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第2章
第36話
しおりを挟む精霊の森の中に入ると、そこはまさに絵本に描かれている世界が広がっていた。
「うわあ。これ本に出てきたキノコだ」
森の中には絵本に描かれていた植物が生えていたりと、まるで自分があの絵本の世界に入り込んでいるかのような錯覚にとらわれる。
「ノア様、あまり一人でうろつかないでくださいっ」
興奮気味にその場を走りまわっているノアに対して、リーヌは呆れながら後ろをついてくる。その後ろにはがっちりとした強面の護衛もついてきていて、常にノアを監視している。
「えー、息抜きに来てるんだから。暫く一人にしてよ。お願いリーヌ」
人に監視され続けるのは、あまり良い気がしない。せっかく羽を伸ばしに来たのだから、何の気兼ねもなく楽しみたいのだ。
ノアがそうお願いすると、リーヌは顎に手を当てて黙り込み、苦虫を噛み潰したような顔をしてノアを見た。
「……あまり遠くには行かないでくださいね」
リーヌはノアが何か問題を起こすことを恐れているのだろう。
「私達は、ここにいますので何かあれば言ってください」
「はいはい」
ノアはそう軽く返事をしてリーヌの元を離れた。
「まったく。心配性なんだよな、リーヌは」
そう独り言ちながら、ノアは精霊の森の中を歩き回った。空気が澄んでいて、居心地がいい。森の中が人で賑わっているのは、ブロン国とノワール国の国境を無くしたからだろう。自由に行き来できるようになった国民達が、休憩場所として活用しているのだ。
ノアとして生きると決めた時は、ブロン国とノワール国の仲も悪く、一時はどうなる事かと思っていたが、こうして笑っている人たちを見ると、ルーシュの願いが少しずつ叶い始めているのだと実感できる。
(頑張ってきてよかったな、ルーシュ)
この話はルーシュとメアリの元に帰ってから、絶対に話してやろうと思った。
それからノアは、一通り精霊の森の中を歩き回った。
あっという間に時間が過ぎ、遠くに夕日が昇り始める。
「そろそろ戻るか」
リーヌが、今か今かと待っているに違いない。久しぶりに羽も伸ばせたし、満足の行く休暇だった。
ノアは腰を上げ、リーヌの元へと歩いた。
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