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◇39 まさか雪だるまが気に入られていたとは知らなかった

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 ヴィルからのお許しが出て、今日。俺は朝からルンルンでテンションが上がってた。

 だってようやく都市に行けるんだもん嬉しいに決まってる。


「ヴィルも一緒なんですね」

「他の選択肢はあるか?」


 らしい。さも当然のように出かける準備をしていた。俺とピモで行くのだとばかり思ってたんだけどさ、違うんだな。だって都市行くだけだし。ちょっと見回るくらいならヴィルいなくてもよかったのに。


「リューク」

「え? 何ですこれ」


 ヴィルが何かを持って近づいてきて広げたら、あ、上着だ。コートっぽいやつ。ひざまで長いし、もこもこしてるからあったかい。しかもフード付いてる。青色なのは、俺が青好きだから?

 ほら、手を通せと着せてくれた。ヴィルのは? と思ったけれどヴィル頑丈だから寒さにも強そう。


「手袋」

「あ、はい」

「マフラー」

「はい」


 と、完全装備で出かけることになったのだ。うん、天気良さそうだから暖かそうだけど……寒いかな?


「行くぞ」

「あ、はい。行ってきまーす!」


 そう使用人達に手を振ると、笑顔で振り返してくれた。行ってきます、だなんて言い慣れてないから新鮮だな。

 手袋をした手で、ヴィルの手を握り玄関の外に。うん、今日は天気がいい。上を見上げると晴天が見えた。これなら今日は途中で降られなさそうだ。

 もうすでに用意してくれていたらしい。真っ黒くてかっこいい馬車があって、先に乗せてくれた。うわぁ、椅子がふかふかだ。数ヶ月前に初めて乗った王宮の馬車、アレあんまり座り心地よくなかったかも。

 中にはブランケットもあるし、クッションもいくつもある。ヴィルが用意してくれたのかな。あったかいし楽ちんだ。

 でも、隣なんだ。ヴィルが座るの。俺の前じゃなくて。まぁ別にいいけど。

 出発しますよ、と声がかけられて。そして馬車が動き出した。


「これから商会に行く」

「えっ、ヴィル、お仕事ですか?」

「いや、今日は仕事はない。もう伝えてあるんだ。訪問すると」

「……マジですか」


 え、俺が行くって言っちゃったの? ただ散策するってだけだと思ってたんだけど。まさかの商会訪問ですか。まぁでも見せてもらえるなら嬉しいけどさ。


「いいか、変な事を言われても真に受けずそのまま流せ」

「え?」


 変な事、とは。商会の人達に、って事だよな。いったいどんな事なんだ。よく分らん。

 なんて思いつつ外を見た。首都やファンタジー漫画とは違った造りの家ばかりだ。ここに初めて来た時は首都を見る余裕はあったけどこっちに来たとたん寒すぎて外を見る余裕なんてこれっぽっちもなかったからな。今はあったかいから余裕だけどさ。

 雪がたくさん積もってていそいそと雪かきをしてる人もいる。昨日雪降ってたからな。でも、その前に吹雪が続いたのに、そんなに多い雪はない。あ、なんか機械みたいなのある。めっちゃ飛ばしてるじゃん。外に置いてある荷車の荷台に。

 あの荷車、馬が運ぶらしいけど……デカいな、馬。この馬車の馬はそんなにデカくないけど、馬力のある感じ? 力持ちだなぁ。頑張れ、馬達。

 確か、屋敷にもあんな機械あったよな。あれより大きいやつ。荷車はなかったけど、屋敷の外にデカい雪山出来てた。すげぇな、っていつも思ってたけど。


「一軒一軒大きめですね」

「倉庫付きだからな」

「あ、なるほど」


 ああいう機会とか道具とか、あと食料とか置くところなのか。なるほど。

 ……でも皆さん、こっち向いて手を振ってくるんだが。振り返しちゃったけど、いいのか? 夫人としての振る舞い方とかどうなんだろ。分からん。

 でもヴィルは何も言わないから振っていいって事だよな。


「そろそろだ」


 そう言われ外を見てきょろきょろしたけど……どこだ? よく分らん。けど、ヴィルがヴィル側の窓を指さした。あ、そっちか。なら見えないな。

 馬車が止まり、開いたドアからヴィルが先に降りた。続けて俺も、と思ったら、両手で脇を掴まれ持ち上げられてしまった。簡単に。俺子供じゃないんだが。でも、すべるぞ、そう言われてゆっくり降ろされたが。滑るか? と地面を見たけど、これ滑らなそうだぞ?

 目の前には……凄く大きな建物。2階建てではあるけれど、横にデカい。しかも入り口のドアもデカい。一発でここが商会の本店だって分かる。


「お待ちしておりました」


 建物の前で出待ちしていたのは……筋肉ムキムキな男性三人。真ん中の人が偉い人かな。黒いひげをちょっと生やした、60代くらいの男性だ。


「初めまして。メーテォス商会の会長を務めさせていただいている者です」

「あ、初めまして」


 やっぱり偉い人だった。……凄く俺に向かってニコニコしてる。隣のヴィル、ちらりとしか見なかったけど、男性に向かってすっごく睨んでなかったか?

 けど、あれ? 外の目立たないところに雪だるまがいくつも並んでないか? 小さくて可愛いのがいくつもある。


「……すみません、子供達が……」

「あ、いえいえ」

「子供達が、夫人がいらっしゃると小耳にはさんで作ったみたいなんです。しかりつけておきますので、大目に見てやってくださいませんか」


 うん、なんか呆れてる。いたずらっ子たちなのか?


「しかりつけるなんてしなくて大丈夫です。むしろ嬉しいですから。私が作った雪だるま、気に入ってもらえたみたいでよかったです」

「すみません、ありがとうございます」


 まさか雪だるまで歓迎かんげいされるとは思わなかったな……そんなに気に入ったのか。まぁ一応遊びだしな。雪だるま作りは。

 それよりもさ、俺より上手じゃないか? さすがメーテォス領の子供達だな、はは……

 寒いですから中にどうぞ。そう言われ建物の中に。玄関の扉デカいなと思ったけど、中も広かった。それに綺麗だし。端にはデカい木箱が何段にも積みあがってるし。中身は何だろう。

 従業員は何人も目に入ったけれど、うん、筋肉ムキムキな人ばかり。アメロは見当たらないな。まぁ、力仕事もあるだろうしな。

 会長は、広い階段を上がって二階の応接室のようなところに通してくれた。いろいろな資料を持ってきてくれて、説明をしてくれた。すでにどんなものを説明してほしいのかヴィルが言っておいたらしい。これくらいなら俺でも理解できるし、俺の知らないところばかりだった。


「ここ本店のすぐそこに魔法陣装置があります。そこから荷を運んでいるのです」

「ウチの商会は他の商会とは違ったものを扱っているから人気はある。だから、直接ここまで交渉に来る奴もいる」

「そこまで、ですか」

「ここの天気は首都の者達には分かりませんから、吹雪の中来てすぐ帰っていく者もいます。遣いを向かわせても魔法陣装置から降りれずそのまま帰っていく者もいます」

「た、確かに凄い吹雪じゃ例え近くにあっても行けませんよね」


 雪だるまになる、マジで。

 何度も首都に本店を移せと言われたようなんだけど、こっちじゃなきゃダメだと何度も言ってるらしい。一応支店は向こうにあるけれど、注文のみとなっているそうだ。それでも人気っていうのは本当に凄い話だ。

 それからも驚くような話をたくさんしてくれた。本当に凄いところなんだなと何度も思ってしまった。


「いやぁ、夫人がこちらに足を運んでくださると聞いて本当に驚きました。こんな田舎の地に興味を示してくださっただなんて嬉しい限りです」

「こんなに知らないことがたくさんあるのですから、知りたいと思うのは当たり前の事ではありませんか」

「そう思ってくださるのは夫人ぐらいですよ」


 そうなのか? だって、知らないことを教えてもらうってのは面白い事だろ? そう思うのは俺だけか?

 なんて思いつつ、今度はこっちにある温室に行かせてもらう事になった。ん、だけど……

 商会の玄関を開けた瞬間……だいぶ多い人だかりに囲まれた。雪崩みたいな。けど、押し寄せる前にヴィルが閉めた。

 おいおいちょっと待て。一体どういうことだ。

 ドンドンと玄関の扉を叩く音、ずるいぞ! とか、辺境伯様!! とかという声。何だこれ。でもさ、その中に……


「ちょっと坊ちゃん!!」


 という声がしたんだが。坊ちゃん? 坊ちゃんって誰の事だ? 誰かそういう人が来てるのか?

 ヴィル、と声をかけた。


「開けてあげましょうよ」

「……」


 いや、このままだったら外に出られないのだが。けどすんげぇ不満気。というか、呆れてない? 面倒くさがってる?

 でもそれでも開けてくれた。うん、雪崩だ。


「うわっ!?」

「奥様ですよね!」

「わ~お会いしたかったです!」

「あらまぁなんて素敵なお姿! 辺境伯様がぞっこんになるのもうなずけます!」


 まるで強風のように俺に話し出す大勢の人達。服からして領民達だろうな。もしかして、俺が来ることを聞きつけて集まっちゃった感じ? けど、なんか大歓迎すぎやしませんか。

 てか、ぞっこん?


「奥様! これいかがですか! 今朝採れたんですよ! 栄養満点!」

「あ、ありがとうございます……」

「これも皆で作ったんですよ~! 雪だるま! いかがです?」

「す、すごいですね……」


 なんか、プレゼントを貰ったんだが。中くらいのかごにいっぱいの、果物とか、雪だるまの置き物とか。


「おくさまおくさま! これどーぞ!」

「え、あ、うん、ありがと」

「きゃ~! ママ! おくさまもらってくれた!」

「よかったねぇ」

「うんっ!」


 やっべぇ可愛いんだけど。何あの子。しかもこれ編み物じゃん。小さいコースター。え、あの子作ったの? 見た目的に、幼稚園生? やべぇな、恐るべしメーテォス領の領民達。

 けど、果物や野菜、薬草まで貰っちゃって俺が抱えきれないくらいになってしまった。けどまだわんさか持ってきてくれていたみたいで。隣のヴィルが俺の手にあった貰い物を持ってくれたから全部受け取れたけれども。

 商会長が木箱を持ってきてくれて、そこに入れることになった。これ、馬車に乗るかな。


「こんなちんけなところに来るなんて大変だったでしょ~?」

「お屋敷での生活はどうですか? 辺境伯様、いつもはこんなだけど根は優しい方なんです。何かあっても大目に見てやってくださいね」

「もう辺境伯様ったら全然笑わないから! ぶっきらぼうすぎですよ!」

「辺境伯様、愛想尽かされないよう頑張ってくださいね! ファイトですよ!」

「こんなに素敵な方が来てくれたんですから! 絶対に手放しちゃダメですからね!」

「奥様、何かお困りな事はありませんか? 私達奥様の事でしたら喜んで何でも致しますよ!」


 おいおいちょっと待て、俺一度に何人もの話を一発で聞ける聖徳太子じゃないんだから一人ずつ順番にお願いします。てかパワフルすぎだろここの領民さん達。あ、いや、それだけ元気がなくちゃここに住めないって事なのか?


「夫人~! うちの銭湯にいらっしゃいませんか~?」


 と、遠くから聞こえてきた。

 え、銭湯!! 銭湯に行けるのか!!


「ヴィル! ヴィル! 銭湯行きたいです! 入らないから! 見るだけ!!」

「……」

「銭湯来てくださるんですか! どうぞどうぞ!」

「お腹空いてませんか? 何でも作っちゃいますよ!」

「あの銭湯は本当に凄いんですよ!」


 お、おぉ……勢いが凄い。そんなにすごい銭湯なのか。

 けど隣の人は、はぁぁぁぁぁぁぁぁ、という深いため息をしていて。もしかして、ヴィル、領民の皆さんが来ることを予測してた?

 ……けど、坊ちゃん?


「あいつが言う事は真に受けるな、いいな」

「え?」

「いいな」

「……はい」


 あいつ、とはさっき銭湯に来ませんかって言ってた人かな。遠いからちゃんと見えなかったけど。

 けどなんか、いつも以上に力入ってたんだが。


「どーぞどーぞ!」


 と、目の前にぞろぞろいた領民の皆さんが道を作って両側に下がったのは面白かったけど。

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