バトル・オブ・シティ

如月久

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セントラル・シティ

6.ギャンブルリゾート

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「すごい勢いだな」
 リョウにとって、ヨッシーが何より大事にしているマチの人口や収支状況はもはや大きな意味を持っていなかったが、素直にヨッシーのつくったマチの勢いには驚いた。
「いや、それがな…」
 しかし、ヨッシーは眉を曇らせ、「シティ」のホームページを表示した。そこには昨日まではなかった「街のベストテン」という項目が新たに登場していた。
「ヨシダ・シティ」は第2位だった。1位は「プレミアム・シティ」で、人口は50万人台に乗り、シティの上のカテゴリー「中核市(セントラル・シティ)」になっていた。
「50万とはけた違いだな。この前聞いた臨海都市だろ。確か昨日は20万人って言ってなかったっけ。あれから20時間くらい経ってるから、たった20年で人口が倍以上になったってことか」
「ああ、あのあと、奴の港が特定重要港湾の指定を受けて、大規模な港湾工事が始まった。完成後は巨大なタンカーやコンテナ船や飼料船がどんどん入ってくるようになった。港が整備されると、近くに物流拠点ができた。とてつもなくデカいトラックヤードができて、あっという間に高速のインターも整備された。港には働く人間もたくさんいるんだろう。人口の伸びは俺の街とは比較にならなかったよ。交流人口で外貨を稼ごうという俺の作戦は、もしかしたら、えらい遠回りだったのかもしれない」
「それでも2位なんて凄いじゃないか。全体の参加者もかなり増えた中での成績なんだろう?」
「プレーヤーはもう1万人を超えているはずだよ。どんどん増えてくるから、確認するのが面倒になってきた」
 リョウは慄然とした。昨日までのリョウや今のヨッシーみたいな人間が、あと1万人もいるのだ。全員が全員、同じようにハマっているとは限らないが、少なくとも数千人は、日常生活に支障をきたすほどのめり込んでいるだろう。リョウは強烈な悪寒を覚えた。
「ヨッシー、飯を食いに行こう。まともなモノ食べてないだろう」
 リョウはとっさにヨッシーの腕をつかんだ。しかし、ヨッシーはすぐにその手を邪険に振り払った。
「待てよ。今大事なところなんだ。大きなホテルチェーンの誘致が、あと一歩のところなんだよ。実現すれば、客室5百以上の巨大ホテルが建つ。来年は郊外に新しい大学も建つんだ。やることが山ほどある。ちょっと時間の進行を遅らせて対応しているくらいだ。飯を食いに出かけている時間はないよ」
「ダメだよ、ヨッシー。俺も今日、ジャニスに言われて気付いたんだ。こんな生活、人間らしくない。ゲームは飯を食わないし、休息の必要もないけど、実際のお前は、飯を食って呼吸をして、睡眠も必要なんだよ。少し休めよ」
「もう少しだけ待ってくれよ。『プレミアム』には負けたくない。今はダブルスコアの差がついているけど、カジノが軌道に乗って、収入が上がりだせば、どんどん新しい手を打てる。俺の街には、今や何でもある。どんな産業も興した。ないのは鉱業くらいだ。あとは、これをどんどん大きくしていくだけなんだ。立地条件の不利はアイデアで補ってきた。カジノだってそうさ。でも、俺の街でカジノが認可されたから、明日までには他の街にもカジノが次々と出来るだろう。そうなれば、旨味は減る。がっぽり稼げるのは、オンリー・ワンである今のうちだけなんだよ。なのに、今止まってしまったら、『プレミアム』に追いつくどころか、下からやってくる連中にも追い越されてしまう。せっかく開拓したギャンブル・リゾートという分野を、他の連中に食い荒らされるのを黙って見ていろというか」
 ヨッシーの目は血走っていた。リョウは言うべき言葉を失い、黙ってヨッシーの白濁した瞳をじっと見ていた。
「済まない」
 リョウの目から思わず涙がこぼれた。
「俺がこんなゲームに誘ったばかりに」
 リョウの涙を見て、ヨッシーは少しだけ真顔になった。
「何言ってんだよ、随分と深刻だな。まるで俺が不治の病にでもかかったみたいじゃないか。大丈夫だって、もう少ししたら、カジノが軌道に乗って街は安定期に入る。その時には、ちゃんと休憩も取るし、学校にも行く。約束するよ」
 そう言って、ヨッシーは再び画面に向かった。
 しかし、翌日もヨッシーは学校に姿を見せなかった。

 リョウはヨッシーの携帯に電話を入れたが、電源を切っていた。だが、午後にはメールが1通だけ届いた。
<中核市に格上げ成功。2位キープで追い上げも順調。トップとの差は詰まっている。今日はちゃんと飯食った>
 愛想のない文面から推察するに、後半の部分は恐らく嘘だ。リョウはバイトが終わったら、夜にまたヨッシーの部屋に寄ってみるつもりだった。このゲームに誘ったのは自分の責任だ。何とか「こちらの世界」に連れ戻さなければならない。

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