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第二章

◇19 使用人達に優しい奥様……?

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 チェスで使用人達には絶対勝ってみせる!! という宣言を実行するために、使用人達に言って回った。チェスは出来るか? と。

 思った通り、少しやった事があるか、ピモみたいにルールは知っているけれどやった事はない者達が多かった。だが意外な事に料理長が経験者だったことが驚きだが。


「そんなに上手くはありませんよ」

「でも経験者なんだろ?」

「息子達がハマって付き合わされただけです」


 その息子さん達はどこでハマったのかを聞きたいところだが。


「俺に勝ったら小切手プレゼント!」

「おぉ~!」


 あの、拍手はいらないぞ? それにこの小切手用意したのヴィルだし。提案したの俺だけど。

 しかも、小切手に書かれている金額はまさかのここの使用人達の2ヶ月分のお給料分だそうだ。これは挑戦しないなんていう選択肢はないだろ。まぁみんな冬のボーナス貰えるみたいだけどな。冬明けにだけど。

 まぁ、買い物はしたいだろうな。こんな暗いところから解放されたら奮発ふんぱつして買い物もしたいだろ。それも思って企画したんだけどさ。

 みんなは仕事があるのでお休みの日にバラの間に挑戦しに来てもらうようにした。どうせずっと俺バラの間にいるしな。

 よし、これで数をこなせば俺のチェスの腕も上がるはずだ。そう思っていたのに……


「……申し訳ありません、奥様。チェックメイト」

「……」

「ヒッ!?」

「こら、ヴィル」


 まさか、経験のないピモに負けるなんて。俺何回かヴィルと対戦したよな。それなのに負けるなんて。というか、俺の後ろにいるこの人にガン飛ばさないでほしいんだが。挑戦者がビビるだろ。やめろ。

 はぁ、ピモには腕相撲でしか勝てないのか……なんか、悲しい。もっと頑張って腕上げよう。


「はいどうぞ」

「ありがとうございますっ!」


 もう嬉しそうに俺から小切手を受け取ったピモ。そんなに嬉しいか?


「何か使い道決まってるのか?」

「そりゃもちろん!」

「へぇ、何に使うんだ?」

「秘密です。楽しみにしていてくださいね」


 え? 楽しみに?


「一体何に使うつもりなんだよ。自分に使ったらどうだ?」

「ここのお給料は結構弾んでるので必要ございませんよ。居心地もいいですし、美味しいご飯も食べられますしね。奥様が持ってきてくださったレシピの料理も食べられるのですからもう幸せですよ」

「趣味とかないの?」

「趣味ですか……これと言ったものはないですね。奥様と一緒にいられる時間があるのですから十分です」

「あ、そう……」


 変なやつだな、ピモは。普通自分のために使うだろ。ストレス発散とか出来るだろうし。

 一体何に使うつもりなんだか……変な事に使うんじゃないよな。頼むぞ、全く。


「あ、料理長今日休み?」

「はい、挑戦しに来ました」


 次の挑戦者は料理長。調理服ではなく私服だから新鮮だな。けど……


「お前は俺とだ」

「え”っ」

「経験者だろ。なら俺とだ」


 と、言い出してしまい。当然のことながらけちょんけちょんにされてしまったのだ。ドンマイ、料理長。てか、これは酷くないか? 勝てないって分かってて挑戦するんだから。

 料理長、あとで特別手当な。ヴィルの理不尽に付き合ってくれたんだから当たり前だろ。


「チェックメイトです! 奥様!」

「……お前強いな、ボレス。じゃんけん弱いくせに」

「じゃんけんとチェスは違いますよ!」


 意外と元離宮使用人達は強かった。ギリギリではあったけれど。全然知らなかったのにさぁ、何で俺負けるわけ?


「……いや、みんながボーナスを貰えるようにあえて負けてあげてるわけで」

「言い訳か? リューク」

「いや、だって貰えなかったらかわいそうじゃないですか」

「勝負だろ。貰えなかったのは負けたのが悪い」


 いや、うん、まぁ、俺がこんなに弱かったのを今だいぶ痛感してるんだけどさ。でもみんながボーナスを貰えるならいいかなって。うん、そう思い始めたわけで。それにみんな勝って小切手貰うとめっちゃ嬉しそうにしてるんだもん。なんかさ、負けてあげないとって思うじゃん? 思うだろ?


「……腕相撲だったら勝てるのに」

「その細い腕でか」

「アメロ限定!!」

「ククッ、そうだな」


 というか、いつまで後ろでくっついてるつもりなんだ? 途中からうっとおしくなってきたんだが。

 ボロボロに負けまくってる俺を見て楽しんでるように見えるから腹立つんだよなぁ。ボス級に強いから余計だ。


「ヴィルの才能をここまで分けてほしいって思ったの今が初めてです」

「分けてやろうか」

「……いえ、やっぱり遠慮しておきます」


 なんか嫌な予感がしたんだが。と、思ったらいきなりキスをされてしまった。


「リュークはゲームの才能はないが、別の才能を持ってるぞ」

「……」


 ゲームの才能はないってきっぱり言われたんだが。腹立つわぁ。


「……――俺を翻弄ほんろうさせる才能」

「っ!?」


 いきなり耳元でささやかれてしまい驚いて肩を上げてしまった。この男いきなり何てことを言い出すんだ。翻弄ほんろう? この最強の辺境伯様を? いやおかしいだろ。てか顔近いって!!


「……あの、次の挑戦者来ますけど……」

「気にするな」


 待て待て待て、今どこ触ってるんだこの男は!! ここがどこだか分かっててやってるのか!! バラの間だぞ!! 寝室じゃないんだぞ!!

 だがしかし、この暴走しかけの男を俺は止められなかった。いや、無理だって。


 そして次の挑戦者たちは……


「こりゃ無理ですね」

「皆にはここに近づかないよう言っておきましょうか」


 息をひそめつつ耳をませてからすぐにバラの間の前から逃げたのだった。ここにいると旦那様に気が付かれたらあとで殺される。

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