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◇17 成人式
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遂に、第二皇子殿下の成人式がやってきた。
きっとこの日は、運命の日ともなるだろう。
もちろん俺も、そして――
「ダンテ!」
「……どうしてあなたがここに?」
「だって、城に行くんでしょ?」
「……」
準備していたブルフォード公爵家の馬車に乗ろうとしていた彼女を引っ張り出した騎士。すかさず俺が乗り込んでドアを閉めてしまった。騎士が取り押さえたためすぐに出発することが出来た。
大人しくしていたと思っていたのに、やはり今日は来たか。まぁ成人式パーティーには彼女の参加する事となるから行き先は一緒だ。
といっても、これから始まる成人式は、高位貴族や役員達によって見守られて行われる。だから、会場に入れるのは高位貴族の当主のみ。彼女の父は入れたとしても彼女は入れない。
まさか俺と一緒に入るつもりだったのか? 恐ろしいやつだな。
ちらり、と後ろ側の窓を見たら思った通りに侯爵家の馬車が着いてきている。はぁぁ、と大きな溜息をついてしまった。その執着心、呆れを通り越して感心するよ。皮肉の意味でな。
城に着くと、やはり降りた時に駆け寄ってきたストーカー女。無視して速足で城に急いだ。
「ここから先はご令嬢は入れませんよ」
「ダンテ!!」
着いてきていたストーカー女は、思った通り城の衛兵によって押さえられていた。まぁ、これが常識だからな。お前も貴族の令嬢なんだからこれくらい分かるだろう。
いや、もう頭がイカレているから分からないのか。もうどうしようもないな。一体侯爵は令嬢をどうやって育てたのやら。
「おやおや、ブルフォード公爵の熱烈なファンですかな」
「こんにちは、ラモスト公爵」
「えぇ、ブルフォード公爵も罪な方ですな」
「こんなめでたい日に耳の痛い話はやめませんか」
「それはそうですな、はっはっはっ」
本当だよ、やめてくれ。頭が痛くなりそうだ。
高位貴族であるルアニスト侯爵とはどうやってもここで会う事となってしまうから怒鳴り散らしてくるのではないかと心配はしていたが、案外大人しかった。
まぁずっと公爵方と話をしていたから俺に話しかけることが出来なかった、が正解かもしれないが。さすがにここに割り込んでくるほどの馬鹿ではなかったらしい。お前の娘なら入ってきたと思うがな。
まぁ何だかんだで、式が始まった。俺の中では成人式と言われると着物やスーツを着て、偉い人の話を聞いて、というのが出てくるがこの国、しかも皇族の方はこんなに特別な場でやるだなんてな。しかも肩に剣を乗せるんだろ? 俺だったら勘弁だ。
一応、皇太子殿下の時の成人式の記憶で大体どんな感じなのかは分かっていたから、拍手のタイミングなどは戸惑う事無く出来た。てかさすが皇子、かっこいいな。皇族の血ってやつか?
そんなこんなで式は何事もなく終わりを迎え、次に行われる成人パーティーの会場へ移動した。まぁ言わずもがな、そのタイミングでこの女に見つけられてしまったのだ。
「貴方は誰の婚約者ですか」
「やだ、ダンテがいいのっ!」
「正直迷惑です、やめて下さい」
そうきっぱり言ったのに、腕を掴もうとするこのどうしようもない女。その様子を見たこいつの父親、ルアニスト侯爵も一緒になって俺に話しかけてくる。考え直してくれないか、と。
この前とは全く違うことを言ってないか? これこそ手のひら返しと言うのだろうな。
仮にも今の婚約者の成人式だぞ。何てことしてるんだよ此奴ら。見ていて呆れてくるな。それでも大人か?
「あのね、本当はダンテに嫉妬してもらいたくて婚約破棄をしたの。貴方が振り向いてくれればって思って。でも、それは間違いだったって分かったわ。もっと自分の気持ちを包み隠さず貴方に伝えてれば、って反省してるの。本当にごめんなさい」
「セピアの言う通りだ、娘は仕事ばかりの君に寂しく思ってしまっただけなんだ。だから考え直してくれないか?」
おいおい、自分の事業を潰した張本人に何を言ってるんだよ。あぁ、金を貸してほしいって事か。それとも、あわよくば俺が立ち上げた事業を乗っ取る、なんてことも能無しな頭で考えそうな事だな。
確か両親が亡くなった時もブルフォード公爵家の実権をぶん取ろうとしていたのを覚えてる。
これが無意味だと分からない所が呆れてくるな。
速足で廊下を進み、二人を置いていってから会場に入った。
「ブルフォード公爵様のご入場です!」
続けてルアニスト侯爵と令嬢も入ってきたので、やはり会場はざわつきだした。
その理由は、俺と続けて入ってきたからではない。令嬢が父である侯爵と入ってきたからだ。彼女は、婚約者がいる。第二皇子殿下だ。なのに、殿下と一緒に会場入りしなかった。
まぁ、皆俺のせいだと思うだろうな。あぁ、同情の意味でな。
あぁあと、ついでに言うと作法では会場入りする順は身分の低いものからとなっている。皇族より一つ下の俺より後に入ってきたから、それも理由に入るだろうな。
「皇帝陛下、皇后陛下、皇太子モスト殿下、第二皇子レセス殿下、第一皇女殿下のご入場です!」
ほーら来た。皇族の人達だ。その中には第二皇子殿下もいらっしゃる。本来だったら俺の次、陛下達より先に婚約者である侯爵令嬢と入るはずであったのに、侯爵令嬢がこちらに来てしまったからこうなってしまったという事だ。
「皆の者、余の息子、レセスの成人のパーティーに足を運んでくれた事、感謝する。それでだ、乾杯の前に、実はレセスから報告がある」
さぁ、レセス。と皇帝陛下の隣に出てきた皇子殿下。その方の顔は……怒り狂った顔だった。静かな怒り、といった所か。それを見た貴族の者達は背筋を凍らせた事だろう。
「私の婚約者であるセピア・ルアニスト侯爵令嬢との婚約を破棄することを決めた」
その言葉で、周りの貴族達はざわつき、驚きを隠せないでいる。そして一番動揺しているのは、先程名を呼ばれた令嬢、そして彼女の父であるルアニスト侯爵だ。
「理由は多々ある。皆も知っているように、彼女は婚約者というものがいながら元婚約者に執着心を抱き、その行動はやりすぎと言っていいほどまで達している。そしてもう一つ」
後ろで控えていた使用人が持っていた一つの封筒を受け取り皆に見せた皇子。俺も見覚えのあるものだ。
「先日、皇室に送られてきたものだ。その中身は、彼女の家であるルアニスト侯爵家についてのものが書かれている。一ヶ月前、借金をしたそうじゃないか、侯爵」
「あ……」
「その借金、どう返そうとしていたのだ?」
「ッ……」
「え……お、お父様……?」
「〝ユメラタ草〟」
その名前で周りはざわつく。その植物は皆よく知っているものだ。その薬草を購入し扱うことが出来るのは特許を持っている者のみだ。
勿論、侯爵がそんなものを所持しているわけがない。
「そしてもう一つ、〝スチミア草〟。どちらも別々の国から密輸した証拠が書かれていた。一体この二つを使って何をしようとしていたのだ?」
ここにいる全員が、皇子が何を言いたいのか分かった事だろう。この二つの植物、それを合わせて作れるもの、それは……
「違法薬物は、この国で禁じられている事だ。よくもこの国で手を出したな」
そう、俺が潰したせいで借金をしてしまった侯爵が取った行動、それは違法薬物だったのだ。
違法薬物は、高い金で売れる。それに、一度使えばやめられなくなる為安定した収入が手に入る。以前貧民街で流行り国が取り締まったが、それを流行らせた人物が稼いだ金は莫大なものだった。
