

「お友達、ですか」

「はい」


 えっ、ルイシア嬢だけじゃないの? お友達って言ったら、ルイシア嬢と同じような年齢の女の子達かな? とりあえず、ちゃんとしよう。この中で一番階級が高いのは私なんだから。だって、私の上は王族だし。

 とても綺麗なお屋敷。そのお庭に案内された。うわぁ、バラ園だ。とっても綺麗。

 けれど、おかしかった。進むにつれて、人の声が聞こえてきたんだけど……人数が、多い気がする。

 いやな予感がする。


「さ、こちらですよ」


 その先にあったのは……広けた場所。小さなテーブルがいくつも並び、楽しそうに話しているご令嬢やご子息が何人も立っているここにいるのは、大体20人くらいだろうか。手には飲み物のグラスを持ってる。

 これ、もしかして……ガーデンパーティー、ってやつだろうか。


「皆さま、オデール大公夫人がご到着いたしましたよ」


 ルイシア嬢がそう言った次の瞬間、私の方に視線が集められた。そして……クスクスと笑い声が聞こえてきた。


「お初にお目にかかります、オデール大公夫人」


 ぞろぞろと集まってきて、自己紹介をされた。この状況が理解出来ず、ただ挨拶をするしか出来なかった。


「あら? オデール夫人……そのお洋服、ガーデンパーティーには向かないもののようですわね。やっぱり、こういった貴族の常識はまだご理解いただけてないようですわね」


 そう言ってくるご令嬢は、馬鹿にしたかのような目でこちらを見てくる。

 あぁ、なるほど。

 その言葉ですぐに理解出来た。私は、罠にかかったという事だろう。

 そりゃあ、私はお茶会だと聞いてこの服を用意したのだからそうなるでしょうね。


「ルイシア嬢、大公夫人は元貧乏貴族で貴族のお洋服なんてちゃんとしたものを買ってこられなかったのですから、仕方ありませんわ」

「そうですわね。ですが、この国の大公夫人となると、女性貴族の中では一番上の地位におられる方ですわ。これでは困りますわね」


 長時間立つことになるガーデンパーティーと、立ったり座ったりが多くなるお茶会。貴族の中では専用の服がいくつもあるのだ。本当に面倒だよね、これ。

 けどさ、そこまで馬鹿にしなくてもよくない?


「お茶会、とお聞きしたのですが」

「あら、お洋服を間違えてしまったからという言い訳ですか? いやだわ、大公夫人ともあろうお方が言い訳をするなんて!」


 あー、なるほどなるほど。


「やっぱり貧乏貴族に大公夫人なんて無理に決まってますわよね」

「私達まで恥ずかしいわ~」


 そう言った声が聞こえてくる。クスクスと笑い声まで。なるほど、私を馬鹿にしようと思ってるのね。

 とりあえず、カチンときた。いや、これでカチンとこない方がおかしいって。


「いやだわ、子供のいたずらにも程があるわよ?」


 そう、大きな声で言ってやった。

 そんな私の態度に、醜いものでも見たかのような目を向けてくる。そして、最初に挨拶をしてきたご令嬢が私の前に立った。斜め後ろから見てくるルイシア嬢は、にっこりと微笑んでくる。


「何ですって」

「目上の地位にいる方には敬意を払う。教育係に教えてもらわなかったのかしら。貧乏貴族の私でも分かることなのにね?」

「相応しくない方に言われたくないわ。わたくしたちは教えて差し上げてるだけじゃない。どんな地位にあなたは立ってしまっているのかを」

「へぇ。私には、欲しかった地位を別の者に持ってかれて妬ましく思ってるだけのお嬢さんにしか見えないけれど?」

「妬ましく? 嫌だわ、そんな品のない言葉を使うだなんて」

「……はぁ、揚げ足取りにも程があるわ。結婚に文句があるのならもったいぶらずに言えばいいものを。怖くて言えないのかしら?」

「……そうね、私達はあなたが相応しくない、と思っていますの。ちゃんと言って差し上げないと分からないとは、困ったものですね」


 あーやだやだ、これだからチヤホヤされて生きてきたお嬢さん方は。でも、私にこんな事言ったところでどうにもならないのだけれどね。それがお嬢様方には理解出来ないのか。

 だから、私はこう言ってやった。


「この結婚、国王陛下の推薦で成立したものですけど」


 ズバッと。

 思った通り、ここにいる者達は驚いていた。やっぱり知らなかったのね。

 国王陛下が、私を選んだ。そう言ったのだから。

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