上 下
45 / 86

◇45 辺境伯side

しおりを挟む

 先代のメーテォス辺境伯と先代夫人は実におかしな人達だった。

 先代夫人は面倒臭がりでいろいろと冷めていた性格だった。だがバラの間のお手入れが好きで、いつもそこにいたのを覚えている。

 対する先代辺境伯は誰もが認める強靭きょうじんで完璧な剣士とうたわれた。だが、先代夫人の前だとたちまち弱くなる。いつも先代夫人に謝っていたが、対する先代夫人は呆れ顔ばかり浮かべていた。

 よくやるな、といつもそれを見て思っていた。

 一度、先代辺境伯にこう言ったことがある。


「よく母上をこんな所に連れてこれましたね」


 と。だが、その時先代辺境伯は笑ってこう言った。


「母さんの方から連れて行けと言ってきたんだよ」


 その時は幼かったから理解出来なかった。俺が爵位を継いだ際、広大なメーテォス領の遠く何もない土地に二人で移り住んで隠居いんきょ生活をすると言い出した時には、大丈夫なのかと色々と心配したが。

 まぁでも、今なら分かる気がする。


「……あの、ヴィル、仕事は?」

「ない」

「いやあるでしょ何言ってるんですか。こんなところで油売ってないでさっさと行ってくださいよ」

「何だ、意地悪いじわるか」

「はぁ? なわけないでしょ。ほら、執事達待ってるでしょうから早く行ってあげてください。いつになっても終わりませんよ」

「なら終わったらご褒美ほうびをくれ」

「は?」

「それなら行く」

「……はぁ、ならご褒美ほうびは俺が決めますからね」

「あぁ、期待してるぞ」

「しなくていーですから!」


 リュークの耳にあるピアスが揺れた。

 俺がおくったピアスも、おそろいの指輪も、リュークは肌身離さず毎日つけてくれている。というより、毎朝俺が付けてやってる、が正解か。


「あ、いた、バカ兄貴」

「まだいたのか」


 リュークはずっと離宮で過ごし他人との交流がだいぶ少なかった。今も、この地で他の貴族とはかかわりを持っていない。こいつは例外だが。

 だが、これを嬉しく思うのは、いわゆる独占欲というものからくるのだろうか。


「……俺は、父上と母上、どちらの遺伝子を多く受け継いでいるのだろうな」

「何いきなり、気持ち悪っ」

「無駄口叩いてないでさっさと帰れ。お前が視界に入ると虫唾むしずが走る」

「こっちのセリフだっつうの。言われなくても帰るわ。リューク君に挨拶あいさつしてからだけど」

「近づくな」

「はぁ?」


 少なくとも、今父上と母上は遠くの地で何事もなく生活していることだろう。母上の小言は増えただろうがな。俺達に心配はいらないようだ。

 そもそも、そんな事をしている余裕は俺にはない。

 リュークがまた白ヒョウを見たいと言い出した。そんなもの危険すぎて許可できるわけがない。

 だがああ言った手前、今度な、と先延ばしにしているが……それがいつまで使えるか分からない。それまでに白ヒョウを手なずけて少しでも安全性を上げないといけない。

 あの好奇心は一体どこから出てくるのか不思議で仕方ない。まぁでも、リュークらしくもあるがな。


「……しかたない、やるか」


 とりあえず、この仕事の山を全部片づけてご褒美ほうびを貰いに行くとしよう。

 ……いや、明後日に回せるもの以外すべて処理しよう。それがいいな。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

公爵令嬢ルナベルはもう一度人生をやり直す

金峯蓮華
恋愛
卒業パーティーで婚約破棄され、国外追放された公爵令嬢ルナベルは、国外に向かう途中に破落戸達に汚されそうになり、自害した。 今度生まれ変わったら、普通に恋をし、普通に結婚して幸せになりたい。 死の間際にそう臨んだが、気がついたら7歳の自分だった。 しかも、すでに王太子とは婚約済。 どうにかして王太子から逃げたい。王太子から逃げるために奮闘努力するルナベルの前に現れたのは……。 ルナベルはのぞみどおり普通に恋をし、普通に結婚して幸せになることができるのか? 作者の脳内妄想の世界が舞台のお話です。

推しの悪役令息に転生しましたが、このかわいい妖精は絶対に死なせません!!

