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第一章

第12話

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  伊藤がドアに手をかざすと、カチッと解除音がなり、扉が開く。

ステンドグラスから入る日差しに目を眩らませながらも、玲子は伊藤の後を追って廊下を歩き、数人のメイドに見送られて屋敷を出た。

「いってらっしゃいませ」

伊藤から通学バックを受け取り、外に停まってあった車に乗り込む。

車は大学に向けてゆっくりと発車した。





  大学の近くに止まると悪目立ちすると思い、玲子は校門から少し離れた場所で車を停めさせた。

「今日は、三限までの授業とお聞きしたので、終わり次第迎えに参ります」

車をおりた玲子に運転手が声をかける。

玲子はその声を無視して大学へと歩いた。

深呼吸して、いつもの教室に入ると、端の席に一郎の姿があった。

「一郎……」

玲子は一郎へと駆け寄った。

「おはよう一郎」

「玲子ちゃん……おはよう。久しぶりだね」

一郎は、目の前に玲子が居ることが信じられないようで何度も瞬きを繰り返す。

「うん、」

「ずっと連絡取れなかったから、心配してた。何かあった?」

「......うん、ちょっとね」

ちょっと所ではなく、かなり色々あった。
一郎を直視出来ず、玲子は視線を逸らす。


一郎はそれ以上、聞かなかった。

一郎は、玲子と連絡が取れなかった1週間、心配して、何度も家に行った。
本当は問い詰めたかった。なぜ、連絡1つよこしてくれなかったのかと。
けれど、玲子の表情を見て一郎は口を閉じた。これ以上、踏み込んで欲しくないのだと察したのだ。

「隣座りなよ」

間もなくして、授業が始まった。

休憩時間も玲子と一郎は一緒に過ごしたが、何だかいつもよりぎこちなかった。それからあっという間に時間は過ぎ、気づけば、三限の終了チャイムが鳴り響いていた。

玲子と一郎は教室を出て、校門までの道のりを歩く。

足取りが重く感じる。
帰らなければならないのだろうか、あそこに。
昨日のことを思い出すと、玲子は体の震えが止まらなくなった。
一瞬、一郎に相談してみようかと考えたが、一体どう説明すればいいのだろう。
自分が西園寺グループの人間であることを隠しておきながら、今更……。
それに、昨日は無理やりとはいえ、辰美と許されないことをしてしまった。

隣で歩いていた一郎との距離がいつの間にか開いている。

「一郎、あのさ」

玲子は前を歩いている一郎に向かって叫んだ。

「なに?玲子ちゃん」

一郎が振り向いて玲子に尋ねる。

「あのさ……」





“ このまま、2人で逃げない?”








「ああ、いた」

胸をえぐる声がした。振り向くと、辰美が爽やかな笑顔を浮かべて立っている。

「どうしてここに……」

辰美は、玲子達との距離を詰める。

「君が一郎君か」

辰美は一郎を上から見下ろす。

悪い予感がした玲子は一郎の手を握り引っ張った。

「一郎、行こう」

辰美が玲子の手を掴む。

そして、ポケットから名刺を出して一郎の前に差し出した。

「東西辰美です。以後お見知り置きを」

「え、は……はい」

一郎は困惑しながらも差し出された名刺を受け取る。

「じゃあ、今日のところはこれで。行くよ、お嬢」

辰美はそう言って、踵を返し歩き出す。その背中を、玲子は睨みつけて突っ立っていた。

「昨日のこと一郎君に言ってもいいけど」

辰美は立ち止まり、振り向かずに玲子に声をかける。

昨日のこと、というのは思い出したくもない辰美と体を重ねてしまったことだろう。

脅しの道具に使うなんて、汚い奴だと思うが、一郎が目の前にいる以上、何も言い返せない。

「一郎……、ごめん行くね」

「う、うん」

玲子は一郎を置いて辰美の後を歩いた。

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