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■48 モストワ男爵邸
しおりを挟む体力には自信があった。……筈なんだけど、精神的ダメージも沢山あって頭がぐるぐる中です。
やっと領地に向かう準備が出来たかと思ったら向こうでもやることが沢山だと向かう最中でも色々と目を通さなければいけないものを処理していた。
因みに、この魔鉱車はモルティアート侯爵様からのプレゼントだ。とても素晴らしいものを頂いてしまった。そして、ドレス。ちゃんと貴族らしくいなさいと夫人が用意してくださったのだ。本当に、何から何までありがとうございます。
「ん?」
隣にいるジョシュは物珍しそうに外を見ている。そっか、こっちに来るのは初めてだもんね。
「楽しみ?」
「うん! ししょー!」
「そっか、良かった」
まだ、ジョシュのししょー呼びに慣れない。慣れないものが沢山ありすぎて混乱真っただ中だ。けれど、少しずつでも慣れていかなければいけないね。
「わぁ、ここどこ? 凄いね」
「男爵様の邸宅でございます」
以前、ここの領地に来た時に招かれた邸宅とは全く違った建物。場所も違うし。大きさは一緒? だけどあの十分すぎるほどの豪華なものとは違って落ち着いた感じのお屋敷。これからここに住む事になるから、丁度良かった。
「モルティアート侯爵様からのプレゼントだそうです」
「……感謝してもしきれない、ね」
どうしよう、私は一体どうやって返せばいいのだろう。そうこうしている内に入口に魔鉱車が到着。見てみると、使用人と思われる人達が沢山並んでいた。
黒いワンピースに白いエプロンをした女性達、ピシッと黒い服装をした男性達が沢山。
これから、この人達の雇用者になるのか。何とも自信が無くなってしまう。
「以前、元子爵であったドラグラドの邸宅で働いていた者達が殆どですが、辞めていった者達が多く今はこの人数となってしまいました。これから調節していきましょう」
「うん。人手が足りなくて大変だと思うけれど、これからよろしくね。皆さん」
そう言うと、困った顔や、驚いた顔をした人達が沢山。何かおかしなことを言っただろうか。まぁまだ慣れていない未熟な主人だから不安要素は沢山だ。けど、これから頑張ります。
ご案内いたします、そう言われて邸宅内へ入った。
建物内は、あの子爵邸とは打って変わってとても落ち着いた感じの内装だ。とても気に入ってしまった。隣で手を繋いでいたジョシュも気に入ったらしい、そんな反応だ。
本当にここ、私の家になっちゃうんだ。信じられない。ちょっと舞い上がっちゃってるかも。楽しみだけれど、やる事がいっぱいだからなぁ。
「迷子にならないよう、頑張って覚えようね。ジョシュ」
「うんっ!」
それから私の書斎として用意された部屋に案内されて、そのままスティーブンにお勉強と仕事をさせられてしまいクタクタになってしまった。
「ねぇ、スティーブン」
「はい、如何いたしました」
「飲み水の無償化と、領民達の税金を1年徴収しないっていうのは可能??」
「えっ、1年、ですか!?」
「今まで余計に払ってたわけだし……これを見れば、男性はこの町で主流の鍛冶屋の仕事についている人が殆どだけれど、女性が仕事をしている人は全然いない。
だから、職に就けるように何か仕事を作ってあげればいいんだけれど、時間がかかるし……
こんな状態でお金を稼ぐって難しいでしょ? だから、1年の猶予期間を作りたいんだけど……駄目?」
「男爵様……いいですか、男爵様は今何も事業をしていません。その状態での収入源は領民からの税金しかないのですよ」
「貯金があるよ」
「邸宅に多数いる使用人達含め、その金額で1年養っていけますか?」
「どれくらい?」
「そうですね、大体一ヶ月で__」
「……私今これくらいあるよ」
収納魔法陣に投げ入れていたお金をぜーんぶ取り出した。換算してもらってここまで貯まっていたとはと驚いてしまったけれど。
王宮からのポーションのお金でしょ? あとモダルさんのお店のポーションでしょ? あとギルドの指定依頼の高額な報酬でしょ? それらでこんなに稼げたわけだ。
「こ、れなら何ヶ月かは……ですが、使ってしまってよろしいのですか?」
「うん、使い道なかったからこんなに貯まってたわけだし。全部使っちゃっていいよ」
「わ、かりました。この件に関してはこちらで予算案を立ててからご確認頂きますでしょうか」
「うん! あぁあと、王宮に納品しているポーション、それも増やせないか確認しよっか。後で王宮に相談しなきゃ」
「そうですね。了解いたしました」
採取してる時間がないし、人員もさけないからマルギルさんに相談しなきゃだね。あぁあとモダルさんのお店にも相談。あとは……
「まずは湿地帯?」
「今屋敷にいる兵は極めて少ない状況で…」
「私が行く!」
「男爵様には今、そちらに割く時間はございませんよ」
「……駄目?」
「男爵様……」
ちょっと困らせちゃったか。でも、湿地帯の様子も見たいんだよなぁ。あ、ルシルに狩りをさせてもいいかもしれない! ご飯調達も出来るし!
「はぁ……もし視野に置かれるのでしたら、それは男爵様の貴族マナーの上達次第となってしまいますよ」
「頑張る!!」
「では、遠慮なくいかせていただきますからね」
「……あ”」
やってしまった……? でも、皆の為に頑張ります!!
「そろそろ昼食の時間です、テーブルマナーも兼ねましょう」
「……はい。」
でももう二度とあんな事にならないようにしないと。あの子爵邸に呼ばれた時みたいに。あの時は公爵様に助けて貰ったけれど、いつも助けて貰える人がいるわけじゃないからね。
ぎゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる。
「……男爵様」
「ゴメンナサイ……。」
すっごく、恥ずかしかった。
ここにいたのがスティーブンだけだったのが幸いだったけど。
「ねぇ、スティーブン」
「如何いたしました、男爵様」
目の前に、並べられた沢山の料理達。いくらなんでも、全部食べるにはきつ過ぎる。
「私、こんなに食べられないよ」
「全て食さなくてもよいのです」
「勿体ないよ」
これが貴族では普通の事だと言われても、せっかく作ってくださったものだし、食材にも失礼だと思う。駄目? と聞いてみたら、一つ溜息をつかれて、仕方ないですねと了承してくれた。
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