まさかそこに手を出すとは思いもしなかったがな。
「違いますッ!!」
「もう証拠もあるのだ、言い逃れ出来んぞ」
「まッまだそれはッ……」
「まだ? では作ろうとしていたという事だな。それに、これらの密輸行為も違反だという事も分かっている事だろう。
よって、ルアニスト侯爵領、資産は没収、爵位も侯爵から男爵に下げる事とする」
青ざめた様子の、侯爵。令嬢も、ようやくこれがどういう事なのかと理解できたようだ。
だが、第二皇子は意外とやるな。莫大な借金を持ち、爵位は男爵。貴族はプライドが高い。しかもルアニスト侯爵達は高位貴族であったし歴史のある家だった為余計だ。
爵位を持っているということは、何回かこの城に来なければならなくなる。ここに来ると周りの目があるから、さぞかし悔しがることだろうな。
それに、ここに来るとなると金を使わなければならなくなるため金が必要となる。だが、もうこんなに借金をしている為借金取りはきっと侯爵には貸してはくれないだろう。返してくれる見込みがないのだから当たり前だな。
借金取りに追いかけ回され、顔の知っているやつには侮辱される。何とも可哀想な人生になってしまったな。
おや? 誰のせいだって? 自分達のせいだろ? 俺は悪くない。それに俺がやらなかったとしてもいつかはこうなった。今回は表に出なかったが、侯爵家には色々とやらかしていた痕跡があったし。
「公爵家には未婚の女性がおらず、侯爵家の中で一番由緒のある家であったルアニスト侯爵家の令嬢という事で彼女を選んだ次第ですが、こうなってしまった事は私の責任でもあります。申し訳ありません、陛下」
「よい、これだけで事が済んだのだから」
「ダンテ!」
そう俺に向かって手を伸ばし叫んだ、ルアニスト侯爵令嬢。いや、男爵令嬢。
だが、絶望した顔で、手を降ろした。
何故って、恐らく今の俺の顔は、悪い顔となっているからだろう。
連れていけ、との第二皇子殿下の命で衛兵達はルアニスト男爵、令嬢を退場させた。きっとその行き先はこの城の牢屋だろう。
「今日はめでたい日だ、どうか皆パーティーを楽しんでくれ」
さぁ皆グラスを、と皇子が声をかけた。周りの使用人達が参加者にグラスを配り、そして掲げた。
「第二皇子の成人を祝して、乾杯」
皆が声を揃えて、皇子の成人を祝った。
「最高の仕返しだったようだな」
「成人おめでとうございます、殿下」
「あぁありがとう。それで、あの封筒だが、君の仕業かな?」
「さぁ、一体何の事でしょう」
「はは、貴殿を怒らせたらどうなるか、しかと実感したよ」
「それは良かったです」
とりあえず、あの女には仕返しが出来たし、不能男認定はされたけれどそんな事思っていない人達(特に女性陣)が沢山いるから、まぁ結果オーライって所か?
「だが公爵、あの顔はやめた方がいい。ルアニスト男爵令嬢に見せたあの顔だ」
「あぁ、つい出てしまいまして。気をつけます」
まぁでも、アイツのあんな絶望した真っ青な顔を見れたから俺はもう大満足だな。どれだけ苦労したと思ってんだよ、ストーカー女の被害者だぞ、俺。だったらあれくらい見せてもらわないとな、割に合わない。
「公爵、それもやめた方がいいぞ」
「え、」
あ、笑ってた? 100%スマイル出ちゃってました? 少し遠くにいるご令嬢達失神してません? だが仕方ないだろこれ。
「ある意味凶器だな、男の私でもときめきそうになったよ」
え、ジャンル変わってしまいません?
ほら、ご令嬢達がお待ちかねだぞ。そう言い今日の主役様はどこかへ行ってしまった。
まぁ、やる事はやったからゆっくり異世界ライフを満喫しようと思っていたんだけど……こりゃ無理だな。
イケメンも、楽じゃないんだな。改めてそう思ってしまった。
END.
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