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◇1
しおりを挟む異世界転生をした。
「テトラお嬢様、今日は豆スープですよ」
「わ、今日はパンもあるのね!」
「はい!」
とある貧乏子爵家のご令嬢に。
レブロン子爵家はだいぶ貧乏な家で、屋敷や庭もボロボロ。数人の使用人達のお給料をやっと払って生活している。
彼女は成人年齢より2歳上の18歳。16歳の時首都の王族主催のパーティーで初めて貴族の集まりというものに参加したけれど、その後はずっとこの領地で日々生活している。
こんな年ごろではあるけれど、一応婚約者はいない。
「ここにいたのか、テトラ」
何度も聞いたことのある声。あぁ、また来たか。そう呆れてしまった。
ちょうど屋敷の廊下にいたのだが、後ろからその声がしたためそのまま聞こえないふりで逃げてしまおうかと思ってしまった。だけど、こちらに近づいてきて、肩を掴まれた。
「聞こえないふりか? 可愛いじゃないか」
「……」
背筋がぞわぞわとしてしまった。マジでこいつは苦手で嫌いだ。
彼はとある商人の一人息子だ。私より年上で、何度もこの屋敷に訪れてきては私に話しかけてきた。
きっと、こいつと一緒にこいつの父親も今来ていることだろう。たぶんお父様のところにいるんだろうな。
どうして商人のこいつらが来ているのか。それはおそらく、以前私達に提案してきた、私とこいつの縁談話の答えを聞きに来たのだろう。
何故、私達貴族にこいつら商人から縁談話を持ってこられたか。それは、私達はこいつらからお金を借りたからだ。そう、借金だ。
でも、うちは貧乏だからまだ返せていない状況だ。しかも領地で不作が続いている。そこでこれを出されたらきっぱり断れるわけがない。
「結婚するんだから、もう少し俺の事を見てくれると嬉しいんだが」
「……」
う……っぜぇ……なぁにが結婚だ。したくないわ。
だってこいつ、顔がいいから愛嬌を振りまいて女をはべらかしているんだから。私もそのうちの一人になれですって? ふざけんな。
「まぁ、俺としてはこれくらいつんつんしている女の方が好みだしな」
いや知らないから。気持ち悪いからやめてくれ。
なんて思いつつカツカツと歩き出した。当然こいつも付いてくるが。お父様は今応接室だろうからその部屋に向かおう。
何故、こいつら商人が私達に付きまとうのか。その理由は一つ。子爵という爵位が欲しいからだ。こいつらは金は沢山持っている。まぁ、首都じゃ有名な商人って感じか。だから大富豪とまではいかないが金持ちの家だ。でも、持っていないものが一つ。そう、爵位だ。
彼らは私達が持つ爵位が欲しい。私達はお金が必要。まさに相性のいい関係だ。だが、彼らの裏側を私達は知っている。まぁ、正統派で行けばそんな商売はうまくいかない、とでも言っておこうか。
だから、何が何でも結婚は阻止しないといけないのだ。この家は結構歴史のある由緒正しい貴族の家。……貧乏になってはいるけれど。
そのため私達はこの家を守っていかないとご先祖様方に申し訳が立たないのだ。だからこそ、そんな家にそんな汚いもんを入れてたまるかって事だ。内側に入られたら何をされるか分からない。だからそれだけは絶対にダメだ。
応接室に着くと、中から声が聞こえてきた。
「その判断が何を意味するのか、身をもって実感するといい。後悔するのはそちらだ」
そんな声が聞こえてきて。これはこいつの父親の声だろう。【アルブム商会】というこいつらの商会の商会長だ。
いきなりドアが開き、その商会長が出てきた。私を見つけては不気味な笑みを見せ、帰っていった。じゃあな、とこの息子も付いて行った。
部屋の中にいたお父様は、ソファーに座って頭を抱えていた。一体何を言われたのだろうか。
「……あぁ、テトラか」
「何を言われたの」
「……いや、いつもと同じだ。縁談話を受けろ、と。断ったが……今回は、何か企んでいるように見えてな。今日の様子から、どうしても爵位が欲しいようだ。だから、金を惜しまず使ってくるだろう」
「うん……」
一体何を企んでいるのやら。でも、私達は何を対策すればいいのか分からない。お金がないから出来ることも限られてくる。
「……悪いな、テトラ」
「……」
別に、お父様が悪いわけではない。悪いのは貪欲で悪徳なあいつらだ。
けれど、そんな奴からお金を借りなければならなくなってしまった状況を作り出したのはこちらではあるし、私達が弱いから目を付けられた、というところもある。うちはそんなに強い家ではないし、力もない。助けてもらえる家もない。
一体、どうしたらいいのだろうか。
何も出来ない自分が、とても悔しい。
「ねーたま?」
「あ、あぁ、レオ、来てたのね」
私には、可愛い可愛い愛してやまない弟がいる。ちなみに3才だ。この子の為にも、何とかしないと。
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