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■87 後ろ盾

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 素敵な音色が奏でられ、貴族達が自分を着飾り踊る煌びやかな世界。

 そんな社交界で、今話題となっているニュースがある。



「海に現れたリヴァイアサンが討伐されたそうよ」

「まぁ、あのモンスターが! 騎士団? それともギルド?」

「今話題の、賢者殿だそうですわ」

「まぁまぁ! あのウガルルムを討伐したという賢者殿が!」



 そんな話が持ちきりとなっているのだ。


「そんなもの、ただの噂話でしかないでしょう」

「ターメリット侯爵令嬢、ご機嫌麗しゅう」

「えぇ。リヴァイアサンはウガルルムよりも数十倍の力を持っていますわ。錬金術師でしかない彼女が討伐できるとは思いませんわ」


 それに、リヴァイアサンは海のモンスターです。水上戦など、無理にもほどがあります。運よく、などあり得ません。どうせ、逃がしただけなのではないでしょうか。そういう意見を持つ者は他にも多々いる。


「ですが、死骸を持ち帰られたとか」

「きっと違う似たモンスターを持って帰ってきたのではありませんか?」


 確かに、と納得するご令嬢がちらほら。拝見したあのお姿、あんな私達と変わらない女性があんな恐ろしいモンスターを討伐するなど無理のある話ですわ。などという意見が出てくる。だが、とあるご令嬢が口をはさんだ。


「違う死骸を持ってきたとしても、他の者達が間違えるでしょうか」


 彼らは、王宮の者達。今の発言は、王宮に対しての侮辱となってしまう。彼女のその意見に、確かにと便乗するご令嬢が増えてくる。


 そんな話の中で、一人だけ顔を歪めるご令嬢がいたのだった。













「署名、ですか……?」


 陛下に呼ばれた賢者である私は、王宮の貴賓室に招かれた。そして、目の前に座る陛下に綺麗な紙を渡される。一番下に、私の名前を書く欄が用意されていた。


「そうだ、契約を結ぼうと思っていてな」

「契約とは……」


 今回、私はリヴァイアサンを討伐した。王宮の為に尽くしたこの案件を機に、この提案を持ってきたのだ。


「ステファニー殿がこのサーペンテイン王国に手を貸してくれる代わりに、私がお主を全面協力しようという提案だ」


 なぁに、難しい事は要求しないから安心していい。と笑う陛下。

 そうか、陛下が私の後ろ盾となってくれるという事か。それはありがたいな。これで、しばらくは周りはちょっかいを出せなくなるだろう。


「分かりました、こちらも力を尽くさせていただきます」

「ハッハッハッハッ、そんなに気を張るでない」


 陛下には何から何まで良くしてくださって、頭が上がらないな。


「いやぁ、リヴァイアサンを討伐すると言い出した時には肝を冷やしましたが、貴方がやると言えば出来ると確信しているという事だとこの件でよく分かりましたよ」

「陛下ぁ……」


 ……会う度会う度周りを下がらせ敬語を使われるのはやめて欲しい。絶対楽しんでるみたいだし。


「リヴァイアサンの死骸はどうしますか? 丸ごと賢者様に献上してもいいと私は思っているのですが」

「……」

「おや、必要ありませんでしたか」

「……ありがたく、頂戴いたします」
 

 そうして、この件は公の場で発表される事となった。彼女がリヴァイアサンを討伐した事を信じていなかった者達も、この事で信じるしかなくなったのだ。


 そしてその件は、しばらくは社交界の話題となったのだった。
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