68 / 86
第二章
◇9 いや、睨む事ないだろ
しおりを挟む外はゴーゴー猛吹雪。屋敷の中は大騒ぎ。
そして俺の手には毛糸である。
領民達が宴会でこちらに来て帰っていった日から数日後、本格的な雪に到来したのだ。冬が来るまで冬眠の準備は済ませていたけれど、やっぱり色々と大変らしくて。
そりゃそうだ、外には全く出られないのだから。何ヶ月間外に出ず生活出来るよう整えたんだし、ここには何人もの使用人達がいる。大変に決まってるだろ。
そして俺の手には毛糸があって今編み物をしてるんだが……
「リューク」
「嫌です」
攻防戦が続いている。俺はこのマフラーを完成させたいのに、ヴィルのかまってちゃんが発動してしまったのだ。本当に、ヴィルのかまってちゃんは困ったものだ。
今だって、バラの間のソファーに座る俺の隣に座って、肩を抱きしめてくる。じーっと見てくるが、俺はガン無視でちくちく編み物に集中してる。
いつもだったら、ここで押し倒すんだろうが、今俺は妊婦。押し倒せるわけがない。残念だったな。
どうしてこのマフラーを完成させたいのか。それは……ヴィルの誕生日が迫っているからだ。誕生日プレゼントってわけ。ヴィルにプレゼントなんてしたことなかったし、何がいいかなと考えた時に無難にこれだろとマフラーを選んだ。
買ってしまえば簡単なんだが、そのお金はヴィルからもらったお小遣い。毛糸だってそうなんだけど……せめて自分で作ったものにしたいと思ってマフラーにした。何色がいいかな、と思った時黒だろと即決したけどな。
さて、ヴィルはこれが自分への誕生日プレゼントだと気付いているのだろうか。だから邪魔してくるのか? そんなもの作らなくてもリュークが構ってくれた方が嬉しいって? そんなんじゃ形として残らないだろ。
「ヴィル、仕事は?」
「ない」
「わけないでしょ。馬鹿なこと言ってないでさっさと行ってください」
「何だ、意地悪か」
「な訳ないでしょ。お腹の赤ちゃんにまで呆れられたらどうするんです?」
「……」
あ、黙った。これは効果覿面か?
「カッコいいパパ、見せてあげてくださいよ」
「う"っ……」
あーあー悩んでる悩んでる。俺と赤ちゃんどっちを選ぶんだ?
結局、ヴィルは不満げな顔をして執務室に向かって行った。
「……これでもパパ、カッコいいんだぞ? 大きな剣振り回す最強なんだ。強いんだぞ~」
と、お腹の赤ちゃんにパパの株をあげておいた。なんかちょっと可哀想だし。武勇伝でも聞かせておくか? 白ヒョウに乗って雪山を駆け回ったとか。
なんて思いつつ、ようやくマフラーが完成した。ギリギリではあったけど。
うん、我ながらに上出来かな。……たぶん。手先器用になってよかった。でも、辺境伯だからちゃんとしたものを身につけないといけない、とは思うが……ま、ちゃんとした時にはちゃんとしたものを使ってもらうか。
ヴィルは、祝われるのが大の嫌いらしい。去年だって皆に「おめでとうございます」と言われただけで睨みつけられたらしい。でも全員言ったみたいだけど。怖いもの知らずか。
今年はまぁ大々的にやらないけど、せめて夕食だけは豪華にさせてくれ。
「ヴィル~、お誕生日おめでとうございます」
「……」
今日は12月17日。ヴィルの誕生日だ。
そして相変わらずの朝の狸寝入り。お腹大きいからぎゅ~っと強くは抱きしめてこないが。
「そんなに嫌ですか、自分の誕生日」
「……」
「でも考えてみてくださいよ。もしヴィルが生まれてこなかったら、俺今頃変な奴と結婚させられてたんですよ? そう考えたらすごくめでたい日じゃないですか」
「……」
「生まれてきてくれてありがとうございます、ヴィル」
まただんまりか、と思ったらクスクスと笑い声が聞こえてきて。そして顔を上げて俺の顔の目の前に持ってきた。
「そうだな、俺が生まれなきゃクソ野郎と結婚していたかもしれない」
「そうですよ。大変なことになってたかもしれませんよ?」
「なら、リュークと会うために生まれてきたも同然か」
「……そこまで言いますか」
「違うのか?」
「……どうでしょうね。とにかく、お誕生日おめでとうございます」
「あぁ、ありがとう」
これでヴィルは……27か。俺よりだいぶ年上だしな。でも大人の子供だけどな。今だってベッドから一歩も出してもらえてないし。狸寝入りだってずっとだし。
まぁ、強く言えない俺もどうかと思うが。
そして、屋敷内の全員に「お誕生日おめでとうございます」との祝福の言葉をもらっていた。「あぁ」と答えたヴィルにみんなは……ニコニコ微笑ましい顔をしていて。まぁ、去年まで睨まれてたんだからそうなるわな。
でも自分の事のように嬉しいのはどうしてだろうか。ま、いっか。
「で、今日一日は俺に構ってくれるんだろう?」
「はいはい」
だいぶ拗ねてませんか、ちょっと。あーはいはい、構ってあげますから。お誕生日の人だしな。
2,721
お気に入りに追加
7,885
あなたにおすすめの小説
(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成)
エロなし。騎士×妖精
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
いいねありがとうございます!励みになります。
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る
黒木 鳴
BL
妖精のように愛らしく、深窓の姫君のように美しいセレナードのあだ名は「眠り姫」。学園祭で主役を演じたことが由来だが……皮肉にもそのあだ名はぴったりだった。公爵家の出と学年一位の学力、そしてなによりその美貌に周囲はいいように勘違いしているが、セレナードの中身はアホの子……もとい睡眠欲求高めの不思議ちゃん系(自由人なお子さま)。惰眠とおかしを貪りたいセレナードと、そんなセレナードが可愛くて仕方がない義兄のギルバート、なんやかんやで振り回される従兄のエリオットたちのお話し。
貧乏大学生がエリート商社マンに叶わぬ恋をしていたら、玉砕どころか溺愛された話
タタミ
BL
貧乏苦学生の巡は、同じシェアハウスに住むエリート商社マンの千明に片想いをしている。
叶わぬ恋だと思っていたが、千明にデートに誘われたことで、関係性が一変して……?
エリート商社マンに溺愛される初心な大学生の物語。
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
その男、有能につき……
大和撫子
BL
俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか?
「君、どうかしたのかい?」
その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。
黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。
彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。
だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。
大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?
更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
【完結】うたかたの夢
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
BL
ホストとして生計を立てるサリエルは、女を手玉に取る高嶺の花。どれだけ金を積まれても、美女として名高い女性相手であろうと落ちないことで有名だった。冷たく残酷な男は、ある夜1人の青年と再会を果たす。運命の歯車が軋んだ音で回り始めた。
ホスト×拾われた青年、R-15表現あり、BL、残酷描写・流血あり
※印は性的表現あり
【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう
全33話、2019/11/27完
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる