28 / 47
第二章
◇12 今日の俺はサンタさん
しおりを挟む数日後、クリスマスの日がやってきた。
「はいヴィル、クリスマスプレゼントです」
「クリスマスプレゼントなんて貰ったのは、爵位を継いでからは初めてだ」
あぁなるほど。誕生日とクリスマスとかが近かったら誕生日兼クリスマスのプレゼントにされてしまうのはあるあるだからな。
残念ではあるけれど、まぁヴィルの事だから全く残念とは思ってないだろうな。誕生日が嫌いだと思ってる人だし。
「じゃあ俺忙しいんで」
「どこに行くんだ」
「今日の俺はサンタさんです」
そう、俺は今日はサンタさんだ。屋敷にいるみんなにプレゼントを配るのだ。何を配るかって? それは俺が作ったコースターだ。以前ピモにあげたんだけど、ピモが自慢したところみんなが欲しがったらしい。だから作って今日クリスマスプレゼントとして配る事にしたんだ。
まぁ、作る時に邪魔が入ったがコースターのような小さくて簡単なものならすぐに出来る。色々な種類の編み方に挑戦してみたから、見てもらって選んでもらう事にした。ちゃ~んと透明な袋にリボンでラッピングしてある。
「何です? 手伝ってくれるんですか?」
「……」
なんて聞くと……みんなに配るコースターの入ったカゴを持ったのだ。まさかのまさかで手伝ってくれるのか。
「じゃあまずはピモ。いつもありがとな」
「ありがとうございます!」
近くにいたピモには、みんなのよりも大きめのもの。そう、小さな肩掛けバッグだ。と言っても、まぁスマホが入るくらいの大きさ。俺が次は何を作ろうかと編み物の本を眺めていたらピモの視線を感じて。そのページは、このバッグだった。
今ピモはだいぶ鉛筆とメモを使っているらしく、ポケットに入れるくらいの小さなメモだとすぐに使い切ってしまうらしい。まぁ、俺の世話係だからしょうがないな。だからここにメモを入れるらしい。こんなカッコいい使用人の制服に編んだバッグだなんて合うのか? とも思ったが本人たってのお願い事だから仕方ない。
ここに鉛筆は入れられないのでは? と思ったが、内側には生地があるから鉛筆が抜け落ちる事はない。まぁ、簡単だったしピモ本人にも教えてもらったから簡単に出来たし。紐は革でちゃんと金属で繋げているから大丈夫。
とはいえ、みんなと違うものを作ったからヴィルは不満気だったが。別にいいだろ、いつもお世話係として尽くしてくれてるんだからその感謝の気持ちなんだよ。……まぁ、色々と無理や可哀そうな事をさせてしまった事もあるからその謝罪も込めて。
「……リューク」
「はいはい、あとで作ってあげますから」
全く……まぁヴィルはこれが通常運転か。それより早くみんなに配らなきゃ。
はーい行きますよー、とヴィルの手を握り引っ張って部屋を出た。
さて、どこから行こうか。まずは……と歩き出した。
「あら、奥様に旦那様。いかがしました?」
「やっほ、休憩中?」
「はい。いかがしました?」
「今日の俺はサンタさんです」
「あぁ! なるほど! では皆呼んでまいりますね」
いや、仕事中の奴らは休憩に入ってからでいいんだが。邪魔する気はないのに。でもなんかみんな嬉しそうだな。
そして、縦に一列で並び始めた。なんか面白いんだが。いくつか種類があるから、どれがいい? と先頭の奴に聞くと……
「よろしければ奥様に選んでほしいです!」
「……いいのか」
「はいっ!」
らしい。自分で好きなの選べばいいじゃん。とは思っても、最後の方になってくると減っちゃうしな。だったら俺が選んだ方がいいのか。
じゃあお前はこれ、お前はこっち、と一枚一枚配った。なんか、たまに俺の隣の方に視線を向けた奴が恐ろしいものを見たような顔をしていた事には何も言わずバシッと肩を叩いたが。
おいヴィル、お前は今日はトナカイなんだかんな。プレゼント持ってるんだからそうだろ。何威嚇してるんだ。赤い鼻でもつけるか? まぁその時は俺も白いひげ付けてやるけど。
「あ、いたいた!」
「あ、奥様!」
「いかがしました?」
大広間に置かれた大きなクリスマスツリー。その前で眺めていた3人の使用人達。テワール、タリシス、ボレス。元離宮使用人達だ。このツリーの前で昔話でもしてたのか?
