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■100 成人の儀

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 今日始まる成人の儀は、つつがなく執り行われた。大きな会場で、貴族の当主達や王宮での重要な立場にいる者達、そして他国からいらっしゃった者達に見守られ、殿下は陛下から剣を受け取る。それから拍手で殿下を祝った。

 まさかこんな場に出席できるとは何とも不思議なことだ。

 因みに、起立やお辞儀などは隣にいるモワズリー卿が合図してくださるお陰で着いてこれている。次は拍手ですよ、などこんな風に小声で教えてくれて。本当にありがとうございます助かりました。

 さてと、この後はパーティーだっただろうか。休む間もないな。


「そこの方」


 会場から出てすぐ声を掛けられた。これは……たぶんお姫様だ。それなら早くこちらが挨拶せねば。


「お初にお目にかかります。私は、ステファニー・モストワ男爵でございます」


 位の低い者から先に挨拶するのがルールだ。だけど、誰だろうか。


「初めまして、私はミラド王国の第三王女トレア・トルトスです。先日のリヴァイアサン討伐の件、私からもお礼を言わせてください」


 ありがとうございました、と頭を下げる王女にどうか頭をお上げくださいと慌ててしまう。ミラド王国は島国。この国との貿易で、貿易ルートをリヴァイアサンに邪魔されていた所を私が討伐したのだ。

 使節団の方々が屋敷に来たけれど、まさかここまでされるとは。

 そう思っていた時、彼女の表情が変わった。そういえば、と話題が変わる。


「モストワ男爵はとてもフレデリック殿下と仲がよろしいと聞きましたわ」


 声色が微かだけど変わったような。いやな予感がするんだけれど……


「実は、私フレデリック殿下が初恋なの。色々と殿下の事を教えてくださらない? 友人・・なのだからよく知っているでしょう?
 あ、もし嫌ならいいのですよ? だって男爵がここに来たのは1年弱くらい前なのだと聞きましたわ。殿下と運良く・・・お近づきになれてあまり時間が経ってないようですから、そんなに知らないのでしたら無理はしなくても大丈夫です」


 うわぁ、何これ。嫌味じゃないですか。私は敵視されてるって事? じゃあ巻き込まれてるって事だよね。ちょっと殿下っ!! 何てことしてくれてるんですかっ!!


「殿下の友人だなんておこがましいです。只賢者である私に色々とご相談なさっているだけです」


 私は只の錬金術師ですから、と笑顔で返した。ただ殿下の悪ふざけに巻き込まれているだけです、これ以上はやめて下さい。殿下。

 そんなこんなでこの話はなんとかやり過ごした。はぁ、勘弁してくれ。


「……女って怖い……」


 君も女だよね、っていう返しはいらないです。



 そんな事を思っている今の私には、この元凶である人物がこれから派手にやらかしてくれる事を考えもしていなかったのである。








「うげ、視線が怖いですよアスタロト公爵」

「主にご令嬢や他国の姫達かな」


 君は有名人だから大変だね、とパーティー会場に入りつつアスタロト公爵スタイルでランディさんを出してきた。同情されても何にもなりません。

 入ってからは予測通り他国の方々が近づいてきて。男爵ではなく賢者という認識で話してきて、ごますりなどをしてくる。

 でも、皆さんそれぞれに隣国の者達が集まるこの場では発言に気を付けているようで。後ほど伺わせてください、と言った約束事を取り付けようとして来た。やはり、自国の現状をあまり知られたくはないようだ。弱点になってしまう可能性も無いわけではない。

 それから、陛下とフレデリック殿下が入場してきた。私達は頭を下げる。そして、飲み物を配られた。


「サーペンテイン国の平和と繁栄を祈って」


 陛下の声を合図に皆は乾杯をし飲み物を喉に流した。因みにこれはお酒だ。あ、私ちゃんと飲めますからね?

 そしてこのタイミングで曲が始まり、会場内に歓声が沸いた。

 階段から降りてくる陛下と殿下。皆、と言っても女性陣が殿下を見つめ、というより獲物を見つけたような、そんなギラギラとした目を向けていて。まぁ、そうなるとは分かってはいたけれど。……えっ。

 私は、嫌な予感がした。

 殿下が、陛下と何か話してからすぐ離れて……こっち、向かってきてません? え、勘弁してください。もしこちらの使節団の方々の中に何か用があるのなら私は逃げますよ。

 周りの女性達が接近して声をかけているけれど、一言声をかけてからこちらに来ていて。……やっぱ逃げる? そう考えつつアスタロト公爵……あれ、あれれ……ちょっと、何でいないんですか!? どこ行っちゃったんですか!?


「えぇと……ご機嫌麗しゅう……殿下」


 周りの使節団の方々も挨拶をし、成人の祝いの言葉を告げていて。やっぱり国が違うと挨拶の仕方などの作法も違うんだと感心した。

 では私はここで失礼します。と言いたかったが、視線で止められた。どこに行くんだ? と、顔で言われてこの場から離れられず使節団の方々との会話をニコニコと聞くしか出来ず……

 何とかしてくれ、誰か……


「それで、殿下。婚約者はもうお決まりで?」


 あ、この流れは我々の国の姫様は如何でしょうかというやつか。殿下も大変だな。ほら、姫様達もこっちに……「そうだな、決めてはいるが本人にはまだ伝えてないんだ」


「ほぉ、ではこれから?」

「あぁ」


 今まではターメリット侯爵令嬢が有力だって言われてたけど、今日は来ていないし……あんなことがあったし……と言っても私がやったんだけど。それに政治の為の政略婚約というものもあるわけだし……そんな事を考えていた時、私は「えっ」っと素っ頓狂な声を出してしまった。何故って?それは……


「ステファニー・モストワ賢者に、日頃の感謝も込めて」


 胸ポケットにあった薔薇を差し出してきた殿下。

 そう、私に。

 ……私に。
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