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第1章

第15話

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 後ろから、地を這う様な低い声が聞こえたかと思えば、いきなりシスターと体を引き離される。



「ル、ルーシュ」


 ノアは痛いくらいにルーシュに手首を掴まれて、引き寄せられた。


「いつもの広間にいないと思ったら」


「痛いっ、ルーシュっ」


 あまりの痛みに、ルーシュの手を掴みながら訴えるが、ルーシュは全く聞いていない。



「失礼する」


 ノアの手首を強引に引っ張り、ルーシュは孤児院を後にした。



 
 

「ルーシュ! なにをそんなに怒ってるんだよっ。頼むから、話を聞いてくれ!」



 肩が抜けそうなくらい強引に歩かされ、部屋に帰るとリーヌが戸惑った様子で駆け寄ってきた。


「どうされました……」


「コイツに排卵誘発剤を打て。今すぐにだ」

「え、いや、しかし……」

 リーヌは一体何があったのだろうと、ルーシュとノアの顔を交互に見た。つい先日まで仲睦まじくしていた二人が、途端に険悪になっている。


「聞こえなかったか?」


 戸惑っているリーヌを、ルーシュが冷めた目で見下ろした。


「わ、分かりました」


 怯んでしまいそうなその威圧感に圧倒されたリーヌは駆け足で部屋を後にする。


「おいっ、排卵誘発剤ってなんだよっ」


 二人のやり取りを見て、ただならぬ雰囲気を感じたノアは、震える声で問いかけた。しかし、ルーシュから答えが返ってくることはない。



 ルーシュに握られた手を振りほどこうともがいていると、リーヌが息を切らして戻ってきた。手には、長方形の箱のようなものを抱えている。



「ほ、本当によろしんですね? ルーシュ様」


「ああ」


 リーヌは一息つくと、手に持っていた箱を開けた。


(注射器……?)


 中には、十センチ程度の細い注射器が一本入っている。リーヌはそれに紫色の液体を注入し始めた。



(あれを刺されるのか……?)


 色味からして危険が見て取れる。



「やだっ! 何だよあれ!」



 ノアの恐怖心はますます大きくなっていく。ルーシュから必死に逃れようともがくが、逆に抵抗を封じ込まれ、ベットに押さえつけられてしまう。



「ルーシュ様、そのままノア様を押さえつけていてください」



 パニックに陥ったノアの双眸からは涙が流れていた。

 これから、どんなことをされるのか。

 漠然とした恐怖がノアを蝕む。


「やめろっ、ルーシュ!」


 そう叫んだのと同時に腕に鋭い痛みが走った。そこから、液体が入ってきているのが分かる。


「あっ……」


 体の力が抜けていき、次第に頭もぼんやりとしていく。抵抗を見せなくなったノアを一瞥し、ルーシュは不安そうに様子を見ているリーヌを呼んだ。





「これから暫く、この部屋には誰も近づけるな」



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