もものみ
BL
【異世界の総受けもの創作BL小説です】 地雷の方はご注意ください。 以下、ネタバレを含む内容紹介です。 鈴木 楓(すずき かえで)、25歳。植物とかわいいものが大好きな花屋の店主。最近妹に薦められたBLゲーム『Baby's breath』の絵の綺麗さに、腐男子でもないのにドはまりしてしまった。中でもあるキャラを推しはじめてから、毎日がより楽しく、幸せに過ごしていた。そんなただの一般人だった楓は、ある日、店で火災に巻き込まれて命を落としてしまい――――― ぱちりと目を開けると見知らぬ天井が広がっていた。驚きながらも辺りを確認するとそばに鏡が。それを覗きこんでみるとそこには―――――どこか見覚えのある、というか見覚えしかない、銀髪に透き通った青い瞳の、妖精のように可憐な、超美少年がいた。 「えええええ?!?!」 死んだはずが、楓は前世で大好きだったBLゲーム『Baby's breath』の最推し、セオドア・フォーサイスに転生していたのだ。 が、たとえセオドアがどんなに妖精みたいに可愛くても、彼には逃れられない運命がある。―――断罪されて死刑、不慮の事故、不慮の事故、断罪されて死刑、不慮の事故、不慮の事故、不慮の事故…etc. そう、セオドアは最推しではあるが、必ずデッドエンドにたどり着く、ご都合悪役キャラなのだ!このままではいけない。というかこんなに可愛い妖精を、若くして死なせる???ぜっったいにだめだ!!!そう決意した楓は最推しの悪役令息をどうにかハッピーエンドに導こうとする、のだが…セオドアに必ず訪れる死には何か秘密があるようで―――――?情報を得るためにいろいろな人に近づくも、原作ではセオドアを毛嫌いしていた攻略対象たちになぜか気に入られて取り合いが始まったり、原作にはいない謎のイケメンに口説かれたり、さらには原作とはちょっと雰囲気の違うヒロインにまで好かれたり……ちょっと待って、これどうなってるの!? デッドエンド不可避の推しに転生してしまった推しを愛するオタクは、推しをハッピーエンドに導けるのか?また、可愛い可愛い思っているわりにこの世界では好かれないと思って無自覚に可愛さを撒き散らすセオドアに陥落していった男達の恋の行く先とは? ーーーーーーーーーー 悪役令息ものです。死亡エンドしかない最推し悪役令息に転生してしまった主人公が、推しを救おうと奮闘するお話。話の軸はセオドアの死の真相についてを探っていく感じですが、ラブコメっぽく仕上げられたらいいなあと思います。 ちなみに、名前にも植物や花言葉などいろんな要素が絡まっています! 楓『調和、美しい変化、大切な思い出』 セオドア・フォーサイス (神の贈り物)(妖精の草地)

不良高校に転校したら溺愛されて思ってたのと違う

らる
BL
幸せな家庭ですくすくと育ち普通の高校に通い楽しく毎日を過ごしている七瀬透。 唯一普通じゃない所は人たらしなふわふわ天然男子である。 そんな透は本で見た不良に憧れ、勢いで日本一と言われる不良学園に転校。 いったいどうなる!? [強くて怖い生徒会長]×[天然ふわふわボーイ]固定です。 ※更新頻度遅め。一日一話を目標にしてます。 ※誤字脱字は見つけ次第時間のある時修正します。それまではご了承ください。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

黒の魅了師は最強悪魔を使役する

暁 晴海
BL
「お前が俺を召喚した奴か?」 アスタール公爵家の長男として生まれた俺には、前世の記憶がある。どうやら俺は16歳で死んだらしい。…童貞で。 だから今世こそ、可愛い彼女を作って幸せになるぞ!と息巻くも、俺が転生した世界は恋愛事情がフリーダムだった…。 つまり、異性婚はもとより同性婚も当然の世界だったのだ!ちなみに俺の両親は夫夫。そして、生物学的に父親である母親(?)の容姿をそっくり受け継いでしまった俺は、男女問わず…じゃなく、男に異常にモテてしまう体質をも受け継いでしまった。 当然可愛い彼女は夢のまた夢で、現実は俺に目茶苦茶厳しかった。 そして俺が16歳になった時。身内に降りかかった災難のとばっちりを受けた俺は、あるとんでもないモノを召喚してしまって…。

王家の影一族に転生した僕にはどうやら才能があるらしい。

薄明 喰
BL
アーバスノイヤー公爵家の次男として生誕した僕、ルナイス・アーバスノイヤーは日本という異世界で生きていた記憶を持って生まれてきた。 アーバスノイヤー公爵家は表向きは代々王家に仕える近衛騎士として名を挙げている一族であるが、実は陰で王家に牙を向ける者達の処分や面倒ごとを片付ける暗躍一族なのだ。 そんな公爵家に生まれた僕も将来は家業を熟さないといけないのだけど…前世でなんの才もなくぼんやりと生きてきた僕には無理ですよ!! え? 僕には暗躍一族としての才能に恵まれている!? ※すべてフィクションであり実在する物、人、言語とは異なることをご了承ください。  色んな国の言葉をMIXさせています。

オオカミ獣人にスローライフの邪魔される ツンデレはやめてくれ!

さえ
BL
一章完結→二章に続きます スローライフがしたい!とにかくスローライフを送りたいんだ! 前世での社畜っぷりのせいかスローライフを神に望むほど憧れた主人公アキトはゆっくりと誰もいないところに家を建てて、運命の伴侶と過ごすことを目標に異世界転生をした。でも、その目標を達成することがスローライフを困難にさせるってこと!?という真理に、、、 運命の伴侶、アセナはツンデレで血気盛んな獣人なのでスローライフには向かない。わかっているけどアセナがいいんだ! ストーリー 一章は冒険 二章はスローライフ邪魔され R-18には※をつけます。 一章完結 二章スローライフ(願望)編に続きます。 面白い!って思っていただけたら応援よろしくお願いします。

僕はただの平民なのに、やたら敵視されています

カシナシ
BL
僕はド田舎出身の定食屋の息子。貴族の学園に特待生枠で通っている。ちょっと光属性の魔法が使えるだけの平凡で善良な平民だ。 平民の肩身は狭いけれど、だんだん周りにも馴染んできた所。 真面目に勉強をしているだけなのに、何故か公爵令嬢に目をつけられてしまったようでーー?

処理中です...