11 / 69
第10話
しおりを挟む
「大丈夫かい、お菊さん」
近藤は、腕の中で震えている慧に問いかけた。
「え? あ、はい……」
慧の返事はどこかうつろだ。顔は青白く、今にも泣きだしそうなほど瞳に涙をためている。
「お菊さん、ちょっと時間あるかい?」
近藤は穏やかな口調で尋ねる。
「え? はい。少しなら……」
そう言って顔を上げた慧の頭をなでて、近藤は慧の手を引いた。
「うわぁ」
目の前に広がる景色に、慧は驚嘆の声を上げた。
青空の下、辺り一面、純白の花が咲き誇っている。
景色を邪魔する建物など一切なく、どこまでも花の絨毯が続き、春の温かい風に吹かれ、花びらが舞う。
「今まで、こんなきれいな景色見たことないです」
「大げさだなお菊さんは」
近藤が豪快に笑う。
「いえ、本当に。綺麗です……」
慧はうっとりと辺りを見つめた。
都会育ちなだけあって、今まであまり自然の光景を目にすることがなかった。
慧は心を奪われ、瞬きをするのも忘れて目の前の景色に見入っていた。
「ああ、本当に綺麗だな」
近藤は慧の横に並び呟いた。
しばらくして、慧は近藤に視線を移し問いかけた。
「あの、ずっと気になってたんですけど、その腰にさしてるのって……」
「刀か?」
「はい……」
男ならきっと誰しも興味を持つ所だろう。
なにせこの時代の戦闘器具だ。
それに慧は、大のゲーム好きで、特に侍が出てくる戦闘ゲームに目がなかった。
「その、本物ですよね……?」
近藤は一瞬目を丸くして、その後豪快に笑った。
「刀に、本物も偽物もあるか?」
「そ、そうですよね。何言っちゃってるんだろう、まったく」
そうは言いながらも、本物の刀なんて普段絶対に見れないものだからまじまじと見てしまう。
そんな慧の様子を見て、近藤は微笑んだ。
「持ってみるか?」
「え?いんですか!」
「さやは抜いちゃだめだぞ」
「はい!」
(やばい、僕、近藤勇の刀を持った人って自慢できちゃう)
近藤は腰から刀を抜き慧に手渡す。
すると、同時に慧の腕が下に沈んだ。
「あ……、重い!」
「まあ、お菊さんの様な華奢な子には、ちと重いかもな」
慧から刀を受け取った近藤は、一歩前に出て刀を振った。
「俺はこの刀で、日本を守るんだ」
風を切る音が耳に響く。
「異国から、不逞浪士から」
刀を振っている人物を生で見たのは初めてだった。
鍛え上げられた腕から振り下ろされる刀の音が予想以上に耳に響く。
ゲームとはまるで違う、張り詰めた空気。
ぶれない太刀筋から伝わる芯の強さ。
「かっこいい」
「……そうか?」
慧が無意識に漏らした声に、近藤は照れくさく笑った。
近藤は、腕の中で震えている慧に問いかけた。
「え? あ、はい……」
慧の返事はどこかうつろだ。顔は青白く、今にも泣きだしそうなほど瞳に涙をためている。
「お菊さん、ちょっと時間あるかい?」
近藤は穏やかな口調で尋ねる。
「え? はい。少しなら……」
そう言って顔を上げた慧の頭をなでて、近藤は慧の手を引いた。
「うわぁ」
目の前に広がる景色に、慧は驚嘆の声を上げた。
青空の下、辺り一面、純白の花が咲き誇っている。
景色を邪魔する建物など一切なく、どこまでも花の絨毯が続き、春の温かい風に吹かれ、花びらが舞う。
「今まで、こんなきれいな景色見たことないです」
「大げさだなお菊さんは」
近藤が豪快に笑う。
「いえ、本当に。綺麗です……」
慧はうっとりと辺りを見つめた。
都会育ちなだけあって、今まであまり自然の光景を目にすることがなかった。
慧は心を奪われ、瞬きをするのも忘れて目の前の景色に見入っていた。
「ああ、本当に綺麗だな」
近藤は慧の横に並び呟いた。
しばらくして、慧は近藤に視線を移し問いかけた。
「あの、ずっと気になってたんですけど、その腰にさしてるのって……」
「刀か?」
「はい……」
男ならきっと誰しも興味を持つ所だろう。
なにせこの時代の戦闘器具だ。
それに慧は、大のゲーム好きで、特に侍が出てくる戦闘ゲームに目がなかった。
「その、本物ですよね……?」
近藤は一瞬目を丸くして、その後豪快に笑った。
「刀に、本物も偽物もあるか?」
「そ、そうですよね。何言っちゃってるんだろう、まったく」
そうは言いながらも、本物の刀なんて普段絶対に見れないものだからまじまじと見てしまう。
そんな慧の様子を見て、近藤は微笑んだ。
「持ってみるか?」
「え?いんですか!」
「さやは抜いちゃだめだぞ」
「はい!」
(やばい、僕、近藤勇の刀を持った人って自慢できちゃう)
近藤は腰から刀を抜き慧に手渡す。
すると、同時に慧の腕が下に沈んだ。
「あ……、重い!」
「まあ、お菊さんの様な華奢な子には、ちと重いかもな」
慧から刀を受け取った近藤は、一歩前に出て刀を振った。
「俺はこの刀で、日本を守るんだ」
風を切る音が耳に響く。
「異国から、不逞浪士から」
刀を振っている人物を生で見たのは初めてだった。
鍛え上げられた腕から振り下ろされる刀の音が予想以上に耳に響く。
ゲームとはまるで違う、張り詰めた空気。
ぶれない太刀筋から伝わる芯の強さ。
「かっこいい」
「……そうか?」
慧が無意識に漏らした声に、近藤は照れくさく笑った。
10
お気に入りに追加
145
あなたにおすすめの小説
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます
猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」
「いや、するわけないだろ!」
相川優也(25)
主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。
碧スバル(21)
指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。
「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」
「スバル、お前なにいってんの……?」
冗談? 本気? 二人の結末は?
美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
俺にとってはあなたが運命でした
ハル
BL
第2次性が浸透し、αを引き付ける発情期があるΩへの差別が医療の発達により緩和され始めた社会
βの少し人付き合いが苦手で友人がいないだけの平凡な大学生、浅野瑞穂
彼は一人暮らしをしていたが、コンビニ生活を母に知られ実家に戻される。
その隣に引っ越してきたαΩ夫夫、嵯峨彰彦と菜桜、αの子供、理人と香菜と出会い、彼らと交流を深める。
それと同時に、彼ら家族が頼りにする彰彦の幼馴染で同僚である遠月晴哉とも親睦を深め、やがて2人は惹かれ合う。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる