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しおりを挟むあんなに窮屈なドレスを着たくなくて選んだ、騎士の道。
それなのにどうして、任務で着なくてはいけないんだ。
「あらまぁ、とっても細くていらっしゃいますね」
「どうも」
何故、貴重な休みをこんな煌びやかで華やかなドレス専門店のブティックに足を運ばないといけないんだ。まぁ、すぐそこにいらっしゃる騎士団長様に連れられてしまったのが正解だけれど。
任務と言われてしまった以上、騎士団員の私に選択肢は全くない。けど……どうして団長様自らここに来るんだ。サイズの採寸だけなら私一人でもよかったのでは?
はぁ、と心の中でため息をついてしまった。ようやく終わった採寸に安堵し脱いでいた上着を着直した。カーテンの向こう側で待っていた団長様の方にすぐに戻った。
「採寸、完了いたしました」
「そうか」
ソファーに座り待っていた団長様の近くに立った。けれど、私この後どうしたらいい。もう帰っていいか。というか、人払いされてませんか。
と、思っていたらソファーから立ち上がり、私の手を引き進んだ。目の前にある、いくつも並べられたドレスを着たマネキンの前に立たされて。
「どれがいい」
「……」
私が選べと。そういう事ですか。でも、肩を抱き寄せないでほしい。触れられた瞬間肩が上がりそうになってしまい全力で抑えたけれど、気付かれただろうか。
「……右から二番目が、動きやすそうかと」
「好みで選んでくれ」
「……任務、ですよね」
「任務は建前だ」
……職権乱用? 思いっきり、自分の口で言いましたよね。
でも、やめてほしい。そんな事言われたら……勘違いしそうだ。
何色が好きだ、と言われて青と答えたけれど……流石にドレスを着なさ過ぎて選べと言われてもどう選んだ方がいいのか分からない。ドレスより制服の方がしっくり来てしまうのだからしょうがない。
今だって、任務だからと裏口からこちらに来たのだけれど……プライベート服とあってスカートではなくズボンだ。スカートからして何年ぶりか分からない。
「……団長様に選んでいただけると、光栄です」
「団長様、か」
……気を悪くしたか? と思ったけれど、くるっと身体を回されてそちらに向かされ、顔を至近距離で近づかせてきた。軽く抱きしめられてしまっているから、逃げられない。どうしよう、心臓の音が煩い。
「この前、ベッドの上で何と言った?」
「っ……」
あれだ。懐中時計を置いていったあの日。その日を思い出してしまうと、顔が熱くなってしまう。ゆだりそうだ。
それに、あの日はどうかしてて言えていたけれど、今こんな所でそれを言うのはだいぶ勇気のいる事だ。だいぶ恥ずかしすぎる。けれど、今それを言わないと許してもらえなさそうでもある。そう、これは任務だ、任務。そう自分に言い聞かせないとどうにかなってしまいそうだ。
「……リア、ム」
「覚えていてくれてよかったよ。さ、私に選んでほしいんだったな」
何だか、そう言われると違う意味で選んでほしいと言ってしまったように聞こえてしまう。そう、ただ私はドレスがよく分からないから助けてもらおうとお願いしただけであって。あ、いや、だいぶ格上の近衛騎士団の団長様にお願いだなんて恐れ多いわけではあるけれども! そう、ただそれだけ。
だけど……この心臓のバクバクが治まらない。団長様に聞かれでもしたら……なんて思われてしまうだろう。それがただ怖く感じてしまう。
ドレスの方に向き直ったのに、いきなり手が腰に移動して。そのせいで分かりやすいくらいに肩が上がってしまった。これはもう絶対にバレてしまった事だろう。もう今日の私は最悪だな、はは……
「なら……これにしようか」
団長様が選んだドレスは、意外なものだった。
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