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第2章
第29話
しおりを挟むそれに比べて、自分はどうだろうかとノアは考えた。毎日、体のだるさに悩み、ルーシュの事は少ししか頭になかった。
「最低だな俺は……」
ノアはぽつりとつぶやいて俯いた。
夫婦関係がうまくいっていないのは、もしかしたら自分に責任があるのではないか、と最近ノアは思っていた。もっと、自分に余裕のある人がルーシュと結婚していたら、こんな風に喧嘩をしたり、ルーシュに当たり散らかすこともなかったはずだ。
「ルーシュに比べたら、俺なんて。自分の事しか考えてない最低人間だ」
自分の事が本当に嫌いになりかけたその時、ダリルに両頬を手で挟まれて、上を向かされた。
「それでいいんです! お腹の中に、子どもがいるのにそんなに色々なことに気を回せるわけないじゃないですか! ノア様は、ノア様らしくいればいいんですよ」
「俺らしく……?」
「そう、ノア様らしく」
ダリルの言葉が、ノアの頭の中で反芻される。
子どもを授かったからには、立派な母親になろうと、毎日背伸びしていた部分もあった。子どもの為に努力するのは当たり前で、不安が襲ってきても強く構えていなければいけない。自分の母親の様に、子どもにとって太陽のような存在でいようと、生まれる前から身構えていた。
(俺らしくか。確かに、少し気負いすぎてたところもあったのかもしれないな‥‥‥)
妊娠をしてからは、つわりでうまく食事が取れないなどつまづくことばかりだったから、常に頑張ろうと気を張りすぎていた。
二児の母親、ダリルからの言葉で、ノアの呪縛が無事に解かれ、それまで感じていた重圧が、不思議とどこかに飛んでいったように、ノアの心は軽くなっていた。
それから、ノアは主に出産時の心配事を、ダリルに聞いた。ノアにとってダリルは、出産経験者の先輩で、そのアドバイスはとても為になるようなものばかりだった。
ダリル曰く、やはり出産のときの痛みはとてつもないらしい。言葉では言い表せない程だと言っていて、話を聞いて絶望に暮れたノアを励ましてくれた。
それからノアはマークと接して、抱き方や授乳の仕方などをダリルから教わり、三日後、ダリルは、マークと共にブロン国へと帰って行った。
せわしなく過ぎた三日間だったけれど、ダリルという頼れる友人ができたことが、ノアは何よりもうれしかった。
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