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しおりを挟むそして数日後、思わぬ事態が起こってしまうのである。
「私が直接行って確かめてくる。テトラはレオと家を頼むぞ」
「待って、お父様。とりあえず落ち着こう」
「これが落ち着いていられるか。農作物の卸し先が潰れてしまったんだぞ。ただでさえ不作が続いて苦しいというのに、卸し先までなくなってしまったら領民達はどう生活すればいいんだ」
そう、領地で作っていた作物を卸していたところが潰れてしまったのだ。次の卸し先を探すにも、こんな貧乏貴族の話を聞いてくれる人なんてほとんどいない。生活が懸かっているというのに、これではどうしようもない。
「……なるほどな、そういう事か」
「え?」
「おおかた、【アルブム商会】の仕業だろう。今頃、私達が泣きついてくるのを待っていると言ったところか」
確かに、それはありえる。いや、そうとしか考えられない。あんなに安定していたのにいきなり潰れるなんておかしいもん。
……でも、私達のせいで卸し先の人達の仕事がなくなってしまうなんて、申し訳ないし腹が立つ。顔面に一発殴っても足りないくらいだ。
方法は、ないわけではない。私はこんな貧乏貴族の娘だけど、私は今18歳。もう結婚できる。貴族の中で、息子の結婚相手を探している家があるかもしれない。
結婚相手の家が大変なのであれば支援してくれる可能性はある。でもそんなお金を使ってまで私と結婚してくれる相手がいるだろうか。いや、もしかしたらいないかもしれない。でも、やらなきゃ始まらない。
……とは言っても、私は社交界というものをよく知らないし、人脈というものもほぼない。いるかどうかも分からないし、どんな人がいいのかという情報も分からない。間違ったら最悪この家が潰れる可能性もある。
どうしたら、いいのだろうか。
「やぁ、テトラ。元気だったか?」
私が玄関に続く階段を降り切った頃に聞こえてきた。そう言ってきたのは【アルブム商会】の息子。玄関に入ってきた彼は、とても上機嫌にニコニコしながら私に近づいてきた。もう彼女は自分と結婚する道しかないと思ってるんだろうな。
「今日は結婚指輪の話をしようと思って来たんだ。うちで取り扱ってる宝石を見てほしいから、これから行こう。テトラは髪と瞳が綺麗な水色だから、同じ色にするのもいいと思って色々用意したんだよ」
と、私の手を取った。さも、貴族の紳士のようなしぐさで。けど、ただの見様見真似。余計背筋がぞわぞわして気持ち悪かった。
「離して」
「テトラ、これは遊びじゃないんだ。だからちゃんとやる事はやらないと。これからレブロン子爵夫人として振る舞わなきゃいけないんだから」
さも、もう決まったかのような口ぶりだ。頭沸いてんじゃないのかこいつ。すごくムカつく。
「はぁ? ふざけるのも大概にして。私はあんたと結婚なんてしないに決まってるでしょ。寝言は寝てから言って」
「テトラ」
「未婚の、ましてや親しくもない女性に軽々と名前呼びなんてやめてもらいたいんですけど。これは貴族じゃなくても分かる事でしょ」
許してもないのに会うたび会うたび馴れ馴れしくテトラテトラって、反吐が出る。ふざけるな。
「……少し、教育が必要みたいだな」
「は? あんたに教わるようなことはこれっぽっちもないわ。虫唾が走るから黙ってもらえる?」
「少し黙ろうか」
「そんなもの知るか」
少し私も頭に血が昇ったのか、つい口が止まらなかった。やば、と思った時にはもう彼は手を上げていて、私の頬を叩く寸前だった。とっさに私は目をつぶってしまったけれど……
「一体これはどういうことだ」
「っ!?」
その手は私に当たる事はなかった。代わりに、彼のその手を、誰かが掴んでいた。私の知らない男性だった。
男性は掴んでいる手ともう片方の手もひねり、ドラ息子の背中に持っていきいとも簡単に拘束してしまった。
「女性への暴行未遂として扱わせていただく」
「なっ!? 暴行なんてしてないだろ!!」
「私には、彼女の頬を叩こうとしていたように見えたが」
連れて行け、と近くの人にそう言って渡していた。そして、簡単に外に連れ出されてしまっていた。
一体、何が起こったのだろうか。
私を助けてくれた男性は、すごくいい服を着ている。制服みたいな、でも装飾がいくつも付いてる。お父様と同じくらいの年齢だ。……あれ、この服、どこかで見た事……どこでだろうか、思い出せない。
気が付くと、開いている玄関の扉の向こう、外には何人もの男性達が並んでるのが見えた。この男性と同じような服を着てるけど、同じような装飾は付いてない。
「危ないところでした。間に合ってよかった」
「あ、あの、ありがとうございました」
「なぁに、お気になさらず。それで、自己紹介がまだでしたね。私は国王陛下の秘書を務めさせていただいている者です。この度、国王陛下からの手紙を届けにこちらに参上致しました」
……え、マジ?
国王陛下から?
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