88 / 110
■87 後ろ盾
しおりを挟む素敵な音色が奏でられ、貴族達が自分を着飾り踊る煌びやかな世界。
そんな社交界で、今話題となっているニュースがある。
「海に現れたリヴァイアサンが討伐されたそうよ」
「まぁ、あのモンスターが! 騎士団? それともギルド?」
「今話題の、賢者殿だそうですわ」
「まぁまぁ! あのウガルルムを討伐したという賢者殿が!」
そんな話が持ちきりとなっているのだ。
「そんなもの、ただの噂話でしかないでしょう」
「ターメリット侯爵令嬢、ご機嫌麗しゅう」
「えぇ。リヴァイアサンはウガルルムよりも数十倍の力を持っていますわ。錬金術師でしかない彼女が討伐できるとは思いませんわ」
それに、リヴァイアサンは海のモンスターです。水上戦など、無理にもほどがあります。運よく、などあり得ません。どうせ、逃がしただけなのではないでしょうか。そういう意見を持つ者は他にも多々いる。
「ですが、死骸を持ち帰られたとか」
「きっと違う似たモンスターを持って帰ってきたのではありませんか?」
確かに、と納得するご令嬢がちらほら。拝見したあのお姿、あんな私達と変わらない女性があんな恐ろしいモンスターを討伐するなど無理のある話ですわ。などという意見が出てくる。だが、とあるご令嬢が口をはさんだ。
「違う死骸を持ってきたとしても、他の者達が間違えるでしょうか」
彼らは、王宮の者達。今の発言は、王宮に対しての侮辱となってしまう。彼女のその意見に、確かにと便乗するご令嬢が増えてくる。
そんな話の中で、一人だけ顔を歪めるご令嬢がいたのだった。
「署名、ですか……?」
陛下に呼ばれた賢者である私は、王宮の貴賓室に招かれた。そして、目の前に座る陛下に綺麗な紙を渡される。一番下に、私の名前を書く欄が用意されていた。
「そうだ、契約を結ぼうと思っていてな」
「契約とは……」
今回、私はリヴァイアサンを討伐した。王宮の為に尽くしたこの案件を機に、この提案を持ってきたのだ。
「ステファニー殿がこのサーペンテイン王国に手を貸してくれる代わりに、私がお主を全面協力しようという提案だ」
なぁに、難しい事は要求しないから安心していい。と笑う陛下。
そうか、陛下が私の後ろ盾となってくれるという事か。それはありがたいな。これで、しばらくは周りはちょっかいを出せなくなるだろう。
「分かりました、こちらも力を尽くさせていただきます」
「ハッハッハッハッ、そんなに気を張るでない」
陛下には何から何まで良くしてくださって、頭が上がらないな。
「いやぁ、リヴァイアサンを討伐すると言い出した時には肝を冷やしましたが、貴方がやると言えば出来ると確信しているという事だとこの件でよく分かりましたよ」
「陛下ぁ……」
……会う度会う度周りを下がらせ敬語を使われるのはやめて欲しい。絶対楽しんでるみたいだし。
「リヴァイアサンの死骸はどうしますか? 丸ごと賢者様に献上してもいいと私は思っているのですが」
「……」
「おや、必要ありませんでしたか」
「……ありがたく、頂戴いたします」
そうして、この件は公の場で発表される事となった。彼女がリヴァイアサンを討伐した事を信じていなかった者達も、この事で信じるしかなくなったのだ。
そしてその件は、しばらくは社交界の話題となったのだった。
3
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
陛下から一年以内に世継ぎが生まれなければ王子と離縁するように言い渡されました
夢見 歩
恋愛
「そなたが1年以内に懐妊しない場合、
そなたとサミュエルは離縁をし
サミュエルは新しい妃を迎えて
世継ぎを作ることとする。」
陛下が夫に出すという条件を
事前に聞かされた事により
わたくしの心は粉々に砕けました。
わたくしを愛していないあなたに対して
わたくしが出来ることは〇〇だけです…
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる