上 下
21 / 81

◇21 熱中症には気を付けましょう

しおりを挟む
 夏が本格的になってきた。

 今までは猛暑で死ぬほど暑かったけど、ここはそんなに暑くない。というか、何もしてないから、てのもあるかもしれないけど。

 使用人達はテキパキと動いてるしずっと雪だったからいきなりの夏で大変かも。

 たまにかき氷屋さんをやってるけど、でもあれは時間がかかるんだよな。何かいい案はないだろうか。……あ、


「なぁ、ピモ。アレってあるのか?」

「あれ、ですか」

「そう、――」


 と、いうことでキッチンにレッツゴー!


 まぁ、言わずもがな。料理長達に驚かれた。キッチンの入り口から頭をひょっこり出した瞬間に気づかれ、集まってきてしまった。すまんな。

 けど、俺は食べたい。そしてみんなにも食べてもらいたい。だから、レシピを書いて持ってきた。


「料理長、後でこれ作ってくれない?」

「これ、ですか」

「そう、これ!」


 その名も!


「……アイス、クリーム?」


 夏に食べるデザート、アイスクリームである!!

 みんな忙しいのにこんなお願いしちゃっていいのか分からないけど、食べたいものはしょうがない。


「冷たくて美味しいんだ。だからこれでみんなで夏を乗り切ろう!」

「お、奥様……」

「我々のことを、こんなにもお考えくださっていたなんて……」


 あの、目、うるうるさせなくていいから。なんかいつもこのパターンな気がするのは気のせいか?


「わかりました! 料理長の名にかけて、アイスクリームを作らせていただきます!!」

「火とか使うから暑いと思うけど、お願いね」

「かしこまりました!」


 よし、これでみんなにアイスクリームが振る舞える!

 え、どうしてアイスの作り方知ってるって? バイト先で作らされただけだよ。けどここで役立ってよかった。感謝しとこう。

 そういえばこれ、首都の離宮でも食ってたけど、あいつら大丈夫かな。ほら、離宮の使用人達。一応アイスの作り方伝授したけどさ。いつもヒーヒー言いながら俺のところに来てはアイス食ってたしな。今生きてるか?


「そういえば、ピモ、首都の方にうちのタウンハウスってあるのか?」

「ございますよ。使用人達が管理しています。と言っても旦那様はそちらには滅多に行きませんからあまり使っておりません」

「そっかぁ、じゃあそっちの使用人達は今頃汗水ダラダラで働いてるってことだよな」

「まぁ、そうなります、ね」

「熱中症とかで倒れたりしちゃうよな……」


 俺も首都にいたからよく分かる。すっごく暑くて何もしてなくても目回すくらい暑かった。そんな中で仕事してるわけだし……なんか、可哀想だよな。

 と言っても。アイスをそっちに運んでやることはできない。暑すぎて移動中溶けちゃう可能性もある。なら、どうしたものか。あ、でも氷をあっちに運ぶ時どうしてるんだろ。それ後で聞いてみよう。

 でも、アイスだけだとなぁ。みんなそれぞれ好き嫌いというものがあるから、もう一つ何かあったほうがいいよな。

 熱中症対策……熱中症対策……冷やして美味しい……あっ。あった。


「ピモ、次は小豆あずきと寒天!」

「かっかしこまりました!」


 すまんな、ピモ。色々働かせちまって。あと、キッチンのみんなも。けど、夏を乗り切るために必要だし。

 俺も手伝わないとな。とは思ったけど、中に入れてもらえなかった。レシピを書くぐらいしか。ちくしょう、仲間はずれにしやがって。

 ほぼ全員が夕飯そっちのけで参加したから、もちろんキッチンの中は甘い匂いで充満した。


「……仕事は?」

「もちろん、我々にとても良くしてくださっている奥様に食べていただくのですから最善を尽くしますのでご安心ください。お夕飯、楽しみにしていてくださいね」

「あ、うん」


 いいのか、これ。今更なんだけど。てか、頼んだの俺だから行っちゃダメか。

 けど、換気扇とかで外にこの匂い出てるから、外の奴とかは今何作ってんだ? って疑問に思うだろうな。



 そして数時間後、外に出ていたヴィルが帰ってきた。白ヒョウについての調査だったらしい。


「ヴィ~ルっ! おかえりなさいっ!」

「……あぁ。どうした」


 抱きつこうとした俺の頭を掴み防がれてしまった。汗臭いぞ、って。まぁ外に行ってきたんだから汗はかくわな。俺気にしないけど。

 でも、やけにテンションの高い俺を不審がってるのか? まぁいいけど。でも汗かいてるなら食べさせてやったほうがいいよな。


「片付けとか終わったら一緒にお茶しませんか? バラの間で」

「……あぁ、分かった」


 なーんか不満気。なに、疑ってんの? 聞かないけど。外から帰ってきてお疲れだろうし。

 ヴィル、甘いものは普通に食べるんだよな。だからどっちもいけると思うんだけど、どうだろ。


「奥様、紅茶はいかがいたしますか」

「アールグレイかな」

「かしこまりました」


 俺の好きなお茶なんだけど、相性は分からん。そんなにお茶は詳しくないし。ここはお茶は作ってないから外からのお取り寄せになってるしね。いろんなもの、ってなると大変だからアールグレイばっか飲んでる感じ。


 早く来ないかな~、ってバラの間で待ってたら、来た。忙しいのにすまんね。俺の都合に合わせてもらって。でも食べてもらいたかったから仕方ない。


「それで、何を企んでるんだ」

「企んでるなんて失礼な。自分の旦那様とお茶しちゃいけないんですか?」

「いや、そんなことはないが」


 なんて言いながら椅子に座ってきた。まぁ、企んではいるんだが。

 ……てか、本当に絵になるな。今までも何回もここで一緒にお茶したけどさ、そのたびに思うんだよ。こんなイケメンがここに座ってるだけで絵になっちゃうんだよ。ほら、背景が花じゃん? もう最高だよな。そういうとこズルい。

 ……何馬鹿なこと言ってるんだって言われそうだから絶対顔には出さないけど。

 そのタイミングで、持ってきてくれた。俺の頼んだ、料理長の自信作。

 実はもう俺は味見済み。美味しかったから、多分大丈夫だと思う。ヴィルの口に合えばいいんだけど……


「……これは?」

「アイスクリーム、こっちは水ようかん」

「首都で食べてたのか」

「はい。冷たくて美味しいですよ」


 どーぞ食べてみてください、と勧め、まずはアイスクリームにスプーンを付けたヴィル。やっぱりこの黒っぽいのには見た目的に抵抗があるか?

 一口食べたヴィルの反応は……うん、良かったみたい。顔に出てる。少しだけだけど。


「……甘いな」

「美味しいでしょ」

「あぁ、冷たくて美味しい。生クリームと、あと卵か」

「はい、牛乳も入ってます」


 一口食べただけで入ってるものを当てるとは。いや、分かりやすいか?

 そして、隣のもう一つ。こっちは、こしあんの水ようかん。だから切り口も黒一色だから見た目からはよく分からない。


「これ、は……」

「まずは食べてみてください」

「……」


 そーっと、フォークで一口サイズに。そして、刺して、口の中に。

 お、すごく驚いてる。そりゃそうだ。見た目だけでは全然分からないのだから。まぁ、つぶあんだったら分かったか。


「あんこか……舌触りがいい。甘さもちょうどいい。あんこにこんな食べ方があったのか」

「冷やして食べたら美味しいでしょ。これ、どっちも熱中症対策になるんです」

「対策?」

「アイスの方は体を冷やしてくれますし、水ようかんに使われてるあんこの材料、小豆あずきは暑さ対策のための栄養素が含まれていますから、食べれば熱中症になる確率が下がります。
 あ、一回食べただけじゃ効きませんから、おやつ程度で食べるくらいがちょうどいいですよ」

「そうか……」

「だから、首都のタウンハウスにいる使用人達に送って欲しいんです」

「タウンハウスの奴らに?」

「首都の暑さは俺よく知ってますから。余計なお世話かもしれませんけど、どうです?」


 ん~、出過ぎたマネになっちゃったかな。奥さんってお仕事しないのが普通ってピモが言ってたし。やっぱり言わない方が……


「それはいい考えだ。用意させよう。あと、領民の奴らにも用意してやってくれ。商会の仕事で力仕事をしている奴らを中心に。たまに倒れる奴がいるからな。これで対策を打てる」


 そっか、そっちも大変だよね。汗水たらして氷とかたくさん運んでるだろうし。いつもお疲れ様です。


「じゃあ、料理長達は大仕事?」

「簡単な作業は他の使用人達に任せる。何時もの作業は簡単に終わらせていいと伝えてくれ」


 近くの使用人にそう伝えていて。あと材料だね。そっちも用意しなきゃ。ごめんな、業者の人達。結構多いから重労働だろ。

 と、思っていたら頭、撫でられた。最近これ多いな。


「白ヒョウの件もあったし、これでここの領地も少しずつ豊かになっていく。生活水準が少しずつ上がるだろうな」

「なるほど。貢献できました?」

「あぁ、大いに。本来妻は仕事をしないはずなんだが、うちの妻は言っても聞かんから仕方ないな」

「あは、大人しく出来ない性格です」

「だろうな。だから見ていないと危なっかしい。だから近くにいてくれ」


 と、キスをされた。好きだよな、キス。俺は別にいいけど。なんか甘いのはアイスと水ようかん食べたからか。

 まぁ、アイスと水ようかんの件はこれでうまくいけばいいんだけど……どうなるだろ。まぁ、うまくいくだろ。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

【R18】幼馴染の魔王と勇者が、当然のようにいちゃいちゃして幸せになる話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

【完結】異世界でも変わらずクズだった俺だが気にしない! クズは生きてちゃダメ? 追放? だから出て行ったのになんで執着されてんの俺!

迷路を跳ぶ狐
BL
 ある日、いろいろ行き詰まってぼーっと街を歩いていた俺は、気づいたら異世界に召喚されていた。  しかし、この世界でもやっぱり俺はクズだったらしい。  ハズレだったと言われ、地下牢に押し込められて、せめて何かの役に立たないかと調べられる日々。ひどくね?  ハズレだって言うなら、そっちだってハズレだろーが!!  俺だってこんなクズ世界来たくなかったよ!  だが、こんなところでも来ちゃったんだから仕方ない。せっかくだから異世界生活を満喫してやる!  そんな風に決意して、成り行きで同行者になった男と一緒に異世界を歩き出した。  魔獣に追いかけられたり、素材を売ったり、冒険者になろうとしてみたり……やたらくっついてくる同行者がたまに危ない発言をしたり引くほど過保護だったりするが、思っていたより楽しいぞ!  R18は保険です。

二人の公爵令嬢 どうやら愛されるのはひとりだけのようです

矢野りと
恋愛
ある日、マーコック公爵家の屋敷から一歳になったばかりの娘の姿が忽然と消えた。 それから十六年後、リディアは自分が公爵令嬢だと知る。 本当の家族と感動の再会を果たし、温かく迎え入れられたリディア。 しかし、公爵家には自分と同じ年齢、同じ髪の色、同じ瞳の子がすでにいた。その子はリディアの身代わりとして縁戚から引き取られた養女だった。 『シャロンと申します、お姉様』 彼女が口にしたのは、両親が生まれたばかりのリディアに贈ったはずの名だった。 家族の愛情も本当の名前も婚約者も、すでにその子のものだと気づくのに時間は掛からなかった。 自分の居場所を見つけられず、葛藤するリディア。 『……今更見つかるなんて……』 ある晩、母である公爵夫人の本音を聞いてしまい、リディアは家族と距離を置こうと決意する。  これ以上、傷つくのは嫌だから……。 けれども、公爵家を出たリディアを家族はそっとしておいてはくれず……。 ――どうして誘拐されたのか、誰にひとりだけ愛されるのか。それぞれの事情が絡み合っていく。 ◇家族との関係に悩みながらも、自分らしく生きようと奮闘するリディア。そんな彼女が自分の居場所を見つけるお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※作品の内容が合わない時は、そっと閉じていただければ幸いです(_ _) ※感想欄のネタバレ配慮はありません。 ※執筆中は余裕がないため、感想への返信はお礼のみになっておりますm(_ _;)m

私が一番嫌いな言葉。それは、番です!

水無月あん
恋愛
獣人と人が住む国で、ララベルが一番嫌う言葉、それは番。というのも、大好きな親戚のミナリア姉様が結婚相手の王子に、「番が現れた」という理由で結婚をとりやめられたから。それからというのも、番という言葉が一番嫌いになったララベル。そんなララベルを大切に囲い込むのが幼馴染のルーファス。ルーファスは竜の獣人だけれど、番は現れるのか……?  色々鈍いヒロインと、溺愛する幼馴染のお話です。 猛暑でへろへろのため、とにかく、気分転換したくて書きました。とはいえ、涼しさが得られるお話ではありません💦 暑さがおさまるころに終わる予定のお話です。 いつもながらご都合主義で、ゆるい設定です。お気軽に読んでくださったら幸いです。

魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます

オカメ颯記
BL
田舎の王国出身のランドルフ・コンラートは、小さいころに自分を養子に出した実家に呼び戻される。行方不明になった兄弟の身代わりとなって、魔道学園に通ってほしいというのだ。 魔法なんて全く使えない抗議したものの、丸め込まれたランドルフはデリン大公家の公子ローレンスとして学園に復学することになる。無口でおとなしいという触れ込みの兄弟は、学園では悪役令息としてわがままにふるまっていた。顔も名前も知らない知人たちに囲まれて、因縁をつけられたり、王族を殴り倒したり。同室の相棒には偽物であることをすぐに看破されてしまうし、どうやって学園生活をおくればいいのか。混乱の中で、何の情報もないまま、王子たちの勢力争いに巻き込まれていく。

悪役令嬢の選んだ末路〜嫌われ妻は愛する夫に復讐を果たします〜

ノルジャン
恋愛
モアーナは夫のオセローに嫌われていた。夫には白い結婚を続け、お互いに愛人をつくろうと言われたのだった。それでも彼女はオセローを愛していた。だが自尊心の強いモアーナはやはり結婚生活に耐えられず、愛してくれない夫に復讐を果たす。その復讐とは……? ※残酷な描写あり ⭐︎6話からマリー、9話目からオセロー視点で完結。 ムーンライトノベルズ からの転載です。

虐げられ続けてきたお嬢様、全てを踏み台に幸せになることにしました。

ラディ
恋愛
 一つ違いの姉と比べられる為に、愚かであることを強制され矯正されて育った妹。  家族からだけではなく、侍女や使用人からも虐げられ弄ばれ続けてきた。  劣悪こそが彼女と標準となっていたある日。  一人の男が現れる。  彼女の人生は彼の登場により一変する。  この機を逃さぬよう、彼女は。  幸せになることに、決めた。 ■完結しました! 現在はルビ振りを調整中です! ■第14回恋愛小説大賞99位でした! 応援ありがとうございました! ■感想や御要望などお気軽にどうぞ! ■エールやいいねも励みになります! ■こちらの他にいくつか話を書いてますのでよろしければ、登録コンテンツから是非に。 ※一部サブタイトルが文字化けで表示されているのは演出上の仕様です。お使いの端末、表示されているページは正常です。

処理中です...