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■49 屋敷内の日常
しおりを挟む『展開』
『Aqua』
『Ventus』
『Creare』
ウガルルムの鱗、水魔法、風魔法を組み合わせて錬成。そうして出来上がったのは、布団だ。あの国王陛下、王太子殿下他多数の方々に依頼されて作ったあのふかふかお布団です。
あの後、鱗数枚と言わず全部持っていけと言われ死骸ごと貰ってしまったのだ。ありがとうございます。だから、鱗は大量に手元にあるわけで。
『陣よ、開け』
『大地を潤す水よ……』
『大地を駆ける風よ……』
『そして、全てを包み構築せよ_____錬成』
「うんうん、上手くできたね。じゃあもう一回だ」
因みに今は、屋敷のお庭です。大きすぎるウガルルムの死骸を出すのには少し狭すぎたため外で作業中。剥がしては錬成、剥がしては錬成を繰り返しているという訳だ。
これを、使用人全員に配ろうと思っていて。勉強になるからとジョシュにも手伝ってもらってます。
あれからの私達に対する使用人達の対応は、困ったような、どう接していいのか分からないような、そんな様子で。
それもそうだ、こんな見た目が小娘の、貴族になりたての錬金術師が自分達の主人になってしまったのだから。
これから一緒に居る時間が長くなっていくのに、このままじゃちょっと嫌だよね。
「サマンサ、近くで見てみる?」
「えっ、よろしいのですか……?」
「うん、おいで」
ちょっと遠くで作業しながら、ちらちらとこちらを見ていた彼女。錬金術を見たことがあまりないのかな?
「魔法を混ぜ合わせた魔法混合錬成って言うの」
「錬金術の知識は少しだけありましたが、魔法も取り入れたものは初めて拝見いたしました……!!」
「聞きたいことがあったら何でも聞いてね」
「ありがとうございます、男爵様」
「ねぇ、男爵様じゃなくてステファニーって呼んで?」
「で、ではステファニー様と、お呼びしてもよろしいでしょうか」
「うん、それでお願い」
これ、出来たから皆に配ってほしいんだけれどいい? と言うと喜んでくれて。彼女一人じゃ大変そうだから男性何人かを呼んでお願いした。
来てくれた人達は、ちょっと戸惑ってはいたけれど、
「ふ、ふかふかだ……!!」
「あったかい……!!」
と、小さな声をこぼしていた。やっぱり作って正解だった。これから冬だったから、きっと重宝されるだろう。
「よ、よろしいのですか……? わ、我々使用人に……」
「えぇ、寒い時期だから大変でしょ? どうぞ使って。何かあったら遠慮なく言ってね」
有難く使わせていただきます!! と、声を揃えて言ってくれた。
一緒に作ったジョシュも嬉しそうだ。良かった。
あとは、あの王宮騎士団の皆さんが絶賛してくださったあの暖房魔鉱石も作ってみよう。大きなものを作るのもいいかもしれない。
「男爵様、探しましたよ」
「あ、スティーブン……」
「早急に目を通していただかなければいけない書類がございます」
「はぁーい……」
「男爵様」
「……うん、今見るよ」
言葉遣い、気をつけます。
「警備兵に関して、今いる者達の人数が足りず適当な人材を集めている所ですが、時間がかかるかと。早急に集めて参りますのでもう少々お待ちください」
「うん、分かった。あと、子供達の件だけど、」
「見回りをさせていた兵達から、数人の赤ん坊や幼い子供を何人か発見したとの報告がありました」
「じゃあ、世話についてはサマンサに一任してもらって」
「分かりました」
そっか、まだいたのか。
資料を確認したら、元先代のドラグラド子爵の時から急に出生率が下がっている。だからこんなに町の人数が減っているという事だ。
やっぱり、税金と稼ぐお金が関係してくるって事か。この領地の生活水準もだいぶ低い。何とかしないとね。税金の件は何とかなってはいるけれど、稼ぎどころを何とかしなきゃ。
「時間が空いたら、湿地帯に行くべき……?」
ルシルちゃんにお願いすればすぐに湿地帯に向かうことが出来るし。
「時間、空かない?」
「今の状況では1日は無理がございます。レッスンは予定以上に進んではいますが、通常業務の方がまだ大量にありますので……」
「そーだよね……」
「3日後に、モルティアート侯爵夫人が来訪していらっしゃるとの便りが来たではありませんか。それに本格的に夜会の準備を始めなければならなくなってきています。時間がありませんよ」
時間よ、止まってくれ。
……なんて願い叶わず次の日、沢山の手紙が送られてきたとサマンサが持ってきてくれた。
「とっても大量。普段の貴族ってこんなに手紙のやり取りをするんだね。全部読むのに時間がかかりそう」
「そうですね。ですがステファニー様は貴族になりたての方ですから、普段よりも多く送られてきています」
お手伝いいたします、と封を開けて読みやすくしてくれた。どれどれ。
「これは……お話がしたい? こっちは、事業に対するお話?」
「こちらは、恐らく領地経営の代わりを務めたいとのことでしょうか」
「殿下の言っていた事だよね、利用しようって」
「えぇ。では、お断りの手紙を送っておきましょう」
「ありがとう。……ん?」
これ、どこかで見た様な印璽……どこだったかなぁ、覚えはいいはずなんだけど……チラッとしか見た事なかった?
「こちらは、アスタロト家の紋章です」
「アスタロト公爵様?」
この領地で彼に会った時、馬車に書いてあったのを見たからじゃ。中身は、デビュタントのエスコートをさせてくれとのことだった。
「デビュタントって、初めて社交界に入るときの夜会って事だよね。お披露目の夜会?」
「はい、その通りです。恐らく、ステファニー様がアスタロト公爵家と良い関係を築いていると世間に見せる為。後ろ盾となってくださる、という事でしょうか。
そうなっていくと、暫くは先程のような手紙を送ってきた貴族の方々は静かになると思われます」
「公爵様……!!」
嬉しいです! ありがとうございます!
今度お礼言わなきゃ。
「ステファニー様は、良い人脈をお持ちですね。モルティアート侯爵家とも、とても良い関係をお持ちですから」
「関わる方々がとてもお優しい方々だったから、ありがたいね」
「それもありますが、ステファニー様だからこそ、もあると思いますよ」
「え?」
「我々使用人まで気遣って下さるほど、お優しい方ですから。
皆、声を揃えてお布団のお礼を言ってくれとお願いされました。皆の代わりに言わせてください。本当にありがとうございました」
「あ、はは。照れちゃうね。ありがとう。あと、ジョシュにも手伝ってもらったから彼にも言ってくれると嬉しいな」
「分かりました」
ふふ、何とかやっていけそうな。そんな感じがする。
ありがとう、皆さん。
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