ほらお前たちの分、と三枚プレゼントを渡した。
「ありがとうございます、奥様」
「これ、奥様が編んだものですよね? とっても素敵です!」
「毎日使いますね!」
まぁ、毎年クリスマスには俺が貰ってばかりだったからな。
「これで19回分のクリスマスプレゼントって事でいいか?」
「もちろんですよ!」
「奥様からクリスマスプレゼントを頂いたという事だけでもとても嬉しいのに、手作りだなんてとても光栄ですから」
「とっても嬉しいです」
喜んでくれてるなら、それでいっか。
「とても素敵なクリスマスになりましたね、奥様」
「そうだな」
サボってたら怒られちゃうのでこれで失礼しますね、とウキウキで仕事に向かっていった。これでやる気出してくれるならそれでいっか。
「……今まで、クリスマスの日にはちっちゃいクリスマスツリーとちょっと豪華な料理と、プレゼントをもらってたんですよ。それがここに来てこんなに大きなツリーを飾れて、プレゼントを俺の方からあげられるなんて、思いもしませんでした」
「そうか」
「あ、ちなみに言うと、その小さなクリスマスツリーは本宮で余ったやつをこっそり持ってきたやつなんですよ。毎年こっそりボレス達が持ってきて、こっそり返してたんですけど……一回もバレた事ないんですよ。すごいでしょ」
「毎年か。離宮の使用人達は実に優秀な者達だな。だが、余ったやつとはいえ、無くなった事に気が付かない本宮の使用人達もどうかと思うがな」
「あははっ、それもそうですね!」
今となっては本当に懐かしい思い出ばかり。今離宮使用人達は退職して転職したり実家に戻ったりしていて残ってないらしい。またみんなに会える事が出来るか分からないけれど……今のクリスマスの日にこの思い出をちょっとでも思い出してくれればいいかな。
「リューク」
「ヴィル?」
「これを配り終わったら、リュークの話を聞きたい」
「クリスマスの、ですか?」
「あぁ」
「じゃあ、18回分全部語ってあげます」
「ククッ、時間はあるんだ。全部聞かせてくれ」
これから、このみんなでクリスマスを何度も過ごせるんだ。素敵な思い出がもっともっと増えてくる。来年はお腹の赤ちゃんが生まれているから、もっと違ったクリスマスを過ごせる。もう今から楽しみだ。
2,420
お気に入りに追加
7,766
あなたにおすすめの小説
【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成)
エロなし。騎士×妖精
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
いいねありがとうございます!励みになります。
俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします
椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう!
こうして俺は逃亡することに決めた。
ひとりぼっち獣人が最強貴族に拾われる話
かし子
BL
貴族が絶対的な力を持つ世界で、平民以下の「獣人」として生きていた子。友達は路地裏で拾った虎のぬいぐるみだけ。人に見つかればすぐに殺されてしまうから日々隠れながら生きる獣人はある夜、貴族に拾われる。
「やっと見つけた。」
サクッと読める王道物語です。
(今のところBL未満)
よければぜひ!
【12/9まで毎日更新】→12/10まで延長
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
雪狐 氷の王子は番の黒豹騎士に溺愛される
Noah
BL
【祝・書籍化!!!】令和3年5月11日(木)
読者の皆様のおかげです。ありがとうございます!!
黒猫を庇って派手に死んだら、白いふわもこに転生していた。
死を望むほど過酷な奴隷からスタートの異世界生活。
闇オークションで競り落とされてから獣人の国の王族の養子に。
そこから都合良く幸せになれるはずも無く、様々な問題がショタ(のちに美青年)に降り注ぐ。
BLよりもファンタジー色の方が濃くなってしまいましたが、最後に何とかBLできました(?)…
連載は令和2年12月13日(日)に完結致しました。
拙い部分の目立つ作品ですが、楽しんで頂けたなら幸いです。
Noah
【完結】虐げられオメガ聖女なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました(異世界恋愛オメガバース)
美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。