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第2章
第18話
しおりを挟む結婚式が終わり、町の祝福モードもようやく落ち着いてきた頃、ノアはとある場所に足を運んでいた。
金色のススキが揺れる、自然豊かな場所にぽつんと立つ孤児院のドアを開ければ、ノアに気づいた子供たちが一斉に飛びついてくる。
「ノアだ!」
「ノア! 元気だった?」
「私、結婚式に行ったんだよ! 気づいてくれた?」
わらわらと集まってきた子供たちが一斉に喋りかけてくる。ノアは膝を折り曲げて目線を合わし、一人一人の質問に丁寧に応えた。
「ああ、みんな来てくれてありがとうな」
ノアとルーシュの結婚式には、孤児院の子ども達も招待していた。かなり式場がせせこましくなってしまったが、それでもにぎやかで楽しかった。
しかし、一番結婚式に来てほしかった人物は、式場には現れてはくれなかったのだ。
「ねえ、シスターがいる場所分かる?」
ノアが尋ねると、子ども達は一斉に書斎のドアを指をさす。
「シスターなら、あっちでしごとしてるよ」
「そう。ありがとう」
ノアは子どもたちにお礼を言ってシスターの書斎に向かった。
ドアをノックすると、シスターの返事が返ってくる。
ノアがドアを開けると、シスターは驚いたように目を丸めた。
「ノ、ノア様……」
「お久しぶりです、シスター」
シスターとは、あのルーシュに勘違いされた事件の日以来会っていなかった。結婚式にも招待したのだが姿が見えず、もっと早くシスターと話したかったけれど、今の今までそれなりに忙しかった。
「あ、その……、ご結婚おめでとうございます。ドレス、とてもお似合いでした」
「え?」
シスターは深々と頭を下げた。結婚式に姿を見せなかったのに、何故自分のドレス姿を知っているのだろうとノアは首を傾げる。
「あの、招待してもらったのにやっぱり失礼かなって思って……。広場でのノア様のスピーチを聞きに行ったんです」
「ああ、そうでしたか」
結婚式の後、国民への挨拶の機会を設けてもらっていた。広場には結婚式に参加できなかったノワールの国民達が集まっていて、その中にシスターもいたという訳だ。
「ご立派でした、本当に。スピーチを聞きに行って良かったです」
シスターはノアの目を見据えて言った。
ノワールの国民への挨拶は、ルーシュと何日も頭を悩ませて考えたものだった。かつて敵だった自分を、ノワールの国民に受け入れてもらうためには何と言えばいいのか。最善の言葉を選ぶのに、かなりの時間を要した。
それでも、シスターがこう言ってくれているのだから、考えた甲斐はあったのだろう。
「あの、それから……、あの時は申し訳ありませんでした。ルーシュ様のあんなに怒った表情、私見たことがなくて……。あの後は大丈夫でしたか?」
あの時とは、きっとルーシュに無理やり排卵誘発剤を打たれた日の事だろう。
(あの後はしんどかったんだよな。ルーシュも俺の体力関係なく抱いてくるし……)
正直に言えば、全然大丈夫ではなかったのだが、今はこうして無事に式を挙げることができて幸せなのだから、もう今更だ。
「気にしないでください」
ノアは微笑み、それから、少し間をおいて今日ここに来た目的を切り出した。
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